[サイプラススペシャル]63 プリンティングビジネスを拓く 水と空気は印刷できませんが・・・

長野県塩尻市

マスターマインド

 「印刷といえば紙」という常識は、マスターマインドのプリンターには通じない。展示室にある商品はじつに個性豊か。傘をひろげるとそこには子猫の写真が、マグカップには女性の笑顔が、ごつごつした石には黒馬が、「印刷」によって装飾されている。しかし、これも「水と空気以外には何でも印刷できます」という技術の、一端でしかない。
 インクジェット方式のフラットベットダイレクトプリンターを開発し、プリンティングビジネスに挑戦し続けるマスターマインドは長野県塩尻市にある。

朝令暮改は当たり前

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 マスターマインドは1993年設立。スタートは、フロッピーデスクのコピー機の製造とフロッピーデスクにラベルを貼るラベラーの製造である。その後、CDの表面に名前を書きたい、貼りたいという相談を受け、プリンターの研究開発に着手した。「前の会社で、高周波回路の設計や研究開発を10年ほどやっていたものの、プリンターのことは何も知らなかった。買ってきてばらして研究した。」プリンター開発に着手した頃をこう振り返る小沢千壽夫社長、61歳。
 「何も知らなくても、こういうことをやりたいと話すと、相手には通じるものだ。教えてくれるんですよ。チャンスを生かして新しいものをつくりだしてきたんです。」「まず、夢をでかい声で熱っぽく話す。口に出し、自分を縛る。出来ないと思ったらやめる。スピードがあるといえば聞こえはいいが、ビジネスを進める上では朝礼暮改は当たり前。お客さんから相談を受けたら、まず3人に伝えろといっている。そこで自分以外で3人が考えてくれる。あとではダメ、今、この5分が大事。3人が考えれば、明日になったら、答えが出るかも知れないじゃないですか。」開発のエネルギーがここにある。

「印刷業界の産業革命だ」

mastermind04.jpg 「インクジェットは印刷業界の産業革命だと私は思っているんですよ」小沢社長の言葉は、周囲の耳目をきゅっと惹きつける。
 インクジェットプリンターというと、一番身近なものはデジカメや、携帯電話で撮影した写真の印刷だ。パソコンにデータを読み込ませ、「四角い白い紙」に印刷、操作も簡単で、職場や家庭用にも普及してきている。
mastermind05.jpg マスターマインドの技術はこのインクジェット方式をつかって、何にでも印刷できる技術。「印刷は、使われる状況や、使われる素材が、全部違う。衣食住、印刷してあるものはいっぱいある。」インクジェットプリンターの可能性を追求してきた小沢社長の言葉は力強い。
 「全部違う」というのが、素材でいえば、金属、衣類、ガラス、タイル、木材、石、畳、ゴルフボール、そしてせんべいやクッキーなどの食品までの幅の広さだ。当然それらは、厚い薄い硬い柔らかいから始まって、大きさも表面の形状も、利用する場面もさまざまだ。印刷は、現代の衣食住に欠かせない「個性」「オリジナル」を形作る大事な要素でもあるのだ。

 「インクを吹き付ける方式のため直接印刷する素材に触れることがない」「3,4色のインクを使ってフルカラーで再現できる」インクジェットプリント技術のメリットを知り尽くした社長の夢と声はさらに大きくなる。

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明日からTシャツ屋さんになれます「テキスタイルプリンター」

