[サイプラススペシャル]96 ナノレベルで研究「次世代のハードディスク」 【特集】信大工学部のものづくり③

長野県長野市

信州大学工学部教授 森迫昭光

「もっと大容量を!」日進月歩の記憶媒体
パソコンの未来を変えるスゴいアイデアとは?

 パソコンなどのデータの記憶に使われるハードディスクは、今や「テラバイト」(テラ=兆)も登場するほど大容量化が進んでいます。フロッピーディスクは「メガバイト」(メガ=100万)、10年程前なら「ギガバイト」(ギガ=10億)でも大容量と言われていましたから、記憶装置の進化はまさに日進月歩です。

 【特集】信大工学部のスゴい!ものづくり。第3回は、信州大学工学部・情報工学科の森迫昭光先生の研究「次世代のハードディスク」に注目です。

1平方インチに新聞200年分の情報

ハードディスクの構造は「砂漠のすれすれをジェット機」

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 「砂漠の上すれすれを、ジェット機が飛んでいるようなもの。」森迫先生が砂漠とジェット機に例えるのが、「円盤」と「磁気ヘッド」。ハードディスクの内部です。
 ハードディスクドライブは、磁性体と呼ばれる小さな磁石の粒を金属の円盤に表面に塗り、円盤を高速回転させ、磁気ヘッドを移動させることで情報を読み出したり書き込んだりする記憶装置です。時速にすると200~1000kmという高速で回転する円盤の上、わずか数ミクロの距離で磁気ヘッドが動いています。

限界に挑戦

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 「1平方インチに1テラ以上の情報を入れたいんです。」森迫先生の研究は、よりたくさんの情報を入れることができる次世代のハードディスク。パソコンだけでなく、ビデオの代わりに登場したハードディスクレコーダーなど、世の中のデジタルデータが増えれば増えるほど、ハードディスクはより多くの情報を記憶することが求められます。
 1平方インチ、つまり2.54cm四方の面積に、1テラ=新聞200年分という膨大な情報を入れ込みたい...というのが森迫先生の研究テーマです。「実は、原理的に限界が近い」という「限界への挑戦」とも言える研究は、一体どのような内容なのでしょうか?

「パターンドット」で大容量化

ナノレベルの研究

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 森迫先生の「次世代のハードディスク」は、ナノレベル(ナノ=10億分の1)の研究です。
「高密度にするためには、表面に塗布する磁石のサイズを小さくすればいい。」と、先生。金属の板に小さな磁石の粒をつける方法を考え、実際に塗布し電子顕微鏡でチェックをする...というのが、研究の大まかな流れです。しかしすでにその磁石のサイズは「ウイルスよりも小さく、これ以上小さくできない限界に近づいている」といいます。「ナノレベルになると、ちょっとした熱でも問題がおきるなど記録情報が不安定になってくるので、今までとは違う発想で、違った方法を考えなければいけません。」

四角でなく点(ドット)で記録

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 電子顕微鏡に映し出された細かな点の集まり。この「点」こそ、次世代のハードディスクのカギとなります。
 「今までは、情報を四角のスペースに記憶させていました。しかし、小さくしていくと隣の磁石の影響を受けてしまい、ちゃんと記憶できなくなってしまう。そこで、情報をドット(点)にすることで問題をクリアすることを考えました。」


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 「パターンドット」と名付けられた森迫先生の研究。
「1テラ以上の記録をするために、小さな点(ナノドット)を作り、その点に一つの情報を入れます。これをドットごとに記録してパターン化していく研究しています。」研究室の学生たちは、記憶用の薄膜をつくる研究チームや、断面構造を研究するチームなどに分かれ「次世代のハードディスク」に向けて研究をすすめています。

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夢膨らむ「次世代のハードディスク」

「回転しない」ハードディスクとは!?

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 森迫先生のもう一つのテーマは「回転しない」ハードディスクです。

 「今のハードディスクはモーターを搭載しています。パソコンを立ち上げる度に、グーグルやヤフーで検索をする度に、ハードディスクが回転する。これは全世界でものすごい電力を使用している。モーターが必要ない静止型ハードディスクができれば、省エネルギーになる。それが、研究の夢の1つです。」
 現実離れしたアイデアのようにみえますが、「理論的には十分可能」と先生。情報をナノレベルで直線上に記録し、微細な線上に情報を流す...ということを研究しています。

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全世界のデジタルデータを記録したい

 ハードディスクに代わり、デジカメの記録カードやUSBメモリなどに使われる「フラッシュメモリ」も大容量化が進んでいますが、先生は「より大きなデータを長期間安定的に読み書きするのはハードディスクの方が有利」と言います。

 テレビや写真の「デジタル化」の例を挙げるまでもなく、今やほとんどの情報がアナログからデジタルに置き変わっています。しかし「世界でつくられるデジタル情報に対して、記録できる装置が追い付いていないのが現状」と先生。すべての情報を記録できるよう、森迫先生はナノレベルの挑戦を続けています。

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【取材日:2010年10月14日】

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