[サイプラススペシャル]44 精密加工業界のリーディングカンパニー プレス加工の無限の可能性を追求

長野県諏訪市

太陽工業

 諏訪インターチェンジをおり、国道20号線を諏訪湖に向かって走ると左手に、白い壁面の建物が見える。建物の右側には、ブルーの軒と、道行く車を映すショールームのような大きなガラス窓が広がっている。1959年創業、精密金型、プレス、冷間鍛造を軸に諏訪の地で、発展を続ける太陽工業株式会社の本社である。

暮らしを支える

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 2008年11月に創業50周年を迎えた太陽工業株式会社も、今回の世界的な景気後退の影響を大きく受けた1社だ。2008年3月期には過去最高だった売上が、2009年3月期には19%落ち込んだ。しかし、「太陽工業の技術には自信があります」と語る小平社長の表情に、暗さはない。
 金属加工からスタートした太陽工業の現在の大きな柱は、デジタル家電向けの精密プレス部品である。DVDやデジタルカメラ、携帯電話などに使われる精密部品をプレス加工で開発製造している。取引先として「ソニーグループ」「パナソニック」「キヤノン」・・・の名前があがれば、私たちが日々お世話になっている家電は、太陽工業の部品の存在なしには考えられないと、気がつく。
 太陽工業は、私たちの暮らしの近くにある。

 また、「家電産業と業界が近くなってきている」という社長の言葉を裏付けるのが、自動車部品の製造分野への進出である。モデルチェンジ前のトヨタプリウスの部品として、4点の電池部品を納品していたが、新型プリウスには電池部品以外の受注もあって18点の部品が使われているという。家電の部品製造で培われた精密プレス加工技術が活きている。
taiyo-ind04.jpg 2004年に社長に就任した小平社長は、「私はまだまだ勉強中です」と照れながらも、「出来上がった製品はソニーやトヨタだが、自分が設計した部品が、今一番世の中で売れている製品に使われているなんて、技術者としてはこんなにうれしいことはない。」と言う社員と喜びを分かち合う。

 自動車製品の開発サイクルは家電業界に比べ長く、開発から量産までは2~3年かかる。また、常に完成度の高い部品を継続して提供することを求められるなど、検査や管理も家電と異なる。しかし、小平社長の「技術だけでもダメ、管理力だけでもダメです。これからは、家電の柱は堅持しつつ、自動車部品を二本目の柱として、取引先をひろげていきたい。」という前向きな言葉の中に、「太陽工業にしかできないこと」を追求し続けてきた技術開発のDNAを感じた。

「太陽工業グループ」で発揮するものづくりの力

 太陽工業は、諏訪市四賀の本社工場と中洲工場、更に茅野市に諏訪南工場を持つ。従業員は全部で263名。しかし、金型設計・製作、プレス加工、表面処理、組み立てまでの一貫製造体制を謳う太陽工業のものづくりの力には、太陽工業グループの存在を忘れるわけにはいかない。

 太陽工業グループは、太陽工業株式会社を中心に、メッキ部門を担当する「株式会社ハイライト」、金型のソフト開発と販売の「太陽メカトロニクス株式会社」、組立部門の「光電子株式会社」の4社からなり、いずれも太陽工業の本社工場敷地内に立地している。必要な情報は、社内LANで共有する、人事採用も一括で行い、人材の共有化を図るなど、それぞれが独立した組織でありながら、総勢370名の大きな「TAIYOテクニカルワールド」を形作っている。

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TAIYOテクニカルワールド~金型設計製作から納品まで

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 プレス部品の量産の決め手の一つは、金型設計・開発のスピードにある。これまで、切削加工で生産していた部品を低コストのプレス加工に置き換えようとしても、金型の設計製作に時間がかかっては、意味がない。商品サイクルが短い製品にあっては、「いかに早く高精度の金型を作るか」「製品化できるか」が、受注の鍵だ。ここで登場するのが、太陽工業が独自に開発した金型設計用CAD/CAMシステム、「TASCAM」(タスキャム)である。1984年に科学技術庁長官賞を受賞し、その後も進化を続けている。
 このシステムは、それ自体が太陽メカトロニクス株式会社から、販売されている商品でもある。自社で培った優れた運用ノウハウを公開することで、業界全体の底上げを考える企業姿勢の表れだ。加工素材の材質の多様化、金型素材の進歩も、研究開発部門で対応、「太陽工業にしかできないこと」への挑戦が続いている。

