[サイプラススペシャル]132 世界で活躍する搬送ロボット 世界最速!スムーズな動きを実現!

長野県諏訪郡下諏訪町

日本電産サンキョー

原点は世界シェア8割のオルゴール!
日本電産サンキョーの「すごいロボット」とは?

日本電産サンキョーと言えば、バンクーバー五輪で世界中を沸かした、長島圭一郎選手と加藤条治選手らの所属するスケート部を思い出す方も多いだろう。
スピードスケート同様、日本電産サンキョーは世界を舞台に挑戦を続ける長野県企業だ。

かつては、オルゴールのムーブメントで世界シェア80%を誇った。オルゴールの加工技術を核に、小型モーター、モーター駆動ユニット、カードリーダー等へ展開。現在も数々のトップシェア製品を持つ。
今回の取材では、今もっとも熱い成長分野・ロボット(産業用搬送ロボット)に迫った。

スゴい!巨大ガラス板を運ぶロボット

世界最速!しかも、スムーズ。

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 「世界最速、スムーズに動く我が社のロボットです。」
 ロボット事業統括部・石曽根英高執行役員の後ろには、全高10mはあろうかという大型のロボットアームがダイナミックに動いている。

 たたみ六畳サイズの巨大なガラス板が、上下左右に運ばれる。驚くのは、そのスピード。しかも「グラスに注いだワインがこぼれない」ほど、ガラス板の振動が少ないという。
 日本電産サンキョーの伊那事業所でつくられる産業用ロボットは、テレビや太陽電池、半導体の生産工場など世界中で活躍している。


絶好調!ガラス搬送用ロボット

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 2010年のロボットの売上は約240億円。前期の2倍と絶好調、利益も大幅に増え日本電産サンキョーの主力商品へ成長した。
 スマートフォンの世界的大ヒットで中国や台湾などから注文があいつぎ、伊那事業所ではフル操業が続く。売上の80%が海外だ。

 液晶パネルはガラス板に何度も加工を重ねながら生産される。一つの工程から次の工程へとガラス板を移動させなければならないが、この部分を担うのが日本電産サンキョーの搬送ロボットだ。
 一つの生産ラインに必要な搬送ロボットは200から300台。「日本、中国、韓国、台湾。世界の液晶パネルはアジアで作られている」と、石曽根執行役員。ラインが増えるとかなりの搬送ロボットが必要になり、パネル増産がそのままロボット受注に繋がっている。

60%超!世界シェア

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 大型ガラス搬送ロボットの世界シェアは、60%超。
 「世界中の薄型テレビのほとんど全て、製造過程ではどこかで我が社のロボットが使われている」と、安川員仁代表取締役社長は笑う。

 なぜ、日本電産サンキョーのロボットは、世界を舞台に飛躍することができたのだろうか?  「一番は、振動しないコト。」安川社長は続ける。「振動しないための"メカ"と、それを操るための"制御技術"が世界トップレベルです。」

世界トップレベル!真似できない技術力

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 スムーズで素早い動き。しかも、振動が少ない。ここが「他社が真似できない」日本電産サンキョーのロボットのスゴさだ。
 スムーズさと速さは、製品の品質と生産効率に直結する。スムーズな動きができなければガラスに傷がつくリスクが高まるし、また遅ければ生産効率が悪くなる。

 安川社長の言う「メカ」と「制御技術」こそ、アドバンテージの源だ。
 まずはメカ。「もともとは社内で使うための生産設備を作っていました。」安川社長は、社内生産設備の開発の中心にいた。「外に売るためのロボットでは無かったんです。」社内向けに高い精度をださなくてはいけない。技術の集積があったからこそ、メカづくりは実現した。
 さらに、日本電産サンキョーはもともとモーターのメーカー。自社のロボットに必要な高性能なモーターを自社で開発することができたことも大きな強みとなった。

 どれだけ精密なメカが出来ても、それを動かす技術がなければ、スムーズで素早い動きは実現できない。「工程から工程へのガラス移動は、最初はゆっくり動きだし、やがてスピードを上げて短時間で移動。最後は減速して次の工程に移ります。このとき揺れが少なければ、すぐに次の作業に入れます。」こうした複雑な動きを制御するのが、日本電産サンキョーのもうひとつの強みだ。

ロボット一筋!安川社長

ロボットが失業!世界のIBM譲りの制御技術

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 日本電産サンキョーのロボットは、オルゴールの自動生産ラインがルーツ。安川氏は30歳前に社内のプロジェクトに入ってロボットの基礎を学んだ。

 日本電産サンキョーは、一時IBMと共同で産業用ロボットを開発し販売した経験がある。メカの生産は日本電産サンキョー、IBMが制御技術を担当した。
 開発は順調に進んだが「中国の安い労働力に負けて、ロボットが失業してしまった。」と安川社長。自動化された生産ラインよりも、人海戦術でのものづくりの方がコスト的に安く、結果ロボットは「失業」、事業も頓挫してしまった。しかし、この時にIBMから引き継いだロボット制御技術が、後に大きなチカラを発揮することになる。

