[サイプラススペシャル]128 原子サイズの「ナノ材料」でエネルギー革命 信大繊維学部のものづくり①

長野県上田市

信州大学繊維学部 杉本渉

「小さな」モノで「大きな」夢を
エネルギー研究最前線に迫る

1000000分の1mm。
想像もつかないような小さな「ナノ材料」。
これを使えば、なんと「3秒で充電完了」というケータイができるというのです。エネルギーの未来を変えるすごい研究。一体どんな秘密が隠されているのでしょうか?

信大繊維学部のスゴいものづくり。 今回ご紹介するのは、杉本渉先生。 ナノ材料を活用したエネルギー研究の最前線にせまります。

「ナノ材料で、大きなエネルギーを生み出す」研究

上空2万キロからサイコロ?

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「ナノ材料で、大きなエネルギーを生み出すというのが私たちの研究です。」
信州大学繊維学部の杉本渉先生が手にしたのは、ガラス容器に入った、黒い粉。砂鉄のようにも見えますが、ひとつひとつの粒の大きさは、ナノサイズです。

ナノとは、10億分の1のこと。
「上空2万キロの宇宙から、机の上に置かれたサイコロを見るようなもの」と先生が言うように、想像もつかないような小さなサイズです。
しかし、この原子レベルの小さな材料で、非常に大きなエネルギーを作ることができるというのです。一体どういうことなのでしょうか?


研究中の「スーパーキャパシタ」とは?

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「今、研究しているのは『スーパーキャパシタ』。瞬発力に特化した電池のようなものです。」

一般的な電池が化学反応で電気を「つくる」のに対し、キャパシタは電気を「ためる」のが特徴です。電気を電気のまま充放電することが可能で、原理的には半永久的に使用することができるキャパシタは、理想の充電装置といわれます。
しかし、充電池のようにたくさんの電気をためることができないのが難点でした。

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ケータイの充電が3秒で完了!?

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「瞬間的な電気の出し入れは得意だけど、大容量化が難しいのがキャパシタ」 この難点を解決するのが、杉本先生の研究するナノ材料です。

「ナノの材料を使えば、同じ大きさに何十倍もの電気をためることができます。」つまり、もともと得意だった「瞬間的」な電気の出し入れだけでなく、ケータイやパソコンなどに使われている充電池と同様に、長時間の使用も可能になります。
「例えばケータイなら、3秒で充電が終わるというような夢の電池が実現できることとなります。」

「ナノ材料」でつくる夢の電池

燃料電池をコストダウン

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杉本先生のもうひとつの研究は、電気自動車などに使われる燃料電池です。 燃料電池の特長は、長時間の使用が可能なこと。
都市ガスやLPガスを使用する家庭用燃料電池「エネファーム」のように、ガス(に含まれる水素)を補充し続ければ空気中の酸素と反応し、永続的に電気を作ることができる発電装置です。

研究の課題はコストダウン。
「燃料電池の難点は、値段が高いこと。効率よく電気をつくるために触媒(反応を活性化する素材)としてプラチナが使われています。ご存知のとおり、プラチナは指輪やネックレスにも使われる貴重な金属。」プラチナの使用量を少なくすることが、コストダウンに繋がります。

プラチナをナノレベルに!

先生は、材料のプラチナをナノレベルまで小さくしました。
「触媒というのは、接している部分しか反応しません。大きいままの材料だと、内部はほとんどムダになる。」

ナノサイズにすることで、電気化学反応のための表面積を極限まで大きくすることができます。つまり、プラチナの使用量を少なくでき、コストダウンにつながります。

電気自動車の未来をつくる

燃料電池のコストダウンと合わせ、電気自動車が本格普及するためのもう一つのカギとなるのが「走行距離」。ガソリン自動車に比べ現在販売中の電気自動車は、こまめな充電が必要になります。
ナノ材料を活用した新型電池を開発することで、「東京~大阪間を、充電なしで走れるバッテリーを開発する、これが近い将来の夢です。」 多くの学生や、海外からの研究員たちが実験を行う研究室。杉本先生は、パソコンの画面に映し出されたデータを確認しながら、嬉しそうに研究の話を続けます。

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繊維学部で「エネルギーの未来をつくる」

100年の歴史

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なぜ杉本先生は、「繊維」学部で電気化学エネルギーの研究をしているのでしょうか?

「信大繊維学部は100年以上の歴史があります。繊維の歴史というのは、科学の歴史です。」
もともとは蚕や綿から糸や衣料品を作る繊維の研究を原点に、よりたくさんの糸をとるための遺伝工学や医学、糸から衣料を作るための工学、石油を原料とした化学繊維は化学...と、様々な分野が融合し、現在の姿となっています。

「繊維学部は、いろいろな分野にまたがる先生たちが集まる学部です。私たちのように材料を中心としたエネルギーの研究するものにとって、いろいろ人が集まっているということは、非常に大きな成果につながります。」

低炭素社会の実現へ!

「繊維のように細くて長いもの。これを薄く、平なものにすることによって、ナノ材料の新しい局面が開けるのではないか、それをエネルギーに活かしてみたいと考え、繊維学部で研究しています。」

繊維をつぶして平らにした「ナノシート」も、杉本先生の研究テーマのひとつです。
ナノシートの厚さは原子のサイズ。究極に薄い素材は、新型電池の開発などに活用されます。
低炭素社会の実現。繊維学部の研究が、エネルギーの未来をつくっています。

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【取材日:2011年6月24日】

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