[サイプラススペシャル]127 心と体の健康を支えるお茶をつくる 飲む人に幸せになって欲しい

長野県信濃町

黒姫和漢薬研究所

「朝から、庭の草刈りをやっていました。」狩野土社長(51才)は汗を拭きながら椅子に腰をかけた。今回訪ねたのは、長野県上水内郡信濃町、黒姫山麓にある株式会社黒姫和漢薬研究所。「えんめい茶」に代表される健康茶の製造・販売元として知られている。「地域の人々が健康であることを願って山野草を原料としたお茶を作ったのが始めです。」キーワードは『健康』と『しあわせ』、狩野社長はものづくりの心を語る。

信州黒姫高原の開拓の時代から

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黒姫和漢薬研究所は1947(昭和22)年の創業。第2次世界大戦後黒姫高原の原野に開拓者として入植した現社長の父狩野誠氏が、医者が少なく、薬もなかなか手に入らなかった時代に、日々口にする「お茶」のようなもので、健康を維持していくことができればと黒姫山麓のクマ笹やえんめい草、更に昔から体調を整え健康に良いとされるハト麦やクコ、ハブを原料とする「えんめい茶」を創った。その後「えんめい茶」は、味や香りに癖がなく、飽きが来ない飲み物として口コミを中心に全国に広がっていった。

豪雪地帯の信濃町は清浄な水、澄んだ空気の豊かな自然に恵まれた地域、自生する山野草の種類も多い。もともと黒姫高原では田んぼのあぜで甘茶の栽培が行われていたが、狩野誠氏は甘茶の苗を配って積極的に地域の人々に栽培を勧めたという。今では信濃町の甘茶生産量は日本一、甘茶栽培は町の経済を支える産業に成長した。「地域の多くの人に健康で元気になって欲しい」黒姫和漢薬研究所の原点である。

こだわる その1「原料」

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「原料は、自然天然のもの。大事なのは原料を作ってくださる方採ってくださる方が喜んでくれること。我社の製品は、生産者との連携や交流を深めて信頼できる確かな原料で作られています。生産者の思いもこもったものなのです」と狩野社長。原料の作り手の思いが製品の質を左右するとも力をこめる。

主な原料であるクマ笹・クコは長野県産のもの。ハト麦は、富山県で契約栽培、省力化減農薬に努め、乾燥にも工夫を重ねている。出来るだけ国内産の原料を使用しているが、ウコンや三七人参などは直接海外の生産地へ出向き、安全で高品質の原料を調達し、製品化している。「作る人、採る人が喜べない状況では結果としてはいい製品は生まれません。社員がイライラしてものづくりに向かえば、結果として製品の味も良くないのです」。狩野社長の目には土を耕したり、製造に関わる人、一人一人の表情まで見えているようだ。

こだわる その2「焙煎技術」

工場の一角には山野草茶の原料となる箱詰めされた「はと麦」「どくだみ」「クマ笹」「ヨモギ」などが積まれている。美味しいお茶を作るために、これらの乾燥させた原料の成分を十分に引き出すことが大事、そのための技が「焙煎」という技術である。

焙煎は、原料ごとに、採れた時期や場所、乾燥状態をしっかりと見極め、最適な火力を選ぶことから始まる。原料を直径が70~80センチ長さ1メートルほどのステンレス製の円筒に入れ、ガスの火をつける。ガスは、安定的に燃焼し、製品に匂いがつかない。火力の管理も比較的容易だ。特徴的なのは円筒を回転させ焙煎している最中に水を加えること、「原料がとげとげしくなく気持ちよく乾いていくのです」。

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この水は勿論黒姫山麓の水、焙煎器の中の様子を見ながら噴霧していく。何度も何度も焙煎器の中を覗き、原料の色や匂いや手触りなど様々な変化の加減を見ながら霧を吹き付ける。山野草の焙煎は水の力を借りてこそ原料が持つ力を引き出せる火の技術、噴霧する水の量やタイミングを書いたマニュアルはなく、経験と努力で身につける五感の技といえる。この微妙な技術を持つ人を社内で「焙煎士」と呼ぶ。現在「葉物」「実物」「ブレンド」の各分野で、焙煎士が一人ずついるそうだが、黒姫和漢薬研究所の製品を左右する大事な腕だ。焙煎器の周りには香ばしい香りが漂っている。

こだわる その3「水」と「光」

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黒姫山麓は「霧」と「雪」に代表される水に恵まれた場所だが、原料の焙煎時の水をはじめ工場内で使われる水は、ただの水ではない。狩野社長は黒姫山麓の地下水を特殊なセラミックスをいれたタンクを通して浄化活性化させる装置を設置した。装置の名前は「きわみ」、黒姫山麓の豊かな水の力をいっそう引き出す装置だという。

そして、もう一つのこだわりは「光」だ。太陽の光は物を成長させるが、月の光は内面の質を高めるといわれている。原料の山野草のエネルギーを更に高めるため、LEDの電球で月の光を人工的に再現し原料に照射する「ムーンライトセラピールーム」(薬草機能化室)を作った。室内にはクラシック音楽が流れ、微風もでている。原料は一定期間この部屋で保管された後、製品化される。

「原料が持つエネルギーをできるだけ引き出して製品の"旨み"に変え、お客様に届けたい」そんな狩野社長の強い意志が伝わってくる。

そして 研ぎ究める

「日本人が持っている自然を慈しむ和の心と中国の体系化された薬草の活用法を融合させた新しい製品を創り続けたい」。と狩野社長は語る。そのために自社だけではなく、京都薬科大学と連携した研究も継続して行っている。

しかし、狩野社長は科学的な数値や化学合成式だけでは良い製品が出来ないと考えている。データ主義で糖度は?成分は?と数字に頼った製品を作っていた時期もあったそうだが、今では、生きたものを扱っている、植物の「気」を感じながらの製品づくりをしているという。 山野草茶を「研ぎ」「究めた」結果、経験的に使われてきた和漢草の自然の力と科学的に実証された事象を融合させてこその多くの人に愛される製品であり、体や心の健康づくりに生かされると考えるようになったのだ。

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心と体の健康を支えるお茶づくり

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黒姫和漢薬研究所の製品は一口に健康茶といっても、OEMを含めると300種類もある。昔から体によいとされている様々な山野草を組み合わせた成分を持つお茶のラインナップは、どれも、日常的に飲用することで健康を維持していくことを目的としたものばかりだ。 「創業以来60余年、今までもそうですが、求めているのは身体も心も健康であること」狩野社長のものづくりの思いは、変わらない。

「これまで自然の物と思っていた野草茶の原料も、これからは有限資源になっていきます。多くの人に提供するためには野草茶のエキス工場をつくる計画もあります。」体の健康・心の健康、そしてその健康を育む環境の健康はこれからの社会の基本である。 取材を終えて仰ぎ見る黒姫山麓の緑が、力強く輝いていた。

【取材日:2011年5月25日】

企業データ

株式会社黒姫和漢薬研究所
長野県上水内郡信濃町柏原4382 TEL:026-255-3125
http://www.yasosabo.co.jp/