長野県千曲市
フレックスジャパン
長野自動車道からも、上信越自動車道からも、更埴ジャンクション/更埴インターチェンジ付近で必ず目にするのが、薄いブルーのマーク(これは「人」をデザインしたものだそうだ)と「FLEX」の文字看板。高速道路の料金所を出るとそのままロータリーから玄関まで滑り込んで行きそうな、まさに「地の利」を得た建物、ワイシャツの専門メーカーフレックスジャパンの本社である。
ワイシャツは、おしゃれ着か仕事着か、着る人によって意見は分かれても、ビジネスマンの必需品であることに変わりはない。日本国内の流通量は、1年間に5000万枚。フレックスジャパンはその五分の一、年間1000万枚のシャツを生産している。1940年創業のワイシャツ一筋の専門メーカー、少し年配の方には「高原シャツ」というブランド名のほうが、馴染みがあるかもしれない。
「ウチのワイシャツは、腕を上げたときにシャツの裾がズボンから出ないんですよ。私はゴルフもワイシャツです。着崩れしないし着易い」自らを、「自社商品を身につける広告塔」という矢島隆生社長(50歳)は上着を脱いで、体を動かしてみせた。これは、創業者であり、現社長の父矢島久和会長が考案したデザインだそうだ。「動いた時ちょっと腕の辺りが変だなと思ってシャツを見ると、他社のシャツを着ている。微妙な違いだが、ビジネス衣料でもあるワイシャツだから、着心地は大事な要素。」更に襟、「ネクタイをしなくても襟がきちんと立つ、というのは、案外難しい。ウチのマル秘の技術かもしれませんね。」
「ワイシャツといえば白」というのは、もう過去のイメージだ。デパートや衣料品店のメンズコーナーには、色や柄だけでなく、デザインも実にさまざまなワイシャツが並ぶ。生地も、綿やポリエステルといったおなじみの素材だけではなく、新しい化学繊維であったり、絹100パーセントだったり、その組み合わせも多様だ。伸び縮みする素材もある。デザインも、襟やカフスやポケットなどパーツパーツの個性が際立つ。付属品であるボタンの色・デザインもじつに様々だ。ボタンホールに色糸を使うなど、新鮮な商品が並ぶ。価格も数百円から数万円という1点ものまで実に幅が広い。
「シャツ屋の独りよがりの自負ですが、白いシンプルなシャツが一番かっこいいと思っています。」と語る矢島社長。しかし、続いての説明は、少量多品種というワイシャツの商品特性だった。「とにかく品種が多いのです。ワイシャツのサイズは、首の回りと裄丈で決めますから、1つのデザインでもS・M・Lと単純なサイズ分けはできません。基本サイズそのものが多品種です。ですから、100種類のデザインがあると、何万種類もの商品となります。また、定番商品ですから、品切れは許されません。」
「品切れは許されないという意味では、シャツ屋は、トータルな物流業かもしれません。」凛とした経営者の姿勢が伝わってくる。作れば売れた時代は終わった。取引先A社の支店が全国に10あれば、その10店舗からの個別の注文を受け、各々に対して指定の日時に間違いなく商品を配送し届ける、ここまでがワイシャツメーカーの仕事。多くは当日受注の当日出荷、即日対応ができなければ、次の注文はこない。ワイシャツは、店頭にあって当たり前、サイズ切れが許されない定番商品である。
1年間で1000万枚生産されるフレックスジャパンの物流拠点は、本社1箇所。海外で生産されたワイシャツもすべて一旦はこの千曲市に集められ、日本全国の専門店、百貨店、量販店などへデリバリーされる。倉庫は5つ、全部で25410平方メートル(甲子園球場の3分の2)の広さである。5月10日、新しい自動仕分け機が稼動した。一つ一つの商品につけられたバーコードを読み取り、コンピューターに入力された受注データに基づき、配送先ごとに仕分けていくシステムだ。商品は、186もある落とし口から受け箱にはいり、そのまま配送部門で梱包され、トラックの荷台に流れて行く。このラウンド型チルトソーターと呼ばれる新しい仕分け機の処理スピードは1時間に6000枚、1日(8時間)48,000枚の仕分けが可能、これまで稼動していた2台分を1台でまかなえる処理能力だ。
しかし、このソーターは実は4台目、最初は1992年、18年も前であった。
フレックスジャパンが、数万種類の商品の生産管理や在庫管理は、とても人手では不可能と判断し、コンピューターを導入したのは1966年のこと。「1969年には富士通のホストコンピューターを導入しましたが、縫製業界はもちろんのこと、県内の製造業でもかなり早いほうでしたね。」矢島社長は導入について語る。
大手販売業者が独自ブランドを展開し、取引先のプランで更に商品の種類や量が増えるなどますます流通形態が複雑になり、1日10万枚もの商品を扱う今日、物流への設備投資の先見性は取引先からも高く評価されている。各取引先から「納品書は必要ない」といわれるほど、フレックスジャパンの物流システムは高い信頼を得ている。
縫製業のコストは人件費の割合が大きく、ほとんどの大量生産品は、海外で生産され、国内での生産量は全体のわずか3%である。しかし、フレックスジャパンのワイシャツを買うのは、日本国内で働くビジネスマンであり、企業には、彼らが生活者・消費者として行う経済行為を支えるという社会的役割ある。だから、「生産量の大小に関わらず、ここ長野県に本社を置き、生産を続ける意味は大きい。」矢島社長は国内生産の重要性を主張する。
本社工場では、ネット販売によるオーダーシャツの生産が昨年11月から始まっている。手縫いのオーダー品には手が届かないが、サイズやデザインにはこだわり、自分好みのワイシャツを身に付けたいというビジネスマン向けだ。インターネットで注文を受け、型紙はCADCAMシステムで制作、生地は自動裁断され、一着分が僅か90秒で縫製セクションに流れていく。「ひとりひとりは多能工」といわれるように、フロアに並ぶ何種類ものミシンやアイロンの間を足早に動き回る縫製担当の社員の動きに無駄はない。発注から仕上げ検品まで最短で3日、1週間で納品できるというスピードも魅力的だ。まだまだ試行錯誤の段階だが手応えは十分という。
今、フレックスジャパンが力を入れているシャツ生地を使ったオリジナルジャケット「ジャッツ」の生産もここで行われている。ワイシャツの縫製のノウハウを使ったジャケットで、自宅で洗濯が出来、軽くて涼しい。得意先から"シャツ屋さんだから出来た製品"と評価された。また、ポケットにいろいろ入れてもシルエットが崩れないシャツ地のベストも製品化した。
新製品の研究開発、縫製技術の確立・技術者の育成と、本社の役割は幅広く、重要だ。
「ビジネス衣料屋」でもあるというフレックスジャパンは、レディースシャツの製造販売にも積極的だ。少子化が進み、女性の労働力が期待されているのに、その女性たちから、職場で着るシャツがないという声が届いた。働く女性たちにメンズシャツのノウハウで仕立てたシャツをかっこよく着て、力を発揮して欲しい。そんなニーズとシーズが一つになってうまれたレディースシャツ、売上げは2桁で伸びている。
アジアや欧米への販売も検討中という矢島社長は、装うことは、自分もまわりも幸せにすることだという。「男たちを格好良くしたいですね。」張りのある声が響いた。
フレックスジャパン株式会社
長野県千曲市屋代2451 TEL:026-261-3000
http://www.flexjapan.co.jp/