[サイプラススペシャル]46 一台一台特注「想いを込めた」レーザー装置 部品メーカーから一歩踏み出す「ブルーオーシャン戦略」

長野県上田市

堀内電機製作所

部品づくりの「高い技術力」が製造装置へ
限られた経営資源を「自社開発」に積極投資

 長野県内の多くのものづくり企業がそうであるように、堀内電機製作所の主力は「部品」だ。世界トップシェアを誇った国内パソコンメーカーの協力工場として、記憶装置やプリント基板の製造を行っている。
 しかし堀内電機は安定した部品から、あえて新しい分野に踏み込んでいった。それが「自社開発」だ。世界市場を視野に入れた「レーザー印字装置」や、少量多品種の「デスクトップ型製造ロボット」。「一台一台に想いを込めた」これらの商品の核になっているのは、部品作りで培った技術力。
競争相手が多い市場から抜け出し、目指すは競争相手がいない「青い海=ブルーオーシャン」だ。

上田工場が目指す「青い海」とは?

「知的財産で勝負」HITに込められた想い

horiuchielectronics03.jpg

 緑・赤・青で描かれた'HIT'のロゴマーク。
 堀内電機製作所が開発した自社製品だ。

 卓上サイズの「産業用ロボット」や、電子部品の「レーザー印字装置」などに光る'HIT'の文字は、堀内電機の旧来のマークとは別にデザインされ、自社製品のみに刻印している。HITは、ホリウチ・インテリジェンス・テクノロジーの略で、「これからは『知的財産』で勝負できる会社にしてゆきたい」という南沢俊一専務取締役ら、上田工場のスタッフの想いが込められている。

適正な利益を確保するための戦略

horiuchielectronics04.jpg

 堀内電機製作所・上田工場が得意とするのは「部品づくり」だ。

 1976年に設立された上田工場は、東京の本社とは独立採算制を採用する。当初はテープレコーダー部品の組み立てを手がけ、現在は、プリント基板に電子部品を取り付ける「実装(じっそう)」が主力だ。技術力に定評があり、日本を代表する電機メーカーの協力会社として、部品製造が全体売上げの8割を占める。

 なぜ、安定した部品製造部門がありながら、リスクが高い「自社開発」にシフトしようとしているのだろうか?
 「適正な利益を確保できる会社、いい会社でなくてはいけない」と、南沢専務は続ける。「競争が激しい分野でなく、『ブルーオーシャン』で勝負できるように『選択と集中』を行いました。」

事業を「赤」と「青」に分ける

 南沢専務の言う「ブルーオーシャン戦略」とは何だろうか?

 競争の激しい既存市場は、まさに血で血を洗う領域=レッドオーシャン(赤い海)だ。かつて国内でおこなわれていた部品製造や組み立てが、価格の安い海外へとシフトしている中、国内外の価格差から「適正な利益」を確保することが困難となる、と南沢専務は考えた。
 そこで、堀内電機が目指したのは、競争のない未開拓市場。つまり、競争相手のいないブルーオーシャン(青い海)だった。

 「上田工場すべての仕事を、『赤』と『青』に分けた」と、南沢専務。「主力事業のほとんどが『赤』(=レッドオーシャン)だった。売上げでは全体の1割ほどしかないが、自社開発の商品こそ『青』(=ブルーオーシャン)と判断した」。専務は、言葉に力を込めた。

若い力があたらしい時代をつくる

horiuchielectronics05.jpg

 研究開発にあたる技術者の中心は20代~30代。開発推進部には、約30人の若き頭脳が集められている。
 「選択と集中」と南沢専務が言うように、全体の1割ほどの売上げしかない部署に、全スタッフの約5分の1が投入されている。さらに「無理をしてでも、毎年、人を入れています」と専務の言葉通り、堀内電機製作所上田工場では、積極的に若い人材を活用。若い力が育ち、育った社員たちが、中核製品を育てていこうとしているのだ。

一台一台に想いが込められた「特注品」たち

お客様とウチの想いが一緒になった

horiuchielectronics06.jpg

 堀内電機の作り上げる機械には「想い」が込められている。

 金属や木材の他、食品などさまざまな素材に刻印が可能な「レーザーマーキング装置」や、細部まで使い勝手にこだわった「卓上産業用ロボット」は、顧客の要望にあわせオーダーメイドで作られる。
 「私たちの製品は、一台一台が『特注品』です。お客さまの'想い'と、ウチの'想い'が、いっしょになった機械。ですから、仕事が終わったらポンと捨てちゃうことができないんですよ」。

 ホームページを見れば、製品カタログが掲載されている。しかし、カタログどおりの商品をそのまま販売するのではなく、顧客の要望にあわせた機能はもちろん、サイズなど細かく仕様を変え、部品や工程が異なる千差万別の生産ラインに、ひとつひとつオーダーメイドで組み込みこまれる。

horiuchielectronics07.jpg

ブルーオーシャン戦略の真骨頂

horiuchielectronics09.jpg

 オーダーメイドで作れば、必然的にコストは上がる。
 しかし、堀内電機製作所の自社製品は「他のメーカーに比べても、安価」なのは、なぜだろうか?
 その答えは、南沢専務の「ブルーオーシャン戦略」にあった。