 この「TASCAM」を使う金型設計部門のメンバーは24名である。長さ500~1000mmくらいの金型であれば、受注から2~3週間で製品を形に出来るという。設計から初回試作品完成までは、世界でも指折りの速さ。スケジュール管理システムとの併用で製品のコストダウンに大きく貢献している。
taiyo-ind08.jpg  金型を作る工作部門のフロアには、最新のワイヤーカット放電加工機が並ぶ。1台数千万の機械が25台余り、24時間365日の稼動が可能だ。非常に静かで、清潔なフロア、半数は女性という職場でもある。
 組み込み部門に足を踏み入れると、ガラっと雰囲気が変わる。ひとりひとりの職人的ノウハウが際立つ部門という。ここで働くのはデータから、金型の形を読み取り、イメージできる力を持った技術者だ。「設計図を読む」という言葉が新鮮だ。ここでは、試作→調整→検証→調整と細かい作業が続く。最終調整を終えた金型が諏訪南工場の製造現場で使われている。

 諏訪南工場は、本社から国道20号線を走ること約30分。諏訪南インターチェンジから5分の林間工業団地内にある。部品搬送用の大型トラックの出入りも可能な広いスペースが確保され、屋根には太陽光発電のパネルが並ぶ。環境を意識した工場だ。
 実際の製造工程では、1.2mm厚さの銅板のプレス加工が行われていた。この生生産ラインの特徴はプレスと洗浄が連動していること。長さは20メートルほどだが、このなかで型抜きと第一洗浄、第二洗浄の工程を経て、乾燥までが自動化されている。梱包こそ、人の手が加わるが、製品を受け止めるコンテナも自動で交換され、積まれていく。
 別棟では、午後5時半をまわっても、大型のトランスファープレスと呼ばれる機械が稼動していた。この装置は最大50メートルの生産ラインを組むことができ、製品の仕様に合わせたプレスから梱包までの自動化が可能だ。
taiyo-ind07.jpg  ここで、プレス機そのものにも触れておきたい。「CNCプレス加工機」である。コンピュータ制御により、1回の上下動の間で、自由にスピードをコントロールでき、精緻な位置制御や、微妙な加圧もできる。工作機器メーカーと共同で開発されたというが、機械の構造による特性や加工ノウハウを熟知した太陽工業の開発スタッフの発想とノウハウが注ぎ込まれているのだ。1997年の誕生時から、業界内では画期的なプレス加工機として注目され、現在も進化し続けている。太陽工業を語るには、欠かせない。

 どの工程もコンピュータ化、自動化が進んでいる。最先端の技術の存在とともに、明るく丁寧な説明の言葉の端々に、モチベーションの高さとものづくりをささえるプライドが見える。

370の笑顔の挑戦

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 太陽工業の玄関には、太陽工業グループで働く全社員、370名の笑顔の写真が貼られている大きなモニュメントがある。昨年9月、創業50年を記念して作られた。370の、まさに太陽のような笑顔は、歴史の重みとともに、平均年齢34歳という数字が示す以上の、若さを伝える。創業記念の式典もこのモニュメントも、「常に新しいものを求め続けていけるような会社にしたい」「社員には前向きに伸びていって欲しい」との考えから、すべて若手社員に任されて実施されたという。

 社内には、若手を育てる場がいくつもある。50代の社員が指導者になって開かれる「技能塾」のほか、1年に1回の「(社内)技能オリンピック」もある。このときは、金型を組み立てる、金型を機械に取り付けて製品を作る、そのスピードや、安全性、正確さを競い、優秀者には、金銀銅の表彰をするそうだ。また、技術認定精度もある。製品の納入先であるトヨタやソニーグループなどからの応援要請には、若手技術者を積極的に派遣し、塑性加工のプロとして参加し、研鑽を積ませる。

 「若い社員は、諏訪の地にあって、自分が日本のブランドを支えている誇りを持ち、自分として譲れない技術を磨いて欲しい」と語る小平社長、太陽工業の次の礎がつくられていることを実感した。

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【取材日:2009年8月20日】

企業データ

太陽工業株式会社
長野県諏訪市四賀107 TEL:0266-58-7000
http://www.taiyo-ind.co.jp/