[サイプラススペシャル]114 世界のギターファクトリー 長野発の世界ブランド“FUJIGEN”

長野県松本市

フジゲン

松本市に本社を置く楽器製造メーカーフジゲン株式会社、1983年には月産1万4千本という出荷本数を達成し、「世界一のエレキギター工場」と称された。現在のエレキギター出荷本数は1ヶ月に2千5百本から3千本、しかし、創業から半世紀、フジゲンのコア技術「木材加工」「塗装」「音」の3つの柱は、OEM生産のみならず自社ブランドにも結実、牛小屋でギター作りをスタートさせた創業者の熱い思いは、世界の音楽シーンで活躍する“FUJIGEN”ブランドに受け継がれている。

どんなギターでも作る

「富士弦」を「フジゲン」に

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フジゲンの旧社名は「富士弦楽器製造」、1960年創業のエレキギターメーカーである。社名に「富士」を冠したのは、日本一のメーカーを目指したから。
「今年で52年目です。長い間OEM生産を中心にやってきました。52年間、エレキギターを作り続けたフジゲンの技術、どんなギターでも作ることが出来ますよ。」4代目社長の上条啓水社長は、自信を持って語る。


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もちろんエレキギター製造で培った木工加工や塗装の技術で、ウクレレなどの楽器製造やその他の事業展開もしているが、今や「富士弦」は「フジゲン」として、日本一どころか世界中のアーティストから高い評価を得る世界のギターファクトリーとして事業を展開している。

完成品を作っている以上

「エレキギターという完成品を作っている以上は自社ブランドを持ちたい、これは前社長の思いでした。」製造から、販売、メンテナンス、アフターサービスまで、一貫して自社で対応できるのが、フジゲンの強み。しかし、嗜好性が強い感覚の世界の製品でありながら、価格勝負は避けられない。
次第に台頭してくるアジアを中心とする新興国の製品との価格競争に勝ち残るのが難しくなった。しかし、50年作り続けてきた技術と製品はどこにも負けない。フジゲンの技術を集約した自社ブランド「FUJIGEN」が生まれた。


「あなただけのオリジナルギターを」

国内で5年前に立ち上げた自社ブランド、海外では3年目にして20カ国にも広がっている。販売方法も、全国の楽器店や自社の店舗のみならず、ウェブ上にオーダーフォームを作って「あなただけのオリジナルギターをあなたが創る」という画期的な販売方法を取っている。ボディの材料から、色、ハードまで基本パターンの中から、完成の画面イメージを確認しつつ選んでいく。オーダーから完成までの製作工程はメールで写真を送るサービス付き、作り手とのコミュニケーションで、楽器を手にする期待は大きくふくらむ。「思った以上に売り上げが伸びています」と上条社長は言うが、これまで培ったフジゲンの音への高い評価であり、「FUJIGEN」のギターを待っていたファンのメッセージでもあろう。

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「すべての工程に意味がある」フジゲンのこだわり

良質な素材求めて

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エレキギターの材料は、メイプル(かえで)・アッシュ(とねりこ)・アルダー(ハンノキ)・ローズウッドなどの木材だ。世界各国からこの木材を買い付けるところから始まるのがフジゲンのギター製造だ。創業以来50年以上に及ぶ取引先からの供給はもちろんのこと、必要があれば担当者が直接現地に赴く。色や木目などは製品の仕上がり、何よりも楽器になったときの「音」に大きく影響する。木材の成長した環境をみて材料を選ぶ、ここが加工工程の第一歩だ。

蒸気で乾燥する

世界中から集まった木材は、まずは工場のある大町市の空気と水で自然乾燥するが、その先に待っているのは、なんとボイラー。木材に蒸気を当てながら一定の時間で乾燥させるという「蒸気乾燥」の工程である。365日、ボイラーの火が消えることはない。乾燥用のお湯を沸かし続けているからだ。

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広い乾燥室の一部を特別に覗かせてもらうと、天井近くまで様々の厚さの板が桟積みされている。木材によって乾燥度合いは異なるが、木へのダメージを最小限に抑えられる蒸気乾燥の方法で、含水率が5%前後までになるとようやくエレキギターの材料になる。現在はさらに質の高い材料を作り出したいと北海道の協力工場でも蒸気乾燥を行っている。

「こんなやり方をしている工場は世界にもほとんど類がないかもしれませんね。」工場の案内役の今福部長は話す。しかし「楽器になったときの響き、フジゲンのトーンをだすためには必要な工程です。」


木目と木取り

木材がエレキギターの材料になると、ボディやネックへの加工作業が始まる。木目あわせや木取り、接着そして磨きの工程が続く。木の種類や色の濃淡だけではなく、木目も組み合わせの重要な要素だ。見た目だけではなく、堅さや強度、製品のクオリティにも影響する工程。微妙な手の動き、板の上を走る視線、緊張の中にも手作りの醍醐味が伝わってくる。

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最終作業は「Inspiring Your Music」

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松本市の本社工場で塗装された製品は再び大町市の工場に戻る。ボディは木目を生かしたもの、ブラックやホワイトといった定番の色を塗ったもの、更には特別な模様を描いたものなど、一台一台の個性が徐々に浮かび上がる。指板を仕上げ、配線、部品の組み付けとセットアップ、そして検査と気の抜けない作業だ。

最終工程は梱包。専用の箱には「Inspiring Your Music」の文字が見える。フジゲンの製品は、この箱の中のエレキギターではなく、この一台一台から生まれる音そのものだろうと得心する。


技術に思いを加えることで製品になる。

職人の技を継承する

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松本は、もともと家具生産が盛んな土地柄、優れた木材加工の職人が多くいた。フジゲンも少し前までは木材加工が好きな人がたくさんいたというが、今はギターが好きで入社する若者が増えているそうだ。「ギター好きが作るギター」のメリットはもちろん製品にもでるが、一方、木材加工の技術は1年2年で、習得できるものではない。「技術」と「好き」のバランスを取りながら、どう若い世代に技をつないでいくかが課題と今福部長はいう。

工業製品でもあり嗜好品でもある

しかし、ギターが大好きな社員が作っているということはフジゲンのもう一つの強みでもある。木材の買い付けからエレキギターの製造販売メンテナンスすべてを知り尽くし、しかもエレキギターのプレーヤーでもある今福部長もその一人だ。


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思いを込めた自社ブランドは、社員のギター作りのモチベーションを高め、製品づくりのスキルを押し上げたと語る。工業製品とはいえ、基本は手作り、音質の良さだけでなく、演奏のし易さ、手触り、バランスなどの感覚で選ばれるのがギターである。作り手の感覚が製品にも大きく反映する。

世界のブランドへ

フジゲンのエレキギターは、世界の一流のアーティストが数多く使っている。演奏シーンがホームページで紹介されている。たくさんの言葉は不要だ。熱い音楽シーンにプロも満足する音を提供しているこれがフジゲンの実力なのだ。
「日本発・長野発のブランドを世界の一流ブランドにしていきたいですね。僕自身は、エレキギターは弾きませんが。」上条社長は明るく笑った。

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【取材日:2011年2月9日】

企業データ

フジゲン株式会社
長野県松本市平田東3-3-1 TEL:0263-58-2448
http://www.fujigen.co.jp/