[サイプラススペシャル]85 「独自セラミックス」空気清浄機が大ヒット 木曽谷の小さなベンチャー企業

長野県木曽郡大桑村

信州セラミックス

従業員はたったの15人!
セラミックスで売上4倍の秘密とは?

 信州・木曽谷。山間の小さな工場で作られる「白い粉」が、今、注目を集めている。信州セラミックスの複合素材だ。
 信州セラミックスは、独自の複合素材を組み込んだマスクと空気洗浄機が大ヒットし、一昨年まで約2億円だった売上も、一気に8億円。わずか3年で4倍と、まさに急成長した。
 従業員15人のベンチャー企業は、なぜ大成功したのか?

『すごい粉』で大ヒット!?

『きれいにする作用』に着目

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 「3つのセラミックスを配合しています。」桜田理取締役はガラス容器を手に、説明をはじめた。容器には、磨き粉のような白い粉。この粉こそ、大成功のカギとなるすごい粉だ。
 「雑菌やウイルス、臭いなどを吸着して分解する効果があるんです」と、桜田取締役。インフルエンザの流行という特需もあり、独自のセラミックスを組み込んだ使い捨てのマスクと、空気清浄機が医療機関を中心に売れに売れ、売上高4倍という大成長を遂げた。

 信州セラミックスは、木曽郡大桑村にある小さな会社。名前の通り、独自のセラミックスの開発・製造を行う。もともとセラミックスは陶磁器や半導体などに使われる素材だが、信州セラミックスは「きれいにする作用」に着目、独自の配合と製造技術を確立した。
 他の企業が取り組んでこなかったセラミックスの「きれいにする作用」に着目したことこそ、ヒットの要因だ。

『芽が出ない』セラミックス研究

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 ここ数年で急拡大した信州セラミックスだが、ここまでの道のりは決して平たんではなかった。「ずっとセラミックス一筋に研究を続けていましたが、なかなか芽が出ませんでした。」創業は1985年。地元企業のセラミックス研究開発部門としての独立だった。
 セラミックスの「きれいにする作用」に着目したのは、今から約20年前。桜田取締役の父親である現・社長が、あるセラミックスを入れると水槽内のミズゴケが少なくなることを発見し、地道に研究を進めてきた。

 長年の試行錯誤の結果、2005年にはオリジナルブランドを確立。大手メーカーにも採用され注目を集め、これが飛躍の第一歩となる。

『リスク』を背負ったものづくり

『なぜだ?』を繰り返す日々

 桜田取締役の名刺には「第二営業部・部長」の文字。
 一般的なセラミックスを販売するのが第一営業部で、第二は「きれいにする作用」のセラミックスを扱っている。従業員はわずか15人だが、「今の商売」と「未来への投資」はしっかり分けていた。「第二部は、なかなか売上にならなかったんです」と、桜田取締役は笑う。

 オリジナルブランドは大手メーカーの商品に採用されるなど着実に実績を重ねていたが「本格的に売れる、というまでにならなかった。」桜田取締役も「なぜ売れない?を繰り返す日々だった」と振り返る。

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『売れる市場』医療分野に挑戦

 セラミックスの「新しい機能」の発見が成功の第1歩とするなら、2歩目は「売れる市場」の発見だ。

 「病院など、困っている領域で使ってもらったことが爆発的ヒットの要因です。」
 これまでは大手メーカーが開発した商品は、靴や靴下、下着など、一般向けの商品が多かった。しかしこれに壁を感じた桜田取締役は、「大手家電メーカーにお願いして、オリジナル商品を作ってもらったんです。」

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 独自開発の空気清浄機は約18万円。病院など、医療分野をターゲットにした商品だった。医療という新しい市場に、あえてリスクを背負って自分たちで開発した商品をぶつけた結果が「爆発的」ヒットに繋がる。

『小さな病院』で売れたワケとは?

 「小規模病院で売れました」と、桜田取締役。
「病院はどこも、感染症に気をつかいます。空気感染を防ぐために、高性能の空気清浄機が必要。でも、クリーンルームとなれば設備も大がかりとなり、莫大な費用がかかる。大病院なら導入可能ですが、町の小さな病院では難しい。」

 昨年のインフルエンザの流行も重なり、信州セラミックスが開発した商品は見事「市場が求める」商品となった。
一般向けから医療分野に特化したことが、信州セラミックス大成功の最大のカギかもしれない。

『コア技術』で新しいビジネスチャンスをつかめ!

『新商品』はハンドクリーム

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 「今年の新商品はコレです。」
 マスク、空気清浄機に続き、医療分野に向けの新商品開発を積極的に行う信州セラミックス。開発を担当した女性がとりだしたのは、ハンドクリームだった。クリームの中に独自のセラミックスを配合している。
 「薬事法などの関係で『殺菌効果が持続する』とは言えないが、保存料などを入れていないのは、独自セラミックスのおかげ」と、桜田取締役。こまめな手洗いやアルコール消毒で、手荒れが多いという医療分野。「看護師のニーズにこたえる商品です」と、担当者も自信を示す。

『ものを作らない』ものづくり企業

 「申し訳ないけれど、すべて企業秘密です。」
 独自のセラミックス素材の製造現場は、取材でも一切見ることができなかった。「素材を煮たり、焼いたり、混ぜたりしているだけなんですが...」と、申し訳なさそうに謝る桜田取締役。コア技術は門外不出、という訳だ。

 徹底した秘密主義には、理由がある。「私たちは『ものを作らない』ものづくり企業になりたいんです。」空気清浄機もマスクも、木曽谷の工場では一切つくっていない。他のメーカーに製造を依頼している。
 パソコンのCPUメーカーがそうであるように、自社の技術力を売る会社になりたい、と桜田取締役は夢を語る。「私たちの素材を活用し、一緒に新しいものを作っていくビジネスパートナーを探しています。」

木曽谷の山あいにある小さな会社が、独自の素材を核に、さらに大きなビジネスチャンスをつかもうとしている。

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【取材日:2010年7月20日】

企業データ

株式会社信州セラミックス
長野県木曽郡大桑村殿35番地46 TEL:0264-55-1221
http://www.shincera.co.jp/