[サイプラススペシャル]130 欧米型の田舎の豊かさと心地よさを表現する スタートは朝食に出した手作りジャム

長野県上水内郡飯綱町

サンクゼール

「世界に誇れる信州の田舎のよさを世界の人たちに知って欲しい」静かに語る久世良三社長は東京生まれの61歳。学生時代にスキーで親しんだ飯山市の斑尾高原で20代に始めたペンションで評判を呼んだまゆみ夫人手作りのジャムが、株式会社サンクゼールの第一歩である。しかし、久世社長にとってはジャムやワインも「Country Comfort=田舎の豊かさ」を、表現するための手段だという。事業を始める前に訪れたフランスの田舎のレストランで受けたもてなしを是非日本でも実現させたいと願う久世社長の“田舎の豊かさ”を追求するものづくりの現場を訪ねた。

ブドウ畑が広がるサンクゼールの丘

stcousair03.jpg

 長野市の北に位置する飯綱町、その小高い丘の上に株式会社サンクゼールの本拠地がある。「創業と同時に植えたブドウです。」日に焼けた久世社長の腕がブドウの木にのびる。飯綱町の集落を見下ろす南斜面の広いワイン用のブドウ畑、何本もの長い畝が続く。人の背丈ほどの高さのぶどうの木の幹は、こぶしほどに太い。しっかりと根を張った茶色の幹から、空に向かって伸びた枝には若緑色の葉が茂り、葉の隙間から房状の蕾がいくつも見える。"おいしいワインを作りたい"そんな気持ちが伝わってくるブドウ畑だ。

日本のジャムを変えたサンクゼールのジャム

おいしいのでお土産に

 サンクゼールのルーツともいえるジャム、そのジャムを「日本のジャムを変えた製品と自負しています」。と久世社長は語る。ペンションの宿泊客の朝食用にと手作りしたジャムは近所の農園で売り物にならないリンゴを分けてもらってグラニュー糖のみを使って作った。地元でとれた新鮮な素材を生かしたその味は、「おいしいのでお土産にしたい」という声がでるほど好評、衛生管理上ビンに詰めて製品化して販売を開始する。1979年のことである。サンクゼールのジャムは宿泊した客たちの「おいしい」という声からうまれた製品なのだ。

stcousair04.jpg

「ジャム」ではないジャム

stcousair05.jpg

 しかし、この製品は当初「ジャム」とは名乗れなかった。当時のJAS規格では糖度が65度を越えるもののみが「ジャム」と定義されており、新鮮なりんごと少しの砂糖のみを使ったサンクゼールのジャムは50度~55度の糖度しかなく、生ジャムや手作りジャム、低糖ジャムといって販売したという。手のひらサイズのガラス瓶に入ったスプーンから滴るジャム。素材が見えるやさしい甘さとジューシーさ、それまでの固くて甘いというジャムの常識を覆した。

 その後、健康志向が進み1987年にはジャムの糖度が40度以上と変更された。いまや、サンクゼールのジャムは、グラニュー糖使用のものばかりでなく、砂糖の代わりにブドウ果汁を使用した製品も販売されている。どれも素材の甘さや酸味を生かした味、りんごを始め、イチゴ・プルーン・ブルーベリーなど周辺町村で収穫される材料も多い。信州の田舎ならではの味を作り出している。

地元の農産物を使った食品を世界の味に

stcousair06.jpg

 1982年にはペンション経営をやめ、ジャムつくりをメインに立ち上げたサンクゼールの食品生産部門だが、今は飯綱町や長野県を中心とした地元で収穫された果物などの農産物を使ったジャムやワインを製造する一方、ドレッシングやパスタ用のソース、ごまやナッツをペースト状のすりつぶしたバターなどの製造も行う。その数はOEM製品をふくめると250~300にも上る。
「世界に誇れる信州の田舎のよさ」の代表ともいえる地元信州産の農産物の製品化に力を入れる一方、クオリティでは常に世界を見据え、世界的な食品品評会であるモンドセレクションへ毎年出品している。ジャムだけではなく、様々な加工食品が入賞を果たし、サンクゼールは間違いなく世界のブランドに成長している。

ワイン作りで大事なものは

良い製品は人間力が前提

 食品加工と並ぶ大きなもう一つの柱はワインだ。久世社長はワイン作りに欠かせないものは「人間の努力」と語る。1997年に「Japan International Wine Challenge」のワインコンクールで入賞して以来、国際コンクールでも高い評価を得るようになったワインの製造も、最初はブドウ栽培の土つくりからのスタート、サンクゼールのブランドが世に出るまでは10年かかっている。その間、ブドウの栽培は勿論、人材のレベルアップにも力を注いできた。

stcousair07.jpg

"本物に触れる"社員教育

 その一つに、毎年ワインの生産部門の社員がフランスのブルゴーニュ・ミッシェルグロの農場で2ヶ月ほど働く研修がある。「本物に触れて本場で働いて帰ってくると、目の輝きがかわります」。と久世社長。
そうした研修を繰り返す中で、国際的な評価を勝ち取る製品が生まれてきた。ワイナリーで生産されるワインの8割がシャルドネを中心とした白ワイン、年間20万本を生産する。
おいしいワインはおいしいブドウつくりから、ブドウつくりは土つくりから、さらには作り手があってこその製品だ。
「良い製品は人間力が前提です。最終的には人間が努力して世界的に評価される製品ができるのです」。莫大な借金を抱えた時期をともに乗り越えた久世社長の、社員への信頼は篤い。

そして 夢は

販売の理想はすし屋のカウンター

stcousair08.jpg

 サンクゼールのものづくりの特徴は製造から販売までの一貫した体制、販売方法にもこだわりがある。それは全国36カ所の直売店を中心とした販売方法である。「製品の後ろにあるストーリーを直接消費者に伝えたいのです。思いを薄めずに」。
だから、理想はすし屋のカウンター、お客さんが試食したり試飲したりその顔を見て製品を提供する形式だ。現在は、インターネットやパンフレットを使った通販にも力を入れる。商品とともに、飯綱町の自然やサンクゼールの丘の季節の風、何よりも信州の田舎の豊かさをブランドとして届け続けたいのだ。


目指すは「Country Comfort」

stcousair09.jpg

 もう一つ、今、サンクゼールが力を入れているのが、1年半前に進出した中国での活動だ。
中国の少数民族が作る完全無農薬のブルーベリーとの出会いが、新たな原料の供給先と市場としての可能性を開いた。パンを食べる習慣がない中国でも、ジェラードやワインの販売を中心として既に3つの直営店を展開している。現地でワインやシードルの生産工場を作らないかという声もある。習慣や法律の違いはあるものの、中国で与えられたチャンスをいかした新たな展開にも久世社長は期待をかける。


stcousair10.jpg

 フランスの田舎で出会った欧米の田舎の豊かさをここ長野で実現させたい。「伝統的な長野県の田舎をこえた欧米型の洗練された田舎のあり方があってもいいと思います。」久世社長が目指すのはあくまでも地域全体を含めた「Country Comfort」の実現、自社のものづくりが最終着地点ではない。

【取材日:2011年6月20日】

企業データ

株式会社サンクゼール
長野県上水内郡飯綱町芋川1260 TEL:026-253-7002
http://www.stcousair.co.jp/