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 何にでも印刷できるとはいうものの、現在のマスターマインドの主力はTシャツなど衣服に印刷できる「テキスタイルプリンター」と呼ばれるもの。Tシャツ用プリンターのシェアは、全世界で5割、マスターマインドの技術がヨーロッパやアメリカ、中近東など海外のTシャツ文化をも彩っている。
 これまでのスクリーン印刷では①パソコンでデータを作成する②使用する色の数だけ版を作る③版を使って印刷する、という工程が必要だ。版や型をつくる技術や、文字や模様を直接商品に刷る技術は、経験がいる職人の技である。人件費や工程数を考えると、時間も経費もかかり、小ロットの注文には向かない。
mastermind08.jpg  ダイレクトプリントであれば、たとえばイラスト入りのTシャツを作る場合、パソコンでデータをつくり、ダイレクトプリンタで印刷し、完成である。時間のかかる版を作る必要なく、色や型をあわせるといった専門的な技術も要求されない。必要なイラストデータが、パソコンに用意できれば、印刷して完成、オリジナルTシャツが出来上がる。1枚でも10枚でも工程は一緒だから、欲しい数だけ注文でき、少量多品種にも対応、もちろん洗濯しても色落ちしないインクは必要だが、それもマスターマインドで開発済み、提供が可能だ。ちなみに、テキスタイルプリンターの決め手は「白」インクだそうだ。紙は白だから印刷はいらないが、色付のTシャツには印刷して初めて「白」が出る。
 このプリンター装置を買って、パソコン操作をマスターすれば、あなたも明日からTシャツ屋さんになれる、というわけだ。

社員はマルチ、社員の顔を見ていってくれ!

mastermind09.jpg  マスターマインドの社員は25名、本社は塩尻市だが、東京と京都にも営業所を持つ。東京営業所は、会社設立と同時、京都も設立2年後には設置した。営業担当は東京3名、京都1名、本社2名、市場のニーズをいち早くキャッチする。海外販売は代理店を使うが、国内外への展示会への参加にも積極的だ。
 厳しい印刷業界にあっても、特殊印刷の分野は毎年伸び続けている。大手は参入しないニッチな市場で一番になることを目指すのがマスターマインド。
mastermind10.jpg  さらにフラットヘッドプリンターや、インクがにじむ前に熱で固めるヒートジェット方式のプリンターも改良を重ねている。
 プリンターの設計・開発・製造まで、5人で出来てしまうというマルチな社員の力を「うちの社員は、自分で自分の生活を支えている、みんないい顔して働いていますよ。顔を見ていってください。」と社長は語る。

「個性を刷る」マスターマインド

mastermind11.jpg  1998年にはマスターマインド製のプリンターを使って、厚物プリントやデータ複製サービスを手がける(株)ディクソンを設立した。ディクソンは、単独の事業体でありながら、業務そのものや製品は、マスターマインド製のプリンターの性能をアピールする場にもなっている。

 インクの出口から印刷物までの距離は数ミリメートル、非接触なので、印刷面のでこぼこに斟酌せず、皮革素材にも、プラスチックの波板でも、適正な位置にセットするだけで、作業がスタートする。素材の厚さや幅によって、プリンターそのもののカストマイズは可能だが、印刷物を置くテーブルを上下することで、大きさへの自由度はかなり担保されている。Tシャツだけではなく、プリキューブや携帯電話のストラップのような小物から、数メートルもある木製の看板の印刷まで、衣食住を楽しむアイテムを生みだしている。

mastermind12.jpg  透明なガラス印刷に必要な下処理剤や、屋外用の掲示物に欠かせない色落ちや日焼け防止用コート剤も製品化。食品衛生法をクリアした可食インクの開発で、お菓子や食品にも写真やオリジナルな絵柄の印刷が可能になった。世界でたった一つという希少価値を持ったクッキーのプレゼントも出来るのだ。
 さらに、屋外看板には、段ボールを使うなど、エコロジーをテーマにした製品にも取り組む。

mastermind13.jpg  マスターマインドとは優れた知能の持ち主、立案者・指導者の意である。また、首謀者という意味も併せ持つ。小沢社長は、疑問を持つことが好きだ。メモを取ったり、ボイスレコーダーに思いついたことをいれておき、次のビジネスを考えるという。「水と空気には印刷できないといいながら、さっき空気にも印刷できるかなと思いついたんだよな、俺」マスターマインドの挑戦は続いている。

【取材日:2010年2月19日】

企業データ

株式会社マスターマインド
長野県塩尻市片丘今泉9828-16 TEL:0263-53-3700
http://www.mastermind.co.jp/