[サイプラススペシャル]123 TIYODAブランドの新製品で「新しい市場」へ コア技術は「電子制御・超音波・圧力容器」

長野県千曲市

千代田電機工業

キレイにシートを貼り付ける新製品
「一貫生産」の強みを活かした戦略とは?

 圧力容器などを手掛ける千代田電機工業は、新製品を開発した。
 「自動加熱加圧装置」という一見難しそうな名前だが、液晶パネルに保護用などのフィルムを張り付けたときにできる小さな空気の泡を、熱と圧力で消してしまう装置だ。従来の液晶パネルのほか、家電やクルマ関連などへ用途が広がるという新製品。
 従業員約70人。「完成品づくりにこだわる・研究開発型企業」千代田電機工業は、新製品で新たな市場開拓を狙う。

気泡が消える!?

「実際にやってみましょう」

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 コインランドリーの脱水機のような形をした銀色の筺体。四角い厚いふたを開けると、中は円筒形のスペース。TIYODAのロゴマークが入った、千代田電機工業の新製品だ。

「それじゃあ、実際にやってみましょう。」
 営業担当の山内雅之次長は、ステンレス板に手際よくビニール製の透明なシールを貼り付けた。「本当はもう少しキレイにやらないといけないんですが。」手にしたシートには、斑点のようにいくつもの空気の泡が入り込んでしまっている。「すべて消えてしまうんです。」

 装置に入れて、スイッチオン。あとは待つだけ。数分後、中から取り出したステンレス板の気泡は見事に消えていた。「熱と圧力を加えて、空気を押しつぶす。『消す』でなく、『見えなくする』というのが正確な表現」と、山内次長は笑った。

「失敗!」シートの中に空気が入ってしまう事、ありませんか?

 デジカメや、スマートフォン、携帯型ゲーム機の液晶画面が傷つかないよう、表面保護シートを貼る際、空気が入ってしまってがっかりした経験はないだろうか?
 千代田電機工業は、この泡を見えなくする「脱泡処理」の装置を開発した。

 「最高温度は160度、大気の約8倍の圧力。」
 千代田電機ではもともと、液晶パネルにシートを貼り合わせた後の気泡除去を行う装置を手掛けている。圧力容器の製造技術を活かし、新製品では大幅に性能をアップさせた。
 従来よりも高い圧力と温度で加工が可能な新製品のもう一つの特徴は、多様なプログラム設定ができること。薄いシートだけでなく、より難しいガラス同士の貼り合わせや、厚いフィルムの脱泡が可能になるという。

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狙いは「新規市場開拓」

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 「今までのコア技術を基にして造られた装置。液晶関係や電子部品業界など、新たな市場を開拓する製品です。」千代田電機工業の七尾廣美社長は、いくつもの自社製品を前に、ゆっくりと説明をはじめた。

 七尾社長が言う「新たな市場」こそ、新製品に込められた千代田電機の戦略だ。性能がアップしたことにより、従来の液晶パネルだけでなく、家電や自動車部品などで使われるプラスチック成型などへ用途が広がる。つまり、これまでとは違った新しい顧客に対して製品の販売が可能になる。「新規市場開拓」だ。

「まねできない」圧力容器とは?

コア技術は「電子制御・超音波・圧力容器」

 社員全員の名刺には、社名の前に「電子制御・超音波・圧力容器の」というキャッチコピーが記されている。
 1979年創業の千代田電機工業は、もともと医療関係の装置づくりが専門だ。ここで培った電子制御・超音波・圧力容器の技術を3本柱に、現在は医療だけでなく、半導体や電気・電子を中心に幅広い分野のものづくりを支えている。

 「メスやピンセットなどの医療器具の、滅菌や洗浄装置をつくることからはじまった」と、七尾社長。空気の泡を消す新製品で使われる圧力容器の技術は、蒸気で滅菌する医療用の装置が原点だ。

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キケン!爆発物と同じ!?

