[サイプラススペシャル]136 畜産設備機器のトップメーカー 日本の畜産業を支えて90年

長野県長野市

中嶋製作所

近代日本の工業の中核をなした養蚕・製糸業、中でも長野県は「製糸王国」として明治から昭和初期まで冠たる地位を占めていた。今回紹介する長野市篠ノ井にある中嶋製作所の創業も、長野県の蚕業史と深く関わっている。長野県が蚕種製造日本一の時代から今日まで「生き物」に関わる90年のものづくり、畜産機器設備メーカー中嶋製作所を訪ねた。

オートマチック給餌器~ナカマチックブランド

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 中嶋製作所の主力製品は、養鶏、養豚、養牛などの畜産にかかせないオートマチック給餌器、つまり、鶏舎や豚舎などで使われる自動餌やり器、自動水やり器だ。
 以前は人が、鶏舎や豚舎に直接入って、餌や水を与え、人の目で家畜の健康状態を把握、餌を管理して家畜を飼育していた。しかし、畜産が農家の副業から大型化専業化するにしたがって、日々の飼育や管理方法も大きく変化した。

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 まず求められたのは、人が畜舎に入ることで高まる病原菌の持ち込みを抑える衛生的な環境、次には十分な餌や水を与えるだけではなく質の良い鶏肉や豚肉を生産するためにストレスが少なく効率の良い給餌や給水の設備や制御システムだ。
 中嶋製作所はオートマチック給餌器の分野では国内のトップメーカー、畜産業界のニーズに応えて次々に開発された製品は『ナカマチック』のブランド名で、日本の畜産業を支えている。

養蚕から始まった給餌システム

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 「今年は、先代が創業して90周年なんですが、昨年の九州の口蹄疫、今年の大震災と津波、更には原発事故で祝い事はすべて取りやめました。」商工会議所や、ロータリークラブなど地域の要職も勤める中嶋君忠社長(71歳)が見つめるのは、自社の在りようだけではない。

 1921年(大正10年)に始まる中嶋製作所の最初の製品は創業者である故中嶋一雄前社長が考案した銅製の「養蚕催青(さいせい)器」、蚕の卵の孵化装置だ。稚蚕飼育に必要な温度と湿度管理を可能にしたこの機器は好評を博し、次にこの原理を応用した養鶏用育雛器「キングヒーター」を開発、これも全国で販売され大変なヒット商品になったという。
 戦争中は、軍事工場をやっていたが、第2次世界大戦後、この「キングヒーター」の製造販売を再開した。採卵用の鶏の数では長野県は、愛知静岡に次ぐ全国第3位であったが、「キングヒーター」は昭和20年代の日本の養鶏業を支えた。

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 その後、鶏の飼い方が、鶏舎内の土の上で飼う平(ひら)飼い(がい)からケージ飼いに変わるとケージ生産へも事業を拡大した。しかし、昼夜3交代で生産を続けるほど売れたケージも、一旦普及すると修理はあっても買い替え需要はない道具である。会社は、賃金カット、人員整理と厳しい時代を迎え、このとき当時25歳の君忠氏が社長に就任した。
 そして鶏は採卵から鶏肉専用のブロイラーへと変わり、少し前から手がけていた給餌器の製造が軌道に乗り、改良を重ねてオートマチック給餌器が事業の中心となっていった。

給餌システムに特化

 現在の中嶋製作所は、養鶏の給餌・給水の機器やシステムで開発研究してきた技術を豚や牛の飼育にも拡大、豚舎や牛舎で使用する給餌装置や給水器も生産している。自社で培った給餌・給水装置の技術を少しずつ発展展開していく戦略である。
 中嶋社長は、「売り上げは追わない。規模も今以上にするつもりはない。しかし付加価値の高い製品は出し続けていく」と明快だ。付加価値の高い製品とは、「他社より、一歩進んだナカマチック独自の製品」。独自の製品であれば、価格競争は不要、中嶋製作所の価格で販売できる。既存の製品の改良や新製品の開発を社内でおこなっていくことは、規模の拡大以上に企業を継続させ、生き残る手段として有効だというのが中嶋社長の信念だ。

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一貫した受注・管理システムと徹底したアフターケア

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 中嶋製作所のものづくりの特徴は一貫した受注・管理システムと自社の設備を駆使した生産体制である。
 技術開発部門は13名、営業も担当しながら、受注した製品の設計開発を3次元CADで行う。長野県に1台しかないという導入したばかりの機器を使ってプラスチック金型の試作も行われていた。高額な設備も一歩先行く製品つくりに欠かせない機器と中嶋社長の表情は明るい。
 給餌給水自動化装置と一口に言っても、それを使う鶏舎豚舎は全国に広がり、設置環境も様々である。各パーツは本社工場で製造されるが、組み立てはすべて受注先である。
 畜産農家の使用条件も、制御する仕様も全く同じということはない。現地で速やかに稼働するために、納品する部品にミスは許されない。場合によっては装置を設置する建物の設計についての提案もするという。

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 また、アフターメンテナンスを支える部品の管理にも力を入れている。家電製品と違い部品確保の期限はない農業用機械である。「丈夫で故障が少ないのがナカマチックブランドです」と言いながらも、「使っているお客様がいる限り」30年前の装置でも部品を確保し、金型も残している。社内に経験と技術の積み重ねがあるからこそ可能なメンテナンスだ。
 受注した顧客データだけではなく、敷地内の自動倉庫では常時180種類の部品が保管管理されており、万が一にも休みなしの365日対応をしている。「信頼のブランドナカマチック」の証である。

 製造現場では350トンのサーボプレスが稼動。1枚のステンレス板から無駄なく、材料をプレスカットしていく。プレス機の大きさに圧倒されていると「これは、畜舎の天井につける排気用のカバーです。」中嶋社長は部品の形をみただけで説明してくれる。
 工場は、歴史ある建屋だが、設備はすべて最新式、利益がでたら社員に恩返しをしたいという社長の心意気が随所に感じられる。

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 最後に案内されたのは、まるで木造校舎のような試験棟。製品を完成させるのはすべて受注先だが、社内でもここで様々な給餌器の仕組みやラインを組立、実験が行われている。豚舎をイメージして作った試験棟だそうだが、一つの器から装置へ、その装置を動かす制御システムへと中嶋製作所の技術の進化が理解できる。

感動することが仕事!!

 「ユーザーは減っているが、一戸の農家で飼う鶏や豚の数は増えています」。ブロイラーは一戸あたり少なくとも10万羽、1棟あたり1万羽を飼育するのが標準だとか。畜産業での省力化はますます求められていく。
 「飼育方法が変わっても、先へ先へとやって行けばこの分野で、やっていける」事業には常に先手必勝を説く中嶋社長だが、趣味の写真を例に社員には「どんな小さな野草の花もクローズアップして見ると感動する美しさがある。日頃から感動する感度を磨け」と話をするという。「ただの価格競争の仕事はできるだけしたくない。お客様に感動を与えてファンになってもらうような仕事をしよう、感動を重ねる回数が幸せのバロメーター」この感動が日本の畜産業を支えている。

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【取材日:2011年7月27日】

企業データ

株式会社中嶋製作所
長野県長野市篠ノ井会33 TEL:026-292-1203
http://www.nakamatic.co.jp/