 ブルーオーシャン戦略の根底にあるのは、顧客にとって重要ではない機能を減らすことだ。不要な機能を省くことにより、企業と顧客の両方に対する価値を向上させている。
 例えば任天堂のゲーム機Wiiは、ブルーオーシャン戦略を応用したといわれる。高い処理能力で高画質なゲームを提供するソニー(プレイステーション3)やマイクロソフト(XBOX 360)に対し、ゲーム機としての性能では劣る任天堂だが、「Wiiリモコン」など新しい機能を追加することで、これまでゲーム慣れしていない顧客層まで取り込み、大ヒットした。

ニーズの先取りで「低価格」と「高付加価値」を両立

 想いが込められた「特注品」だからこそ、顧客が望む機能を実現できる。
 HITマークの自社開発製品は、フルスペックの高級品でなく、ニーズにこたえた機能に特化して作られる。

 レーザー光線を使った「はんだ付けロボット」は、ダイオードで発生させた光を、コンマ数ミリの点に集中させ、はんだ付けしていく。微細部品に特化すると同時に、環境へのニーズを先取り、鉛はんだの代替となる銀はんだに対応した。南沢専務も「ニーズの先取りが必要」と話すように、機能を限定し、顧客の細かな要望に基づく臨機応変の手直しができるからこそ「低価格」と「高付加価値」が両立できる。
 「自社での量産技術があるからこそラインで考案でき、コストと品質を併せた省力化が可能になります」。南沢専務も、そう話す。

異分野で活躍する「レーザーマーカー」

horiuchielectronics10.jpg

 現在もっとも開発に力を入れているのが「レーザーマーカー」。プリント基板にレーザー光で直接バーコードなどを印字する装置で、もともとは電子部品の加工に使用される商品だが、この技術が競争相手の少ない市場「青い海」を目指そうとしている。

 案内された展示室に、かすかに焦げるにおいが立ち込める。木片に照射された赤い光の筋が、瞬く間に木を彫刻していく。
 「もしよかったら、お使いください」。手渡されたのは、木札だった。そこには、筆者の名前と社名ロゴが掘り込まれている。先ほど交換したばかりの名刺を読み込み、その場でつくられたデザインどおりの「特注」木札を、目の前であっという間に作ってしまった。

horiuchielectronics11.jpg

 レーザーマーカーを応用すれば、こうした木札だけでなく、金属やゴム、食品にも「印字」ができるという。「卵に賞味期限を印字したり、イラスト入りのクッキーを作ったり、食品の分野でも応用できます」。

世界に挑む「信州企業」

ものづくりは、時代とともに変化

horiuchielectronics12.jpg

 上田市街地から別所温泉に向かう177号線沿い、塩田平と呼ばれる上田市保野には、道を挟むように堀内電機製作所の第一工場と第二工場が並ぶ。
 第一工場ではコンピューターのハードディスクの超精密組み立てや修理が行われ、最新鋭のラインが並ぶ第二工場ではプリント基板の実装が行われている。
 この工場では1990年代、年間30万台を越すノートパソコンを組み立て、そのパソコンは世界トップシェアを獲得していた。

 工場とは別棟に「HIT」の看板。多くの若手技術者たちが新たなマシンを生み出す、開発推進部だ。製造番号を印字するレーザー印字装置から、基板の分割やねじ締めといった産業用ロボットまで20種以上の自社製品が生まれている。

「地道なものづくり」が結実した自社マシン

 矢継ぎ早に繰り出される新製品。原点にあるのは「地道にやってきた」ものづくりだ。
 1944年創立の堀内電機製作所が、自社開発に力を入れ始めたのは、1990年代。はじまりは「お客様からの、お褒めの言葉だった」と南沢専務は話す。
 「『ウチは5人でやっているのに、ここでは2人。なぜそんなことが可能なのか?』工場を見学に訪れたお客様が驚かれました。きちんと座標を固定しなくてはいけない検査装置など、量産ラインを独自で工夫していた」。お褒めの言葉が「商売になるかも」のきっかけだったという。

 自社ライン用に開発された省力機器にオーダーが来るようになり、現場でも高い支持を得るようなった。「使い勝手がいいのは、作業工程を全部知っているから当然。」と、南沢専務。これまで培われた量産技術を生かしたオリジナル商品は、細部まで使い勝手にこだわる「現場から生まれた」のだ。

horiuchielectronics13.jpg

上田から世界市場へ

 本社こそ東京だが、堀内電機製作所上田工場は「地域に密着した企業」だ。従業員数も売上高も上田工場が半分以上の規模を占め、採用も地元中心に工場独自に行っている。

 上田工場が目指す新たな市場は、世界。
 レーザー装置は、海外メーカーと協力し新たな販路を獲得した。少量多品種のねじ締め、はんだ付けなどさまざまな作業が可能な卓上型ロボットも、製造ラインを廃止し、数人のチームで製品を組み立てる「セル生産方式」ニーズを満たし、国外でも新たな需要が生まれている。

 上田で生まれた「一台一台想いが込められた」マシンたちが、世界のものづくりの現場で活躍しようとしている。

horiuchielectronics14.jpg

【取材日:2009年9月8日】

企業データ

株式会社 堀内電機製作所 上田工場
長野県上田市保野241番地 TEL:0268-38-5265
http://www.horiuchielectronics.co.jp/