[サイプラススペシャル]76 時代のニーズに応えた家具づくり 企画力で勝負

長野県下伊那郡高森町

イイダアックス

例えば、お茶の間にあるテレビボードという家具、テレビを置く台という機能から見ればどこの家にも必要な家具だ。しかし、日常のインテリアとして見れば、我が家らしさを演出する道具、置く場所を意識して、形や色にもこだわりたい。イイダアックスが追求するのは、そんな機能や品質に対する顧客ニーズに、価格も含めトータルに応えていく家具づくりだ。

家具屋にはなりたくなかったが・・・

ロングボードを考案する

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下伊那郡高森町にあるイイダアックスは、1969年、現社長今村彰吾氏の父である今村保一氏が飯田家具工業として創業した。カラーボックスの源流となる商品「ロングボード」という家具をご存知だろうか。木質ボードを材料とし、家具の色といえば茶色が中心であった時代に赤やグリーンや白といった鮮やかな色を使い、少しの隙間に収納出来るというアイディアで販売された家具、これを考案したのが、創業者の先代社長である。

仕事はフィフティフィフティ

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「ロングボードは爆発的に売れました。しかし、お金に余裕がなかったので、親父は、自分で配送までやっていました。高速道路もないころで、昼間は工場で製品を作る、夕方から朝までかかって得意先に届ける、そんな姿を見ていて、自分は家具屋にはなりたくないと思っていました。」と語る今村社長。だが、すべての責任を負う立場になって、10年が過ぎ、「しゃべる言葉の一つ一つに責任の重さを意識する。地方の中小企業だが仕事をする場面では、相手がたとえ大企業であろうともフィフティフィフティ」と家具作りへの自信をのぞかせた。

生産管理システムをつくる

住宅機器メーカー

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生活の多様化の中で家具は、形も用途も素材も大きく変化している。現在の家具の多くは、木材小片に接着材を加え、高温高圧でプレスした木質ボードを材料として作られている。イイダアックスも、主力はパーティクルボードと呼ばれる素材を使い製造するキッチンやリビングボード、玄関収納、キャビ便と言われるトイレ部材、また、建材や店舗家具・オフィス家具である。創業時のヒット商品「ロングボード」に始まり、1971年には大手建材メーカーの住宅機器部門の立ち上げに参加しその関連製品のOEM製造を受注するなど、住宅機器・什器類を生産の中心に、生産力と販売力のある家具メーカーとして歴史を積み重ねてきた。取引先には、互いにライバルであるはずの大手メーカーの名前が複数連なり、イイダアックスのものづくりの総合力を証明している。

生産管理システムをつくる

イイダアックスの家具作りの特長は、その生産管理システムにある。今村社長は、なりたくなかった家具屋だが、「生き残っていくためにはどうするか、現場に入ってすべての工程を3ヶ月で学びました。」という。「営業に行った時、お客さんに今どのくらい進んでいるか聞かれ、工場に行って聞いてきますとはいえないでしょう?」
どうしたら現場に行かなくても生産工程が見えるのか、そのために行ったのは、各作業担当者に作業内容とかかった時間を記録させること。結果として無駄の排除と、責任の範囲の明確化ができた。また、1日1種類の製品を扱う生産体制を、多品種小ロットでも生産できる体制に変更した。この管理システムは、今では、極端な例をとれば、注文を受けてから材料の調達さえ有れば製品化まで3時間でできるほど徹底したものだという。これは、「多品種小ロット生産、しかも短納期」という現在でも求められ続けるものづくりの基本である。イイダアックスの取り組みは30年にも及んでいる。

しかし、「他社のどこよりも早く」「顧客ニーズに適正な価格で応える」ために、目で見える管理、と在庫を持たない生産方式(社長は控えめに「勝手に名づけてイイダアックス方式なんていっています」という)が、社内に定着するまでには10年以上かかったという。

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まごころを作りこむ

ドイツ製のランニングソー

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家具づくりといえば木の香が漂う作業場で、鑿(のみ)と鉋(かんな)が並んでいて、というイメージがある。しかし、イイダアックスの工場は、コンピューターによる自動制御の機器が並ぶ。加えて、製品によって組み替えたり、機器の部品を入れ替えたりできる生産ラインだ。その設備は、遠赤外線乾燥機、大型高周波接着機、材料のボードをカットするドイツ製のランニングソーまである。このランニングソーは、開口部が3メートルもあり、分速100メートルのまさに走るのこぎり。どうしても必要だと判断し、社長自らドイツまで出かけて購入したものだ。

今村社長は、時折社員に声をかけながら、実に楽しそうに工場内を説明しながら歩く。「製品によって、機械のレイアウトの変更も容易にできるように、2トンまでの機械にはキャスターをつけさせました。楽に動きます。」「この部分にたまるゴミを取るときに手をはさまないように、オプションで光センサーを追加させたんですよ。」「働きやすいように作業スペースをこんな風に変えてあります、女性も多い職場ですからね。」

1台数千万円の機械も並んでいるだが、そのほとんどにイイダアックス流の工夫と操作する従業員への心遣いが見える。十分なコミュニケーションは、対顧客だけではない。

製品開発力も

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生産管理システムと並ぶもう一つの柱が商品の企画開発力、モットーは「技術的に家具は作れて当たりまえ。安かろう悪かろうではなく、ウチにしか出来ないものを作ろう」。
いまや新築の住宅着工数は最盛期の約3分の1、リフォームは盛況でも、戸建て・マンションの需要回復も期待できない。厳しい環境だが、イイダアックスは、製品開発力を武器に、家具作りに取り組んでいる。

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製品開発の実力を遺憾なく発揮しているのが、「役員用デスク」。どっしりとした存在感、落ち着いた色合い。コックピットを連想させる部分は凹んだ形状だが、左右の袖の部分はパソコンの設置を考え十分なスペースが確保されている。これは2008年に大阪と東京で開催された「中小企業総合展」に出展された製品だ。素材はメラミン樹脂化粧板、ポリウレタンリアクティブという環境配慮型の接着剤を使い、化粧シートを張り合わせたもので、この化粧シートも5000色位から自由に選べるという。デザインは今村社長自ら考案した。収納スペースも多く、組立ても容易、全体に楕円のラインがしゃれている。しかも、コストは大手メーカーの半分以下。「高級品は木の無垢材という概念を変えました。」と、今村社長。引き合いそのものは数件だったというが、もともとイイダアックスの製品開発力のアピールが目的の展示、十分に目的は達成できたという。

「もうナンバーワンの時代ではありません。家具もオンリーワンの時代です。」鑿や鉋は、使わなくても製品は出来るが、家具作りへの熱意と信頼は、いつの時代も変わらない。イイダアックスでなければ出来ない、"まごころを作りこんだ"製品を開発し続けたい、今村社長の強い意志は社内に溢れている。

【取材日:2010年5月21日】

企業データ

株式会社イイダアックス
長野県下伊那郡高森町上市田277-1 TEL:0265-35-2400
http://iidaax.main.jp/