長野県安曇野市
ハーモニック・ドライブ・システムズ
ハーモニック・ドライブ・システムズは、主力製品である「ハーモニックドライブ(登録商標)」と呼ばれる歯車減速装置そのものを社名にしている企業。産業用ロボットをはじめ人型ロボットから火星探査機に至るまで、幅広い分野でこの装置が使われている。私達が直に目にすることはないが、世界の最先端技術で活躍している優れものだ。
日本語に訳すと「波動歯車装置」と呼ばれるハーモニックドライブ。歯車による減速は小さな歯車から大きな歯車に伝えることによって、早いものを遅くする原理だ。何百分の一という微妙な減速比が得られるのが特徴だ。ハーモニック・ドライブ・システムズはこの独特な装置で、精密減速機の分野全体で約42%というトップシェアを持っている。
ハーモニックドライブの優位性は、3つの部品で大きな減速比が得られること。曲げて楕円にたわめられた薄い金属の歯車を、真円の歯車へ挿入する。これによって幅広い減速比を得ることができる。精密部品としてはシンプルな構造だが、人型ロボットなどの最先端に使用されている「オンリーワン」の優れた技術だ。
ハーモニックドライブのメカニズムは、1957年にアメリカの発明家C.W.マッサーによって生み出された。そして1970年、アメリカのUSM社と日本の長谷川歯車の合弁契約に基づいて現在の会社の前身が設立された。社名を製品名にしたのは、当時全く市場にない製品だったため少しでも知ってもらおうという狙いがあったからだ。開発当初はなかなか普及しなかったハーモニックドライブだったが、伝達力を向上させるなどの改良を重ねた結果、現在では広く市場に受け入れられるようになった。
生産されるハーモニックドライブの9割以上が取引先向けのオリジナルで、1個からでも受注している。このように多品種少量のものを取引先の要望する納期に納めることで、在庫を持たないことが最大のメリットだ。取材当日も、製造ラインでは多種多様のハーモニックドライブが製造されていた。
ハーモニックドライブのもう一つの特徴が、高い耐久性だ。薄い金属で作られているにもかかわらず、金属疲労や劣化はしない。精度の高い作業を要求される産業用ロボットに使われていることが性能の高さを裏付けている。そんな耐久性の高さは地球を飛び越えて宇宙でも使われている。NASAの火星探査機2台には38個のハーモニックドライブが使われていて、7年もの間稼動している。
社長の涌本晴雄氏(61歳)は松下電器産業(現:パナソニック)の出身で、入社16年目の今年6月に就任した。「一般知識と専門知識が融合することで、技術の向上を実現できる」と語る涌本社長。総合力を高めるための人材育成にも力を入れている。
本社は東京にあるものの、生産や営業の拠点は信州安曇野に置いている。アメリカとドイツにも生産拠点はあるが、あくまでもこの安曇野の地が「主力工場」だ。「この工場は周辺の取引先と連動している。この地に生産拠点を置くのは総合力のため」と涌本社長は語る。現時点では生産拠点を海外に移すことは全く考えていない。
ものづくりの技術・技能を高めるためには、感性を高めることが必要だという企業理念を持っているハーモニック・ドライブ・システムズ。工場の敷地内には彫刻家で現代美術家の飯田善國さんの作品を集めた美術館「IIDA・KAN」があり、社員は勿論一般にも無料で解放されている。また毎年「ハーモニックコンサート」と呼ばれる演奏会も行なわれていて、地域との結びつきも大切にしている。
現在も主力製品のハーモニックドライブをより精度の高いものにするために、研究施設では日々努力が続いている。このジャンケンロボットの指に内蔵されているものは、世界最小のハーモニックドライブ製品だ。社内の廊下には、地元安曇野市の小学生たちが描いた「夢のロボット」の絵が所狭しと飾られていた。今はまだ空想の世界に存在するロボットが、ハーモニックドライブの更なる発展で現実のものになる日も近いかもしれない。
株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
長野県安曇野市穂高牧1856-1 TEL:0263-83-6800
http://www.hds.co.jp/