[サイプラススペシャル]144 結晶をもっと大きく!未来を照らす人工サファイア研究 【特集】信大工学部のものづくり その⑥

長野県長野市

信州大学工学部客員教授 干川圭吾

大型サファイアが、ニッポンを明るくする!?
地元企業の寄附研究、産学官が連携した「結晶研究」とは?

次世代省エネ照明として注目の発光ダイオード(LED)。特に汎用性の高い白い光をつくることができる青色LEDの量産化に欠かせない、ある新技術が開発されました。キーワードは「単結晶サファイアの大型化」。

【特集】信大工学部のスゴイものづくり。今回は信大初の寄附研究。「結晶づくり」を研究する、信大工学部電気電子工学科の干川圭吾先生をご紹介します。

大型単結晶サファイア

ニッポンの未来を、明るく照らす!

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「私の研究はこれです。これでニッポンの未来を明るく照らします。」
信州大学工学部の干川圭吾先生が手にしたのは、円柱形の「単結晶サファイア」。ちょうど茶筒のような形で、白色がかった透明。手に取ると鉱石らしいひんやりとした触感と、ずしりと重みを感じます。
干川先生の研究テーマは、サファイアやシリコンなどの結晶づくり。特に、青色LEDの製造に不可欠な工業用素材「サファイア基板」を今までより安価に製造できる技術を開発しました。

今、注目の青色LED!

なぜ、青色LEDが注目されているのでしょうか?
一般的なLED照明の白い光は、黄色の蛍光体に青色LEDの光を当てて作るのが主流になっています。
実は、この青色LEDの素材に、サファイア基板が使われています。干川先生の研究「単結晶サファイア」は、青色LEDの量産化に欠かせない技術です。

大きくすれば、安くなる!

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「現在、この2インチが主流ですけれども、私たちはすでに4インチまで量産できるようになっています。」
2インチ(約50mm)、4インチ(約100mm)とは、人工サファイアの直径。円柱形、太い棒状のサファイア結晶の塊(インゴット)は、薄く輪切りにされ、青色LEDの素材となります。インゴットの直径が大きくなればなるほど、1枚から大量のLEDチップを作ることができ、コストも安くなります。

つまり、人工的により大きな結晶を作ることができれば、安く、たくさんの青色LEDをつくることが可能となります。
大きなサファイアが作れれば、コストダウンに繋がります。しかし、大きくすればする程、不良品が発生しやすくなるため、現在は直径2インチが主流となっています。


より大きな結晶づくりへの挑戦

大きくするのは、至難のワザ!

「直径を大きくすることは至難のワザだった」と、干川先生。
単結晶サファイアは、原子が規則正しく並び、しかもどの部分を切り出しても結晶の軸が同じ方向を向いていなくてはいけません。途中でひずみなどがあると、LEDチップに不良品ができてしまいます。
一体、どうやって干川先生は大きな結晶をつくったのでしょうか?

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従来の製造方法の限界を、見極める!

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「この方法は、従来、実験室でしか使われませんでした。しかし、工業的にも使えるようにしたことに大きな工夫があるんです。」
干川先生の言う「大きな工夫」というのは、「結晶のつくり方」にあります。

これまでの結晶は、引上げながら作る方法が主流でした。コンピューターに使われるシリコンもこの「引き上げ法」によって作られていて、もともと、日本が最も得意と言われてきた製造方法です。

「どうしても引き上げる方法には限界があったんです。」 より大きな結晶を作るため、干川先生はこれまでの製造方法の限界を見極め、まったく違ったアプローチをしました。それが「垂直ブリッジマン法」という作り方です。

難しいのは、温度管理!

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新開発の技術は、円筒形の容器を型枠に、高温で溶かしたサファイアを棒状に固める方式。
「特段新しい技術というワケではありません。もともと実験室で小さな結晶を作る時に、昔から使われていました。」

筒状の容器の中で固める方式の難しいところは"温度管理"だと、干川先生はいいます。
結晶を冷やして固めるまでにかかる時間は、なんと約1週間。原子レベルで規則正しい結晶にするため、容器と結晶の間での冷やし方が特に重要で、「うまくいかないと、全体にひずみができて、使い物にならなくなる」といいます。

地域産業の未来を照らす

結晶づくり、20年以上!

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長野市出身の干川先生は、信大大学院工学研究科終了後、約20年間NTTの研究所で結晶づくりの研究をしてきました。1992年に教授として着任したのは、工学部ではなく、信大教育学部。技術科の教員の卵たちに電気電子分野を教えるかたわら、結晶づくりの研究をつづけてきました。
教育学部という制限のあるなかでの結晶づくりの研究が、これまでの常識にとらわれない新しい発想に結びついたのかもしれません。

信大初、地元企業からの寄附研究!

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「この研究は、地域の産業振興にとっても重要」と、干川先生。
単結晶サファイアの研究は、シリコンウエハの研磨装置で世界トップシェアの不二越機械工業の寄附研究として進めてきました。信大初の取組みで2008年4月に設置されました。
不二越機械工業にとっては、シリコンで培ったノウハウを活かした新しい事業分野の挑戦でした。単結晶サファイアの製造装置、切断装置、研磨装置の事業化を狙っています。
世界各国がしのぎを削る青色LEDの製造開発。そのコストダウンに大きな効果を上げる大型単結晶サファイアの製造技術は、「結晶を作る装置から、結晶づくり、さらに基板の加工、販売まで、まさに川上から川下までナガノという地域の新しい産業になる可能性がある」と干川先生は考えています。

すでに実用化、ニッポンを明るく元気に!

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「この結晶をさらに大きくして、地域はもちろん、ニッポン全体を明るく元気にしたい。そう思っています。」
不二越機械工業で開発を進めたサファイア製造装置は、すでに実用化。信大工学部と地元企業が協力してすすめる研究が、地域産業の新たな未来を照らしています。


【取材日:2011年10月13日】

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