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 「圧力容器は、爆発物を扱うのと同じ」と、七尾社長は表情が険しくなった。「容器の中は、大気圧の8倍の圧力。もし欠陥があれば、爆発など重大な事故につながる。」
 千代田電機の加熱加圧装置の一番の特長は、圧力容器をつくる技術力だ。

 案内された工場の製造現場には、大きなステンレス製の窯が並んでいた。スタッフがひとつひとつ丁寧に、ステンレスの板を折り曲げ、溶接していく。
 「製品は2重、3重の安全対策が施されている」と、坪井清副社長。工場で作られた製品は「1台1台専門の検査官による構造検査と溶接検査を受けています。」圧力容器をつくるということは、国が定める厳しい法律や規則をクリアしないとできない。
 「一番は安心と安全。信頼です。設計から溶接、検査を経て、最終製品へ組み立て、さらにアフターサービスまで一貫してできる。」

磁石のチカラ!温度制御のスゴいワザ

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 「ムラなく熱を伝える。温度の制御が難しい」と、坪井副社長は説明を続ける。
 圧力容器製造ノウハウとならび、千代田電機の加熱加圧装置のもうひとつ特長は、温度の制御だ。

 温かい空気は上へ、冷たい空気は下へ。空気の対流現象の影響で、どうしても容器の中には温度のムラができてしまう。小型の扇風機をつければいいが「爆発物を扱うのと同じ」圧力容器内でファンを回すのは至難の業だ。
 「磁石の力で、回すんです。」
 容器の内側にファンのみを設置。これを回すのは、容器の外側に取り付けたモーターだ。モーターとファンにそれぞれ磁石を取り付け、磁力でファンを回す。
 「これは他社には真似できない、私たちの特色・技術。」磁力で回すファンを使えば、圧力を高めても温度を一定にすることができ、微妙な温度調整を必要とする顧客から高い評価を受けている。

「TIYODA」が切り拓く新たな市場

開発研究型でいこう、と決めた。

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 「毎月50種類くらいの製品を生産している」と、七尾社長。
 現在の千代田電機の主力は、産業分野と医療分野。半導体や液晶などのフラットパネル、産業洗浄などの産業分野に加え、病院設備や採血関連など、幅広い分野の製品を手掛ける。

 「はじめから『開発研究型』でいこうと決めていた。」
単なる機械加工でなく、ユニット品や完成品を作る。この方針は、七尾社長が創業の時から貫く、千代田電機のポリシーだ。

生きる道は「価値の高い」ものづくり

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 「価値の高いものを作る、これが生きる道。」七尾社長は、自らを「非効率な極少量を作る」会社と紹介する。
 もともと地元の医療機器メーカー千代田製作所(現サクラ精機)グループとしてスタートした千代田電機は、核となる技術を元に、事業分野を拡大してきた。

 なぜ、医療から産業分野へ展開できたのか?その答えは、開発設計から品質保証まですべてをサポートする一貫生産体制にある。
 「一番大事なのは、つながりなんです」と七尾社長。完成品を納めメンテナンスまで行うことで、顧客からの情報を吸い上げ、新たな商品を生み出し、新たな市場を開拓してきた。

自社ブランドで新たな市場へ

 「製薬・食品・医療機器分野、それからエレクトロニクス関連に、これから挑戦していくつもりです。」将来の目標は?という質問に、七尾社長は「新たな分野への挑戦」と答えた。

 「現在は30%程度の自社ブランドの比率を、もう少し高めたい。」TIYODAのロゴマークが光る自社ブランドで、千代田電機工業はこれからも、あたらしい市場に挑み続ける。

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【取材日:2011年5月23日】

企業データ

チヨダエレクトリック株式会社(2012年10月より社名変更)
長野県千曲市大字新田124 TEL:026-273-1800
http://www.chiyoda-electric.co.jp/