[サイプラススペシャル]99 製造・販売・技術が一体となったコンプレッサー 空気圧縮に活かされるミクロの技

長野県長野市

中村コンプレッサー製作所

ものづくりは「面白くって仕方ない」
1枚の履歴書に込められたコンプレッサーへの想い

 鉄に刻まれた「NAKAMURA」の文字と、1枚の紙。中村コンプレッサー製作所で造られるコンプレッサーには、すべて「履歴書」が付いている。工場での動力源や、冷房機などに使われるコンプレッサーは「縁の下の力持ち」だ。
 製造のみならず、全国での販売やメンテナンスも行う中村コンプレッサー。さらにコンプレッサーの技術を応用し、「発明品」とも呼べる新しい製品を世に送り出してきた。経営者自ら「面白くって仕方ない」と語る、製造・販売・技術の「製・販・技」が一体となった企業に迫る。

つくりっぱなしにはできない

コンプレッサーは「縁の下の力持ち」

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 「一台、一台、自分たちの責任で作っていることの証拠」と、黒柳功一社長は履歴書添付の理由を語り始めた。
 水門の開閉や、消防のスプリンクラーの発電用などにも活用されるという中村コンプレッサーの製品は、一度設置されると十数年交換なしに働き続ける。まさに「縁の下」で力を発揮する存在だ。

 

 

「ニッポンでしかできない」ものづくり

 「世界のトヨタ...とまではいきませんが、自分で作ったところの責任を全うしたい、お客さんにご迷惑かけないということで履歴書での管理をしています。それに、後々しっかり管理ができるのがメリット。」
 自社製品を含めたコンプレッサー一式の取り付けや販売、メンテナンスまで手掛ける企業だからこそ、「つくりっぱなし」にはできない。「今、ものづくりが中国などへシフトしていますが、こういうひとつひとつの細かさは、他ではできないと自負しています。」


「製・販・技」が一体

 履歴書と並ぶ中村コンプレッサーの特徴は、販売やメンテナンスまで行う業務スタイルだ。「製造、販売、技術で『製・販・技』が一体となっている」と、社長。長野市の他に、塩尻と埼玉県に営業所を構える。 例えば、長野を代表するキノコの会社。生産工場できのこの菌を植えるときなどに活躍するコンプレッサーは、中村コンプレッサーが手掛けている。設置からメンテナンスまで、北海道や九州、台湾など国内外を問わず対応する。

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コンプレッサーに秘められたものづくりのワザ

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手のひらで、性能を「感じる」

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 激しいビートのように、腹に響く低音を立てて動くコンプレッサー。完成間近の試運転だ。黒柳社長は、ピストンに軽く手をあてた。「手で感じられる振動と、音と、伝わってくる温度で、だいたいわかります。」製品の性能は、長年の経験で判断できるという。

 鉄を削り出したいくつもの部品を組み立て製造されるコンプレッサー。うまく組みあがっていないと異音がするだけでなく、摩擦などから余計な熱が発生する。それを手のひらで感じるというのだ。


ピストンとシリンダーは「ミクロの世界」

 コンプレッサーは空気を圧縮する機械。タンクから勢い良く噴き出す空気は工場での動力源や、冷房機などに使われる。
 大事な部品のひとつは、空気を圧縮するためのピストンだ。1分間に800回という高速で上下する。

 シリンダーとピストンの隙間は、わずか1000分の2mm~5mmというミクロの世界。少しでも隙間が広ければ空気が漏れるし、逆に、隙間が無ければピストンは動かない。
 その上、微妙な温度も影響する、と黒柳社長。「シリンダーとピストン、ピストンリングとの材質が違い、それぞれの膨張係数が違う」摩擦や室温などの熱によってどれだけ金属が膨らむか...まで計算し、ピストンを高速で効率よく動かす必要がある。「すくなくても5年から10年の経験が必要。」職人のワザが活きている。

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コンプレッサーだけじゃない

「どうしたら効率よくできるか」で発明

 中村コンプレッサーの凄さは、コンプレッサーだけではない。空気を送り出す技術を応用した「新商品」「発明品」を世に送り出している。

 例えば、空気の勢いで、ネギの皮をむくマシン。泥のついたネギを特製の台に置くと、両側から勢いよく空気が噴出し、その勢いで皮が剥ける。「農家の方々が、収穫の終わった夜、裸電球の暗い作業所で一本一本ネギの皮をむいている姿を見て、どうにかならないかと。」

 ほかにも、空気を送り込んでレンコンの根を切る農機具などいくつもの製品を世に送り出している。「技術的には、他の会社でもできることばかりです。ただ、どう動かしたら効率よくできるのか?と考えることが、技術の向上につながる」と、黒柳社長。「高い授業料ですが」

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「ものづくりが好き」だから

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 新商品のメインのターゲットは、関西圏のスーパーや、九州の農家など。黒柳社長自らが各地を飛び回り、直接現場からの声で「発明品」が生まれている。
 独自のものづくりは大正8年の創業時からの「技術の積み重ね」があるからこそと、黒柳社長は言う。「こういう装置をつくってくれないか?」「あんなことはできないか?」などの要望を受け、製造・販売・技術が一体となって、中村コンプレッサーは独自のものづくりを続けている。
 「ものづくりが好きなんです。これに尽きます。」なぜ、発明を続けるのかの問いに、黒柳社長は笑顔で答えた。

【取材日:2010年10月14日】

企業データ

株式会社中村コンプレッサ-製作所
長野県長野市大字津野330-1 TEL:026-296-9121
http://www.nakacon.com/