[サイプラススペシャル]124 あらゆる無線機器を設計・開発 顧客ニーズへの挑戦から生まれた「エンジンスターター」

長野県安曇野市

サーキットデザイン

北アルプスの麓、静かな田園風景が広がる安曇野市穂高に本社を置く「サーキットデザイン」。離れた場所から無線操作で自動車のエンジンを始動させる「エンジンスターター」の開発企業として知られている。無線機器の新製品を生み出す企業として、日本のみならず世界各地で様々な無線機器分野に活躍の場を広げている。

強みは無線のコア技術の蓄積

小規模の無線機器市場を開拓

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「無線というとリモコンをはじめ携帯電話や無線LANなどが一般的ですが、これ以外のちょっと数は少ないけれど必要な分野というものがあります。これを一つずつ掘り起こしていくのが私どもの使命だと思っています。」と話すのは小池幸永社長(60歳)。主力商品のエンジンスターターを始め、セキュリティ・医療の分野など無線機器の設計開発と品質管理に特化した企業だ。

始まりはアパートの1室から

創業は1974年。現会長の丸山和男さんと現社長の小池幸永さんの二人が、東京から故郷の松本市に戻ってアパートの1室で仕事を始めた。まず手がけたのが社名であるサーキットデザインを意味する「回路設計」。

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「資本金がないので、まず紙と鉛筆だけで収入を得られる方法は何かと考えました。電子機器に必ずあるプリント基板の設計ならば紙と鉛筆で出来るので。」と語る社長。その後無線機器に特化して技術の蓄積と市場開拓によって成長を続け、現在年間20億円前後を売り上げる企業に成長したが、創業当初からの無線技術への飽くなき挑戦は変わることがない。

コア技術の蓄積

「コアな技術を押さえたい。新しいコア技術を蓄積していくことが大切。」このコア技術の集大成がサーキットデザインの開発製品である。現在も社員数は49名と決して多くはないが、このうち21名のエンジニアが日々設計開発に取り組んでいる。その大半は地元出身者だが、安曇野の風土に憧れて入社した社員も少なくない。またマーケティングに特化した営業活動も、コア技術の蓄積に大きな役割を果たしている。

顧客ニーズから産まれた「エンジンスターター」

若手スタッフの経験のために

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今でこそ珍しい存在ではなくなったエンジンスターターだが、この分野を開拓したのがサーキットデザイン。1987年、地元の自動車ディーラーからの依頼で、「一旦は断った」ものの相手先の熱意に押されて開発を承諾。開発の中心になったのが当時の新入社員たちで、小池社長たちベテラン社員が前面に出ず、若手の教育・勉強のためにそのフォローに徹した結果開発に成功した。「社員を育てるにはいいテーマを与えること。」こんな小池社長の思いが実を結んだ製品がエンジンスターターだ。

契機は1989年の電波法改正

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エンジンスターターの普及において大きなターニングポイントとなったのは1989年。この年電波法が改正された際に使用が可能になった特定小電力を「これは絶対にエンジンスターターに使える」と確信して開発に着手。このとき設計開発されたのが「ES-89」シリーズで、現在も会社の主力商品となっている。その後各自動車メーカーのOEM供給と自社製品の双方で一気に市場を拡大した。この年にちなんで19-89のナンバーを自らが運転する自動車につけている。

常に新製品を市場に投入

昨年発売されたエンジンスターターの新商品「Pico950」は、業界で初めて950MHzの周波数帯を採用。混信も少なく、通信速度も従来製品に比べて4倍の速度になった。これ以外の商品もプロ歌手がステージで使用するワイヤレスマイクなどの専門的なものから、ゴルフカートのリモコン・火災報知器など我々の身近にあるものまで幅広い。

設計開発に特化した企業

メイド・イン・ナガノの無線機器

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サーキットデザインの社内には製造ラインがない。製造は周辺の協力企業に依頼しているからだ。「長野にはものづくりを極めた企業がたくさんある。その優秀なものづくり企業があるからこそ、我々は設計開発と品質管理に特化できる。」取材当日も品質管理のために無線室での検査や部品のチェックなどが行なわれていた。サーキットデザインは普通の企業では利益を生み出さないと言われている間接部門で、利益を生み出している稀有な企業形態だ。

小さな市場もグローバル化することでビジネスに

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会社のホームページを開くと、真っ先に目に飛び込んでくるのが5ヶ国の言語に対応したトップページ。10年前にドイツのミュンヘンに販売拠点の現地法人を設立し、ヨーロッパをはじめとする世界各国へ市場を広げている。「ニッチな市場でも、世界中から集めてくればある程度の規模になる。」ただ国によって電波法はそれぞれ異なるため、その国ごとの電波法に適合させて製造しなければならない。これに欠かせないのが「ドキュメント」と呼ばれる設計仕様書。部品の設計図から、各国別の電波に適応した使用形態が詳細に書き込まれている。「このドキュメントがしっかりしていれば世界中どこへ持っていっても作れる。」この分厚いドキュメントファイルが会社の技術力の高さの裏付けだ。

新たな設計開発への飽くなき挑戦

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サーキットデザインの無線技術は、無論エンジンスターターなど一部の分野に限られたものではない。東日本大震災で被災した福島原発の復旧活動に活躍する重機の無線にも、サーキットデザインの技術が生かされている。新開発の商品としてまもなく発売されるのが、小型の小動物に取り付け、移動範囲や行動を調べる「LT-01」と呼ばれる発信器。猿や鹿などの有害鳥獣の監視調査や希少動物の保護にも役立つ商品だ。この発信機に使われている電池も特殊用途にも使われている海外製のもの。グローバル企業の一面が伺える点だ。これ以外にも鮎や岩魚など、小型魚類に取り付けるタイプの商品も発売が予定されている。無線のコア技術を社内に蓄積することで、サーキットデザインの無線機器は日本国内に留まらず世界各地で活躍し続けている。

【取材日:2011年6月1日】

企業データ

株式会社サーキットデザイン
長野県安曇野市穂高7557-1 TEL:0263-82-1010
http://www.circuitdesign.co.jp/