[サイプラススペシャル]117 “総合力”であらゆるニーズに応えるものづくり DNAはタイプライターの製造技術

長野県坂城町

中島オールプリシジョン

大正時代に使われていた鋳物製のミシン、タイピストというかつての女性の代表的な職業をつくったタイプライター、現代のウォータービジネスを支える水宅配用のガロンボトル。これらの製品から何を想像するだろうか。まったく関係がない製品、ではない。実は、この3つの製品をつなぐものづくりが長野県にある。大正12年創業、今や坂城町を中心に世界中にネットワークを広げている中島オールプリシジョンを訪ねた。

中島オールのDNA

タイプライターといえば中島オール

nakajima-all03.jpg

「中島オールの主力製品は?」の問いに、後藤宏文社長は「一言ではいえないのが我社の特徴」とにこやかに語った。しかし、次には「中島オールのDNAはタイプライターを作り上げた技術。タイプライター製造で培った技術のメカとハードとソフト、それがあれば、電子機器・事務機器と称するものは、基本的にはほとんどできます。」と力強い言葉が続いた。


ミシンからタイプライターへ

nakajima-all04.jpg

1923年(大正12年)東京都港区で家庭用ミシンの製造からスタートした中島オールは、第2次世界大戦中に長野県へ疎開、戦後は、ミシン本体の鋳物鋳造、ヘッドユニット・モーターや各部品の製造、加工や組立まですべて社内で行うという一貫生産体制をとり、ミシンメーカーとして発展してきた。しかし、ミシンモーター月産25,000台という生産実績を維持する一方、1960年代に入ると、OA時代の到来を見据え、欧文タイプライターの製造に着手した。 開発設計から生産までの一貫生産や、材料自給率は100%自社で行うという方針に変わりはないものの、手動から電動へさらに電子タイプライターへと技術開発を進めた。1970年から1980年代は世界市場のシェア38%を獲得し、まさに「タイプライターといえば中島オール」の時代を築いた。「最盛期には、年間100万台のタイプライターを県内の10ヶ所の工場で生産していました。従業員も1,300名ほどいました。」と語る後藤社長、しかしその言葉には、当時を懐かしむような気配はまったくない。

nakajima-all05.jpg

生産台数は減っても

nakajima-all06.jpg

「1990年代に入り、タイプライターに代わるワープロ・パソコンが出てくると新製品を模索しました。そこで生まれたのがプリンターや、ファクシミリです。一方では電子技術を使ったハンディターミナルの技術研究やバーコードを読み取る機器の開発もしました。」 現在、中島オールの製品紹介というウェブページやパンフレットには、用紙処理関連機器、決済端末関連機器、事務機器プリンター、通信映像用関連機器など10種類以上の分野にわたって様々な製品が紹介されている。OEMやEMS生産で提供するものも多い。キャッシュレジスター・モバイルプリンター・ハンディターミナル・ICカードリーダーライターなどの製品は、検針業務や宅配業者、コンビニエンスストアでも使われており、我々の生活に広く深く関わるものが多い。使用用途が狭くなってきたタイプライターそのものの生産台数は7~8万台に減っているというが、これら中島オールの製品のベースには、後藤社長のいう"タイプライターの開発製造のDNA"がある。

nakajima-all07.jpg

タイプライターを受け継ぐ製品群

紙を送る、紙を反転させる

nakajima-all08.jpg

例えば用紙処理関連機器の一つ、ダイレクトメール等で使用される封をした葉書を制作するのはシーラーとディタッチャーの複合機。この機械に素材となるシートを挿入すると、わずか1メートルほどのローラー上で、2ケ所に折り目を入れ、畳み、シールをし、指定サイズに不要な周囲の素材をカットして出てくる。「ここに使われている"紙を送る""紙を切る"技術はタイプライターのノウハウなんです。」紙の厚さや発注先の仕様に合わせた「微妙な調整」が続く製造現場で説明を受ける。

文字や数字を打つ

また、例えば決済端末関連機器、OEMで作るキャッシュレジスターがその代表格だ。生産の中心はインドネシアだが、世界各国で使われている製品である。商品の販売価格を計算し、記録し、決済する。一連の機能は同じでも、通貨の単位や文字は国ごとに異なる。ここで生きるのはタイプライターの製造工程で培われた印字の種類や内容を顧客ニーズに応じて製品化する技術だ。

nakajima-all09.jpg

更に新たな分野

nakajima-all10.jpg

そして、今まさに世に出ようとしている新しい製品がある。水宅配用のガロンボトルである。  「これは、タイプライターのケース本体をつくったプラスチック成形技術の発展系です。工場見学にきたお客様からこんな商品は出来ないかと依頼を受けたのですが、今後の事業の柱の一つになっていくのではないかと思っています。」後藤社長の期待は、大きい。

中島オールが取り組むのは、耐久性があるポリカーボネートという成形材料を使ったリターナブルガロンボトルの製造だ。まずプリフォームの成形工程。射出成形機を使用し、材料のペレットを乾燥させた後、専用の金型に射出され、プリフォームが完成する。続いてそのプリフォームを専用の成形機を使って膨らませ、自動的に取手が付き完成させる。ボトルの口から空気を入れ、漏れや、外観検査を行い出荷となる。これまでのやり方はプリフォームから最終成形までを一台の機械で行っており、1個のボトルを作るのに時間がかかった。射出成形機でプリフォームを成形し、後工程でガロンボトルをつくる製法が完成すれば世界初、コスト面でも効率面でも大きな貢献となる。タイプライターの生産で培ったプラスチック成形技術のノウハウを持つ中島オールだからこそ、できた技術といえる。

総合力と一貫生産

nakajima-all12.jpg

後藤社長はガロンボトル製造を例に挙げながら「今までの技術と経験を活かして新しい展開を日本で考えていきたい。」と語る。現在社員は150名、男性60~70名の内8割が技術系で、 開発・生産技術に40名ほど技術者を配置する。開発設計だけ、部品調達だけというニーズにも応えるが、何と言っても、材料の調達から、設計・生産・検査・品質保証まで、一貫して製品製造できる総合力が中島オールの強さだ。国際化企業としての信頼性試験設備や検査設備も充実している。

「今後は日本でつくるメリットのあるもの、日本でつくったほうがいいものへと特化していきたい。」と力強く語る後藤社長が目指すのは「経済の変動や、社会状況に惑わされない、どういう状況であってもものづくりができるという安定した会社」だ。 タイプライター製造のDNAが、中島オールのものづくりを創造していく推進力になっていくに違いない。

【取材日:2011年3月25日】

企業データ

中島オールプリシジョン株式会社
(第2工場) 長野県埴科郡坂城町大字上五明1480  TEL:0268-82-3300
http://www.nakajima-all.co.jp/