[サイプラススペシャル]93 短納期が勝負!“一品一様”の省力専用機 強さの基は社員力

長野県駒ヶ根市

天竜精機

省力専用機メーカーとしてユーザーから圧倒的な信頼を得ている天竜精機は、1959年創立、4代目社長芦部喜一氏(54才)は、「私は天竜精機に入社して6年、現場は社員に任せています。」とさらりと言ってのける。長野県駒ケ根市の本社工場を訪ねた。

会社見学はいつでも誰でもウェルカム

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芦部社長の「任せる」の一例が会社見学者への説明担当だ。総務や営業ではなく、各部署ごとに、しかも交代で説明を行う。自分が毎日やっていることを自分のことばで説明するのは難しいことだ。仕事は中断しなければならない。見学者からどんな質問が出るかもわからない。人前で話す練習も必要だ。しかしそこをあえて「ウチは、会社訪問・会社見学は大歓迎です。」と芦部社長は語る。そんな会社のものづくりの現場に一層興味が増す。

仕事は「考える」創造型

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クリームハンダ印刷機を造る

天竜精機の事業の大きな柱は、2つ。一つは「クリームハンダ印刷機」。プリント基板上にハンダを塗るための機械で、ポイントは位置決めと微細な部分にもハンダを必要なだけ塗布する精度。いわゆる標準機と呼ばれている。効率を上げるための印刷速度やラインレイアウトにあった仕様・大きさの汎用性も大切だ。誰にでも使えるという操作性も高く評価されている天竜精機の製品群だ。オーダーを受けて製造する専用機とは異なり、販売はカタログが中心。関連製品としてカット・フォーミング機、ラジアルバルク部品カット機、エンボステーピングマシン等も製造しているが、「さらに売り上げの柱となる製品を造り出したい」と、標準機グループの担当者は意欲を見せる。

専用機は「技術力」と「スピード」

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もう一つの大きな柱は、電子部品メーカーや精密機器メーカーから注文を受け製造するコネクターの自動組み立て機、いわゆる省力専用機と呼ばれている製品だ。設計から製造まで一品一様、一つとして同じものがない。設計エンジニアも、製造現場も「考える」ことから取り込まなければならない。しかし、求められるのは機械を造る技術力ばかりではない。以前は5か月かかっていた納品を、半分の納期で、さらには2か月で納めてくれという注文が来るというのだ。ニーズに応える技術力は当然のこと、設計から完成までの納期をいかに短縮するか、いわば「時間を生み出す」技術が必要なのだ。

「時間を生み出す」技術力

グラフが語る"仕事"

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どうすれば、設計から完成までの時間を短縮できるのか。芦部社長は「仕事への意識」を挙げる。 天竜精機では、経理・人事・庶務を担当する総務部門のほか、専用機の営業見積もりと標準機の自社開発を行う営業技術部門、設計を行う技術部門、資材管理部門、部品の加工を行う加工部門、専用機の組立を行う組立部門、標準機の製造を担当する標準機グループ部門と7つの部門に分かれている。

各部門には具体的なスローガンがある。例えば技術部門のスローガンは「納期遵守」「今年は標準ユニットを50%以上にすること」。標準ユニットの割合がプリントアウトされ掲示されている。「ここ3ヶ月で45%になりました。これが60%70%になると短納期へ大きな力になります。」
tenryuseiki07.jpg 職場の入り口近くに掲示されたグラフを前にした説明は説得力がある。そのために設計用の参考資料は21名のメンバー一人一人に配って意識を共有しているという日々の工夫もわかりやすい。

組立部門では、横軸が日付、縦軸が進捗という日程管理グラフを前に説明を受ける。設計から納品まで理想は45度の直線グラフなのだろうが、必ずしも一定ではない角度のグラフだ。あわせてところどころに土曜出勤というメモ書きもある。1日1日の仕事の動きがよく見える。なぜ遅れたのか、何が出来なかったのか、人の働きまでもが読み取れるグラフだ。まさに「観える化」、このグラフのどこに自分がいるのか、遵守するべき納期はいつなのか、一人一人の意識の中に突き刺さる。

天竜精機に持っていけば

芦部社長は「天竜精機の強さの一つは社員の責任感が強いこと」と語る。下請け工場からスタートし、自社ブランドの製品の製造を始め、専用機に特化してきた会社の歴史の中でギブアップした注文は1回のみだという。あの会社に持っていけば何とかしてくれる、そうお客様に思ってもらえるのは天竜精機の全社員の責任感が築いた輝かしい実績だ。
加工部門のスローガンはまさに「出来る!元気な加工 出来ないとは言わない。会社の元気な源になりたい。」である。更に「不良削減のために 同じ繰り返しはしません。」 まっすぐな意識が伝わってくる。

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明日へ向かって

組織をつくる

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25年間トヨタ自動車でエンジニアを務めた芦部社長は、会社にとって大切なのは「技術」と、「思いを同じくする組織作り」だとして就任後、組織を越えて作ったプロジェクトチームを作り採用活動を行った。
会社のプレゼン資料を作り説明会にも参加したプロジェクトチームのメンバーの意識は目に見えて変わったという。会社にとってどういう人を採用するのがいいのか、学歴か、意識の高い人がいいのかを考える。自分が仕事に責任を持ち、誇りを持って働かなければ、会社を説明することはできない。その後、人事制度についても同様に社員を入れてプロジェクトを立ち上げた。それらの経験が、社員全員が会社の仕事を説明できるという「会社見学はいつでも誰でもウェルカム」に生きている。

明日へのあしあと

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『明日へのあしあと』と記された冊子がある。天竜精機の50年史である。A5サイズで40ページにも満たないものだが、先輩の声をプロジェクトのメンバーがインタビューして集めたものだ。カラー写真や大仰な賛辞はないが、駒ヶ根工業高校の先生に機械加工を教えてもらって、何とか部品らしき物ができるようになったという創業時の話、昭和51年に1億4000万の赤字を出しても受注した機械を納品した話、図面上の手書きの1本の線から生まれた機械の話など、社員でなければ語ることができない、そして集めることができない貴重なエピソードで構成された社史だ。

"厳しい時代を乗り越えていくのは社員の力、社員の気付きしかない"という社長の思いを受け止める107名の社員の視線は、未来に向かっている。

【取材日:2010年9月8日】

企業データ

天竜精機株式会社
長野県駒ヶ根市東伊那5650 TEL:0265-82-5111
http://www.tenryuseiki.co.jp/