長野県上田市
塚田メディカル・リサーチ
「先生」と呼ばれる社長
医学と工学が融合したものづくり企業
独自ブランドの医療機器を開発製造する塚田メディカル・リサーチ。社長は社員から「先生」と呼ばれている。なぜならこの社長、ものづくり企業の経営者でありながら、現役の医師であり、病院の院長でもあるのだ。
今、注目される医療分野。医学と工学が融合した異色の信州企業に迫る。
シリコーン製の半透明の風船から、1本のゴムチューブが伸びる特徴あるカタチ。この製品こそ、塚田メディカル・リサーチのオリジナル「バルーン式・薬液持続注入カテーテル」だ。
ゴム風船に薬液を入れると、風船が縮んでいく力を利用して薬液がゆっくりと一定量が押し出されていく。手術後の鎮痛剤やがん患者への抗がん剤の投与など、主に医療現場で使用されるというこの商品の最大の特徴は、シンプルな構造にある。
「電気も、モーターもいらない。仕組みもカンタンです。」自ら開発した自社商品を手に、塚田修社長は少年のような笑みを見せる。しかし、カンタンだからこそ、医療現場から高い支持を得られた。
「手術後の患者さんは、夜中に痛みが出れば看護師さんを呼ばなくっちゃいけない。患者さんも看護師も大変です。だから、長時間安定して麻酔薬を投与したいという"ニーズ"は以前からありました。」しかし、当時は電気やモーターを使った複雑な装置が必要だった。「なんとかシンプルにできないか、って考えたんです。」
なぜ、塚田社長はオリジナル商品を開発できたのか?
「医者じゃなかったらできなかった」という塚田社長は、従業員20人のものづくりメーカーの社長でありながら、社員から「先生」と呼ばれる医師だ。しかも、上田インター近くの大病院の院長でもある。
「医師が医師をやるのは当たり前。地域医療の現場にいるから、ニーズを知ることができる。」豊富な臨床経験を基に、医師だからわかる患者の視点で医療器具を開発し続ける塚田社長。国内特許19件、国際特許は10件にものぼる。
塚田社長が、日本初のシリコーン風船を使ったオリジナル医療器具を開発し、塚田メディカル・リサーチを立ち上げたのは、1986年。当時、39歳だった。
「もともと工学部に行きたかった」という塚田社長。念願叶わず浪人の末、「資格があれば食うに困らないだろうから」医学部に進学する。
その後、東大医学部で助手を務めていた30代になっても「ものづくり」への夢をあきらめることはなかった。「現場にいるといろいろアイデアが浮かんだ」という。
もともとシリコーン製の風船は、他の医療器具として使われていた。
「泌尿器系の器具で、おしっこを出すための管の先につける、ストッパーでした。」塚田医師の専門分野に開発の原点があった。「このシリコーン・バルーンを使えば、もっと良い痛み止めの方法が考案できる...」35歳のとき開発をはじめ、千葉県にある総合病院泌尿器科の部長になってからも研究を続けた。
「そばやラーメンと同じです。」一番苦労した点は?の質問に、突拍子もない意外な答えが返ってきた。
「薬液を常に一定に投与するのが難しい。特にシリコーンゴムの"硬さ"の調整が大変だった。原料をいろいろ吟味し、こね合わせる...」だから、そばやラーメンの麺と同じだというのだ。
塚田メディカル・リサーチの製品群の特徴は、このシリコーンゴムにある。ゴムの硬さ、カタチ、大きさ、厚さなど、製品の特性に合わせて加工できる技術こそ「コアになっている」と、塚田社長はいう。
シリコーンメーカーの協力もあり、特殊なゴムの開発に成功。しかし、それでも人の生命にかかわる医療分野への参入には大きな障壁があった。「国からの認可が下りるまでに、約4年かかった。」
上田インター近くの病院から菅平方面へ、車を走らせることおよそ10分。旧真田町の閑静な住宅街の中、初夏の日差しが降り注ぐ丘の上に塚田メディカル・リサーチの製造工場はあった。
医療分野の取材には規制が多い。国の認可が必要なものづくりの現場は、撮影はもちろん、立ち入り・見学さえ許されない場所がほとんどだ。「わが社のコア技術」というシリコーンゴムの原料の調合から成型から、製品の組み立て、厳しい幾度もの製品チェックまで10数人のスタッフが担当する。
2008年の約3億7千万から2009年には約4億5千万円と、リーマンショックの影響は「まったくない」という塚田メディカル・リサーチ。主力商品は、シリコーン風船の薬液注入器をはじめとする麻酔科関連のほか、塚田'医師'の専門分野でもある泌尿器科関連が2本柱だ。
シリコーンの無色の製品群の中、ひときわ目を引くブルーの円筒状の5cmほどのキャップ。年間6万個以上を売り上げる、ヒット商品「尿道カテーテル用キャップ」だ。
排尿障害の患者用に開発された商品で「これを使えば、手を汚すことなく、ワンタッチで管にたまったおしっこを排出できます」と、塚田社長も自信を示す。
それまで同様の部品は、尿が漏れないようきつく管の中に押し込むフタが一般的だった。しかし「握力が弱くなったお年寄りは、うまく外せない。取れやすいようにゆるく入れ込むとおしっこが漏れてしまう」という問題点があった。
塚田メディカル・リサーチが開発した商品はキャップタイプで、片手で簡単にフタの開閉が可能になった。まさに医療現場のニーズを汲んだ、アイデア商品だ。
「キャップ部分は苦労した。詳しくは企業秘密ですが、磁力を使い面でなく空間を確保しながらキャップを閉める工夫がある」と、塚田社長。尿が漏れないように改良された栓の部分には、独自のシリコーンが使用されている。
塚田メディカル・リサーチのものづくりの原点は、塚田社長の師である医師の「同じ手術はするな」の言葉にある。
「同じ手術はするな、と繰りかえし言われました。もっといい手術はできないか、もっといい治療法はないか、常に考えろという意味。」
「医者が決められたことをやるのは当たり前」と、塚田社長。「それ以上の何か、良い方法を考えながらやる。それが形になった。」ものづくりにも「より良いものをつくりたい」という考え方が生かされる。
医師として、院長として地域医療の現場に立つ塚田社長は、ニーズは常に現場にあるという。「売れる商品をつくっているんじゃない。喜ばれる商品を作っている。」
「今までに無いものをつくりたい。世のため、人のためになるような商品がいい。医療や介護の分野で考えている。」塚田メディカルの夢は広がる。
株式会社塚田メディカル・リサーチ
長野県上田市真田町本原1931-1 TEL:0268-72-5370
http://www.dib-cs.co.jp/tsukada-med/