[サイプラススペシャル]133 個性ある製品つくりと地産地消 信州の粉食文化を未来へ

長野県長野市

柄木田製粉

「信州の食」の代表といえば、うどん・そば・おやき、いずれも米と並ぶ二大主食である小麦粉の加工食品だ。長野市篠ノ井にある柄木田製粉は、小麦粉製造と製麺で長野県を代表する企業。「今はお盆前で、出荷の最盛期。普段の3倍以上の商品が動いています。」7月下旬、超繁忙期の柄木田製粉本社工場を訪ねた。

大手に出来ないことをしなければ

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 「かつては全国で400社もあった製粉会社も、今では100社に減っています。地域の中小製粉業として、大手に出来ない方法を考えてきました。それが石臼製粉、石臼挽きの小麦粉生産です。」柄木田英一郎社長(71才)の話は、石臼製粉の話から始まった。
 「石臼の導入は、地方の中小製粉業が生き残るため。価格競争では大手に勝てませんから」きっかけは柄木田社長が視察で訪れたドイツ、製粉業の競争が激しいドイツだが、どんな田舎の村でも製粉工場があり、それぞれがその地域で取れた小麦を挽いて地域の食を支えていた。その製粉工場で使われていたのが石臼なのだ。

石臼挽き小麦粉から個性ある製品を

 2002年(平成14年)に直径1mの石臼を導入、2010年には新たに直径1.5メートルの石臼を追加導入した。そばの製粉工場での石臼導入例の数は多いが、小麦粉の製粉を石臼で行っているのは全国でも数社、柄木田社長は「この石臼挽きの粉で個性ある製品をもっともっと出していきたい。お客さまから買いたいといわれる個性ある製品を作りたい」と目を輝かせる。

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長野県産小麦を石臼挽きで

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 石臼を導入し、小麦の石臼挽きの製法を確立させ、製品製造販売までの道筋を作り上げたのは、製造本部開発部門を束ねている宮崎充朗取締役だ。
 一般的に小麦粉の製粉は「ロール挽き」で行われる。内側に回転している一対の円柱状のロールを使う製粉方法だ。ロール挽きは、能率が良く清潔で粒の均一な粉を作ることが出来る。宮崎取締役は「ロール挽きは大量生産できますが、高速で回転するロールによる摩擦熱で、どうしても香りが飛んで味が悪くなってしまうのです。」と説明する。
 「石臼挽き」は、製粉時に小麦が高熱に晒されていないので、小麦本来の香りや味、栄養分も強く残る。「石臼挽き粉を通常の小麦粉にブレンドする事によって、小麦本来の味を引き出した様々な個性ある製品を作り出せるのです。」宮崎取締役も石臼挽きにこだわる。
 生産量は限られるが、特徴ある長野県産小麦を石臼で製粉し、それを地域の特産にしていきたい、宮崎取締役に案内してもらった研究室では、長野県産の小麦粉を使ったパンやラーメンの試作も行われていた。

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県内産の小麦を確保したい

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 長野県内と大阪市の工場で年間約45000トンの小麦を製粉している柄木田製粉は、"食の安全安心を、地域の農産物を地域の食卓に"を掲げ、長野県産の小麦の普及にも力を入れている。一口に小麦粉といっても、柄木田製粉が扱う原料は外国産から、国内産、長野県産まで、用途に応じて小麦を使い分けている。二大主食といっても、現在の小麦の国内自給率は14%しかない。長野県産の小麦を利用し、長野県内の消費者の嗜好にあった特徴ある商品つくりを積極的に進める柄木田製粉にとっても、原料の確保は大きなテーマだ。
 慢性的に不足している長野県内産の小麦粉を確保するため、麻績村、川上村で契約栽培も行っている。宮崎取締役は小麦の品種や栽培方法にまで関わって、柄木田社長とともに小麦粉の地産地消に情熱を注いでいる。

パンそのもの、麺そのものが美味しく

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 研究室には、「ユメセイキ」「ハナマンテン」に代表される県内で収穫され石臼で挽かれた小麦粉が並んでいる。それぞれ灰分(リン、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラルの総称)やたんぱく質の含有量が異なり、うどん用、そばつなぎ用、中華麺用などの最適な配合組み合わせを研究しているのがこの研究室。新しい配合を考えて商品への応用を考える大事な現場である。
 食生活の多様化で需要が増加しているパン用や、パスタ用の小麦粉のブレンド研究も進んでいる。パンそのもの、麺そのものの味が美味しいと消費者に受け入れられかどうか、ガス台ではラーメンが茹でられ、パン焼き器からは焼きたての食パンが取り出され、まるで食品会社の試作品室のようだ。
 また、一方では小麦粉を知り尽くした製粉会社として、オーダーメイドのオリジナル小麦粉の生産も手がける。『我社の麺はこの味で』と依頼されたオリジナルな味を作り出すブレンドを開発し、試作・商品化、製造を請け負う。製粉の技術があり、小ロット生産が可能な"小回りの利く"製粉工場ならではの特徴だ。

石臼挽き製粉工場

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 「石臼の制御プログラムがきちんと稼動するまで苦労しました。今では、この石臼が1時間に500Kgの小麦を挽きます」宮崎取締役は、工場の4階にある直径1.5mの石臼製粉機の木製の蓋を開けた。石臼といっても、長石や石英などの固い石の結晶を固めた人工の石で出来ている。小麦が粉になるまでは、①ゴミをとるなど麦を選別精選する②水をかけて水分16%の状態に保ち、24時間おく③表面の付着物、汚れを取り除くため全体の2%を研磨する、その後④石臼に投入し、すりつぶす、これが凡その工程だ。宮崎取締役の手に掬われた白い小麦粉にこれまでの柄木田社長の話が重なる。更に異物を取り除くために200ミクロンという細かいふるいを通して、パッケージされ、立体自動倉庫へ運ばれる。ここから「柄木田製粉の小麦粉」として長野県内や首都圏を出荷されていく。

社員全員で取り組む

 地産地消・地域に根ざした企業として、欠かせないのが、毎年この超繁忙期に行われる「からきだフェスタ」である。本社敷地内で自社製品の特別販売と流しそうめん、長野県産小麦を使ったてんぷらやクレープ等の試食体験会を地域に開放する形で行っている夏祭りだ。1日のみのイベントだが、4000名近い来場者があるという。出迎えるのは柄木田製粉の社員全員。「からきだフェスタは柄木田製粉のファンつくりです。」社長も笑顔で会場内を歩く。「長野県産の小麦粉をもっと利用してもらいたい、ホビーフードではなく食材としての小麦粉をもっと知って欲しい。」会場の一角には原料の小麦を展示するコーナーを設けるなど地道なイベントも今年で6回目となり、柄木田製粉の企業姿勢と組織の力が発揮される機会となっている。

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地域の食文化を支える

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 小麦粉の世帯購入量日本一の長野にあって、柄木田製粉は2012年には会社設立60年を迎える。「長野県の食文化を支え守ってきた。製粉とか乾麺は地味かもしれないが、試行錯誤を続けながらの夢ある業種だと思っている」。柄木田社長は柔らかい表情でさらりとまとめたが、柄木田製粉の存在が、信州の粉食文化を支え、将来にわたって信州の粉物文化を伝えていくための大きな後ろ盾になっていくに違いない。

【取材日:2011年7月28日】

企業データ

柄木田製粉株式会社
長野県長野市篠ノ井会30-2 TEL:026-292-0890
http://www.karakida.co.jp/