[サイプラススペシャル]91 国産初!体内埋め込み型「補助人工心臓」 メイドイン・ナガノの技術が世界中の命を救う

長野県諏訪市

ミスズ・サンメディカルホールディングス

「世の中に無いものをつくりたい」「役立つものをつくりたい」
人工心臓をつくったのは、諏訪で育まれたものづくりスピリッツ

 手のひらにのせると、すっぽり収まるチタン製ポンプ。国産初の体内埋め込み型補助人工心臓だ。海外製の従来品に比べ、ポンプの大きさは約4分の1。重さ420gの人工心臓は、心臓移植以外では救えなかった患者の命をつなぐ“希望の光”だ。
 この装置を開発・製造するのが、長野県諏訪市にあるミスズ・サンメディカルホールディングス。「世の中に無いものを作りたい」「ヒトの命を救いたい」という諏訪で育まれたものづくりへの熱い想いが詰まっていた。

諏訪の技術が可能にした「人工心臓」とは?

世界初、だから決めた。

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 「"世界初"ということで、開発を決めました。」なぜ人工心臓を作ることになったのか?という問いに、ミスズ・サンメディカルホールディングス・山崎俊一代表取締役社長は答えた。「世界にも体内に入れて長期間にわたって使用できる人工心臓はなかった。世の中にないもの、誰もやっていないものへの挑戦でした。」
 こぶし大のポンプは患者の左胸に埋め込まれ、左心室から血液を取り込み、人工血管を通して大動脈へ送る。重症の心不全患者の命を救う装置だ。

 人工心臓は、大きく2つのタイプに分けられる。患者の心臓を取り出して装置を入れる「全置換型人工心臓」に対し、ミスズ・サンメディカルが手掛ける「補助人工心臓」は、患者の心臓はそのままに、ポンプで血液を送り出す働きを補助する。
 体内に置く埋め込み式のポンプと、重さ約4kg、A4サイズほどの外部コントローラーが補助人工心臓の一式で、外部装置には制御部やバッテリーなどが収められている。

日本のものづくりのワザ「小型軽量化」

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 国内のみならず、欧米やアジアでも販売準備を進めるミスズ・サンメディカルの補助人工心臓。世界から高い評価を得られた最大の特徴は、小型軽量だ。
 「従来型の埋め込み型人工心臓は、体が大きい成人男性しか使えなかった。私たちの装置なら、欧米と比較して体の小さい日本人や、子どもへの応用も期待できる。」手のひらにおさまるポンプはもちろん、はじめは海外旅行で使用するハードキャリーバッグほどもあった外部装置も小型化に成功。さらに半分のサイズになるよう、現在も開発を進めている。

人工心臓開発秘話

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「ベンチャー魂」で医療分野へ挑戦

 臨床試験をクリアし「いよいよ、来年からは国内でも本格的に動いていく」と山崎社長も自信を示す。「医療機器メーカーのほとんどは、アメリカやヨーロッパ。人工心臓の分野も同じです。日本には高い技術力はあるが、開発には膨大な時間やコストがかかり、さらに承認を得るのが難しいため、大手を含め参入する企業は少なかった。私たちの挑戦は、いわばベンチャー精神です。」

山崎家「三本の矢」開発物語

 補助人工心臓開発は、山崎家の三兄弟の物語でもある。
 「弟が心臓外科医で、彼が考案したのが最初の始まり」という俊一(52)社長は長男。東京女子医科大の外科医である次男・健二(50)氏のアイデアにより、1991年から開発が始まった。

 実は、この補助人工心臓「開発はサンメディカル技術研究所、製造はミスズ工業」というように分業制がとられている。グループ中核を担うミスズ工業のトップは三男・泰三(49)氏。精密部品などの製造をメインに、従業員約500人、県内外のほか中国にも生産工場を構える。

 「人工心臓は未知なる分野への挑戦でしたから、企業としてリスクを負うわけにいかなかった。すべて山崎家の私財で、サンメディカル技術研究所を立ち上げ、開発を続けてきた。」国産初の補助人工心臓開発には、山崎三兄弟の「現代版・三本の矢」とも呼べる絆があった。

「命を繋ぐ」完成品メーカーへ

「どうしても血液が固まってしまう!」

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 開発から20年。開発費は50億円を超えるという補助人工心臓。プレスや金型、精密部品加工を得意とする諏訪の部品メーカーが、医療分野へ挑戦となれば、開発の苦労は想像に難くない。山崎社長は振り返る。「血液というのは、どうしても固まってしまう。この問題をクリアするのが一番苦労した。」

 特に難問だったのは、血液の凝固作用。羽根が回転する軸の部分に血液が入り込むと固まってしまう。血液が漏れない仕組みができないか考えたが、漏れをゼロにするのは不可能だったという。

独自の純水循環システム

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 サンメディカルは凝血という難問を、独自の純水循環システムで乗り越えた。ポンプ内部に純水を循環させ、外付け装置で血液のタンパク成分をろ過して除去する仕組みだ。「発想の転換です。漏れない仕組みはできないのだから、水を循環させることを考えた。」  血液の凝固を防ぐ純水循環システムや、ポンプの心臓部である回転する羽根など、いたるところに「時計組み立てから始まった、金属精密加工の技が生かされている」という。

メイドイン・ナガノの技術が10万人の命を救う

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 「新しい高度な医療機器の分野の日本の企業のさきがけになりたい。」山崎社長は夢を語る。これまで精密部品が中心だったグループの中核・ミスズ工業も、これまでの精密部品製造に医療分野を加え「完成品メーカーを目指していく」と、山崎社長。
 移植や人工心臓が必要とされる患者はアメリカでは年間約5万人、日本でも数千、全世界では約10万人以上いると言われている。「メイドイン・ナガノ」の人工心臓が、世界の命を救う日も近い。

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株式会社サンメディカル研究所    http://www.evaheart.co.jp

株式会社ミスズ工業    http://www.miszu.co.jp

【取材日:2010年9月6日】

企業データ

ミスズ・サンメディカルホールディングス
長野県諏訪市四賀2990 TEL:0266-54-1900
http://www.evaheart.co.jp/