起死回生!「マルマル作戦」

 IBM撤退後のロボット事業の道のりは、平たんではなかった。
 工作機市場から撤退後、ロボット事業をどうするのか議論が分かれ、結局シリコンウエハーなどのハードディスクを中心とした搬送ロボットに絞って事業を展開することで再起を期した。
 当時のプロジェクトの名前は、「マルマル作戦」。シリコンウエハーもハードディスクも円形だったことから、この名前がついた。このプロジェクトを立ち上げたのは若手技術者たち。若き日の安川社長の姿もあった。

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 「結果的にパネルの大型化の波に乗った。」参入したものの、厳しい戦いを強いられ、再度事業見直しの議論が起こり、一時は伊那事業所の廃止まで俎上に上った。最終的にはロボット事業継続との経営判断が下り、その後の反転攻勢へとつながる。もちろん当時は液晶の大型化が一気に進むという予想はなく、時代の追い風を受け、業績を伸ばした。
 日本電産サンキョーのロボットの歴史は、安川社長の社歴でもある。「IBMから制御技術をもらい、工作機製作で培ったメカのノウハウがあり、参入した搬送ロボットは急成長。パネルの大型化の中でライバル企業が脱落した、本当に運がいいんです。」

永守イズム!一番稼いだ人が、社長。

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 バンクーバー五輪での輝かしい実績。日本中に感動を与えた日本電産サンキョースケート部の選手たち。一時は廃部の危機に瀕していたが、日本電産永守重信社長が存続させた。
 ロボットの飛躍も、永守会長の経営判断抜きには語れない。
 もともと日本電産サンキョーの"本流"はモーターや、冷蔵庫の製氷機やエアコンの掃除機能に使われる駆動ユニット。連結ベースで921億円の売上のうち240億円というロボットの売上はさほど大きくない。
 日本電産が資本参加した2003年、安川氏はロボットの責任者に抜擢され、翌年にはロボット事業担当の取締役、翌々年には社長となった。


 永守会長の安川社長抜擢の理由はシンプル。「一番稼いだ人が偉い」。
 カリスマ経営者と呼ばれる永守会長の「変化をおこす人が偉い」「100%を103%にすることよりも、赤字を跳ね返し利益を出す人が偉い」という思想が、新たな挑戦を成功に導いた。
 設備投資も大きく変わった。伊那工場には真新しい第3、第4工場があるがこの二つの工場は、永守会長の鶴の一声で建設されたという。「これまでなら、経営判断にも時間がかかったし、資金も苦しかった。」スピーディーな設備投資が今のロボット事業部の繁栄につながっている。
 自社で培ったメカ技術、IBMの制御技術、パネルの急成長に加えて永守会長のブースター機能も欠かせない成功の母なのだろう。

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世界で戦う!長野県企業

次は真空!狙うは、真空でも世界一。

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 「次は、真空です。真空ロボットでも世界一を狙っていきたい。」
 サンキョーの事業は多岐にわたり、それぞれで成長分野を見込む。しかし、ロボット畑出身の安川社長はロボットの成長に期待が大きい。
 とくに注目するのが次世代のパネル、有機ELだ。
 より高い品質が求められる有機ELパネルは、真空状態で生産される。「真空にしないと作ることができないんです。」真空になっても、パネルの搬送は不可欠。そこで有機EL生産に使用するロボットは、真空でも動かすことが必須になる。

 真空ロボットの製造はクリーンルーム。大気中ロボットと、真空ロボットは何が違うのか?「油1滴たりとも漏れてはいけないんです。」例えば、ロボットの可動部分から油が一滴でも漏れると、真空下では飛散し、製品をダメにしてしまう。真空ロボットには完全シールドが求められるのである。
 日本電産サンキョーはこの分野でも先行し、他社を寄せ付けない戦略を実行中だ。「真空の製造現場では、空気が無いから人は作業できません。だからロボットの独断場です。」かつて中国人ワーカーに立場を奪われたロボットだけに、安川社長は冗談半分でそう説明を加えた。

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「カラクリ・トロニクス」!新たな挑戦は続く。

 「オルゴールで培った『カラクリ・トロニクス』。これがロボットや他の事業にも活かされる。」安川社長が掲げるスローガンは「カラクリ・トロニクス」だ。
 日本電産サンキョー前身、三協精機の創業は1946年。オルゴール製造からスタートした。江戸のからくり人形にも通じるような「カラクリ」の技術がオルゴールにはあったという。
 「精密な加工や正確な制御など、今求められている技術は『カラクリ』のスピリットに通じる。」これこそ、エレクトロニクスでもメカトロニクスでもオプトメカトロニクスでもない、「カラクリ・トロニクス」だ。

 日本電産サンキョーは今、下諏訪町に研究開発の拠点となる新社屋を建設中だ。800人の技術者たちが諏訪の地に集まるという。
 長野県を拠点に蓄積されたものづくりのワザを核に、研究開発を強化。日本電産サンキョーは、長野県から世界へ。これからも新たな挑戦を続ける。

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【取材日:2011年7月6日】

企業データ

日本電産サンキョー株式会社
長野県諏訪郡下諏訪町5329 TEL:0266-27-3111
http://www.nidec-sankyo.co.jp/