[サイプラススペシャル]122 薬草の宝庫木曽で生まれた「御岳百草丸」 歴史を重ねて信頼のものづくり

長野県王滝村

長野県製薬

社名よりもその製品「御岳百草丸」で知られているのが長野県木曽郡王滝村にある「長野県製薬」。敷地内で車を降りると山の澄んだ空気にかすかに生薬の匂いが混じっている。門の近くには、青空に向かって力強く伸びる木、根元にはキハダの名が記されている。300年を超える歴史を持つ御嶽百草、それを現代に受け継ぐ「御岳百草丸」、まずは工場に向かう。

9つのドアの向こう側

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「残念ながら、生産現場には入れません。この見学者コースで説明しますので。」確かに、古くは木曽では各家庭でもつくられていたという御岳百草だが、長野県製薬の工場で生産されているのは第2種医薬品「御岳百草丸」、その製造ラインは徹底した衛生管理下におかれている。生産現場までには9つの扉があるという。その向こう側にある自動制御のライン、「薬」という生命関連商品を扱う厳しさは、見学者コースのクリーンな環境からも伝わってきた。

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原料の確保は植林から

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工場入り口には直径10センチ程の枝がむき出しに置かれ、壁のショーケースには木の皮が展示されていた。これがキハダの枝と「御岳百草丸」の主原料であるオウバクである。キハダはミカン科の落葉高木、昔から御嶽山の麓に自生していた樹木だ。このキハダには、ごつごつした外皮の内側にやや黄色がかったもう一つの樹皮=内皮があり、この内皮を乾燥したものがオウバクとよばれる「御岳百草丸」の主原料だ。「御岳百草丸」は合成化学品とは異なり自然界にある材料を薬として利用するいわゆる生薬、実際には山で20年から30年と成長したキハダの内皮が原料として使われている。内皮は厚ければ厚いほど良いとされているが、木曽山中だけではなく、国内産のキハダそのものが少なくなっている今日、天然物のオウバクは本当に貴重だそうだ。「村道を開けるために切ったという立派な天然のキハダが長野市の鬼無里から持ち込まれたこともありましたが、今は、9割が中国産。だから会社の周囲の山林だけではなく、地元王滝村全体でもキハダの植林を進めてもらっています」。とは説明担当者の話。まさに自然相手の長い戦略が必要な製品、お金では買えないまさに生きもの相手のものづくり取り組みだ。


竹の皮に包まれた護身薬-オウバクエキス

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次はこのオウバクのエキスを抽出し、濃縮する工程だ。抽出槽と書かれた直径2メートル、高さ1.5メートルほどの2つのステンレス製のタンクが部屋の真ん中に見える。天井の高さは7~8メートルもあるフロアだ。この抽出槽に150キロずつのオウバクを入れ、熱湯を通し、エキスを抽出する。蒸発缶・温水槽・水洗塔を通り、煮汁はさらに濃縮される。すべて自動制御で、オウバクを煮出す、フィルターで濾す、濃縮するという作業を繰り返し、オウバクエキスを抽出する。

このエキスを更に濃縮し、固形化したものが「百草」、竹の皮に入った百草の真っ黒な塊は、護身薬として各家庭に置かれていた時代もあった。今はチョコレートのように板状にした製品が店頭に並ぶ。

様々な薬草とあわせて

「百草丸には百の薬草が使われているのですか。」「百の薬草は使われていません。ただ1種類の薬草にもたくさんの成分が含まれています。その成分は、百以上になるかもしれません」。薬学部卒の家高社長(58才)は、穏やかな口調で百草丸の歴史を語った。

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もともと王滝村は、古くから修験道の道場として有名な木曽御嶽山の麓の村だ。修験者たちがその製法を伝えたという百草に、地元のセンブリやゲンノショウコ、コウボクなどの薬草加え、飲みやすく丸剤にしたものが今日の「御岳百草丸」、粒状にして周囲にくっつかないようにコーティングしたものが「御岳百草顆粒」、すべてオウバクエキスを原料にしている生薬である。

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どんな薬草をどのくらい加えるか、含有成分量を勘案し、飲みやすさや効目を研究開発してきた結果が今日の長野県製薬の製品、だから効目はもちろんだが「家庭薬・常備薬として飲みやすさを比べて欲しい。」家高社長は、自社の製剤技術を語る。
「気を使っているのは製剤を製造する環境です」。空調はもちろんだが、製造工程で使われる設備はすべてステンレス製にするなど、製品の安全性、品質を保持するために力を入れている。

さらによく知って

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「御岳百草丸」は沖縄から北海道まで広く販売されているが、もっと自社製品を知って欲しいとはじめたのが、工場の見学者コース。1976年、王滝村に工場を移転したときにつくったものだ。30年以上も前からである。中心となるのは、自動化されている百草丸の瓶詰めやパッケージ工程だが、オウバクエキス以外の原料となる薬草も工場内の展示されている。乾燥した形からはわかりにくいが、花や葉も写真で紹介され、一つ一つは身近な植物だ。今も変わらずここ木曽を中心に採取される。以前ほどではないが今でも年間2万人もの人が見学に訪れるそうだ。自分の目で、原料を見、製造工程の説明を受けることで、御嶽百草の歴史に自分自身の健康を無意識に重ねるのであろう。

「生薬の歴史 健康を明日へ」

長野県に薬学部がないため、研究は県外の大学との連携になってしまうが、生薬・天然素材にこだわった製品をつくりたいと語る家高社長に今後の抱負を尋ねた。「トヨタもソニーも小さい所から始まって大きくなった。ここ王滝村で長野県製薬が大きくなれば地域も潤います。若い人にはそれを伝えたい。それから、木曽の水、木曽の空気を背景に良い製品を出していきたいと思っています。新たな分野で新しい商品開発をしたい。けれどもこれまで培った消費者の信頼を裏切ってはだめです」。

「生薬の歴史 健康を明日へ」工場内に掲げてあった言葉が思い出された。

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【取材日:2011年5月11日】

企業データ

長野県製薬株式会社
長野県木曽郡王滝村此の島100-1 TEL:0120-437-193(フリーダイヤル)
http://www.hyakuso.co.jp/