長野県長野市
信州大学工学部教授 藤縄克之
夏は冷たく、冬は温か
使うのは「地下水」の熱エネルギー
寒い信州の冬。しかし、地面の中は暖かい。「地中の熱」を冷暖房に利用できたら…。
【特集】信大工学部のスゴいものづくり。今回ご紹介するのは、次世代エネルギーを研究する土木工学科教授藤縄克之先生です。
「100分の1スケールでの実験です」信大工学部土木工学科の研究棟1階には、1m四方もある大型水槽。藤縄研究室4年の大山辰則君が説明を続けます。
水槽の中には、水をたっぷり含んだ砂。そこには、細いU字の銅管が通してあります。「今、40℃の温水を流しているのですが、U字管を出てくると28℃に下がっている。これが冷房に使えないか...ということで実験のデータを集めているところです。」効率よく熱を取り出すため、水を流す量や温度の伝わり方などのデータを集め、シミュレーションを重ねています。
藤縄先生の研究は「地中熱」の活用。次世代の空調システムとして、専門テーマである「地下水」の熱エネルギーで、実際の建物の冷暖房に活用しようと研究を進めています。
「地下水の水温は、年間を通してだいたい15℃から16℃くらいで、ほぼ一定です。ですから地下水は冷房にも暖房にも非常に優れた熱源になります。」と先生。100分の1スケールの実験装置の他にも、研究室ではパソコンを使った地中への熱伝導のデータ解析をおこなっています。
研究室での実験・解析だけではありません。
学生たちは実際に安曇野などへカメラ片手に現地調査に出かけ、盆地の水系を調べるなどの活動も行っています。「地下水の熱エネルギーを有効に活用するためには、実際に地下の水の流れが重要です。ダムが一つできるだけで、地下水の温度が変わるなど、興味深いデータが集まっています。」
信大工学部のキャンパス内にあらわれた、掘削現場。
「あそこは、NEDO(ネド・新エネルギー産業技術総合開発機構)から予算をいただいて地下熱利用の実証試験をやっています。」藤縄先生が指し示す先では、現在、4本の井戸が掘られていました。大学構内の地下水をくみ上げ、キャンパス内の冷暖房に利用しようという実証試験です。
「少し難しい話になりますが、地下水『制御型』を目指しています。」藤縄先生のいう「制御型」とは、より効率よく地下水の熱を活かす実験に他なりません。
第一の特徴は、実際の地下水をそのままくみ上げること。実験室ではU字管に水を送り込んでいましたが、実証実験では地下水をくみ上げ、地上で熱交換、つまり冷暖房につかう熱を取り出します。
さらに凄いのは、第二の特徴。いったん地上で熱を取り出した地下水はふたたび地下に戻し、さらに半年後にその水を取り出します。「夏に冷房で使って熱くなった水を、冬の暖房に使えば、より高いエネルギーが獲得できます。」
地下水の流れを計測し、複数の井戸で地下水の出し入れを行うことで地下水を「制御」する。これぞまさに、次世代型の研究です。
「地下水が流れる地層は、上部にいくつもの空気を含んだ地層があるので、ちょうど魔法瓶の構造になっています。」だから半年後でも熱エネルギーを活用できる、と藤縄先生。
ちなみに来年(2011年)の夏からは、掘削現場の横にある講義棟の一部で、100パーセント地下水を活用した冷暖房が入る予定です。
「長野県はエネルギー資源として有望な地下水が非常に豊富にあります。ですから長野県で地下水は新エネルギー資源として最適です。」
地下水の熱を使った冷暖房は、太陽光や小型水力発電につぐ信州に適した自然エネルギーの柱として注目を集めています。
(研究室のご案内)信州大学工学部 藤縄克之