長野県長野市
徳永電機
徳永電機は、1971年創業。コイルやトランス製造からスタートして、現在は半導体などの電子部品の組み立てや検査が主な業務だ。製造された部品は主にパソコンや携帯電話に使われている。そのものづくり企業が昨年から自社にあるクリーンルームを転用して葉もの野菜の水耕栽培を始めたと聞いて、取材に伺った。
「本業である半導体分野は景気の波に左右されやすいが、食の分野はそれが少ない。安定した分野に進出することで雇用の安定にも繋がると考えた。」と野菜作りを始めた理由を語るのは、今年創業者の父親に代わって社長に就任した徳永雄一郎氏(51歳)。栽培は昨年からはじめて、今年から別会社を立ち上げ出荷も開始した。野菜部門はまだ売上全体の1%にも満たないが、軌道に乗せるべく日々取り組んでいる。
野菜の栽培に使われているのが、本社内にあるクリーンルーム。以前は検査工場に使われていたスペースだ。「野菜づくりとものづくりは一緒。スタッフはもともとクリーンルームで働いていたので、すぐ構造を理解し対応できた。」と語る徳永社長。ただ野菜そのもののノウハウを得るにあたっては、社長自らが大学の先生に指導を受けたほか、社員も本やインターネットなどで相当勉強したという。
クリーンルームで栽培された野菜は、土や雑菌がついていないため洗わずに食べられる。通常の野菜に比べて日持ちも良く、捨てるところが殆どないことも大きな特徴だ。露地物と比べると価格設定はやや高めだが、栄養価も殆ど遜色なく、洗う手間や人件費がかからないという点で大きなメリットがある。レストランや食堂などの業務用をはじめ、お弁当など家庭用にも使われているという。グリーンリーフやサニーリーフをはじめ、多品種を少ロットで製造することによって、付加価値を高めているという。
「当社の基本はあくまでも製造業です」と語る徳永社長。取引先メーカーの製造工程を担当し製品づくりをするのが主な業務だ。本社には検査工場のみが置かれていて、ほとんどの社員は「構内外注」という形で、取引先の工場に設置された自社の製造ラインで働いている。工程を改善し生産効率を高めることによって、取引先の信頼を勝ち得てきた。
徳永電機の特徴のひとつが、社内のグループごとにリーダーを決めて権限を与えていること。リーダーが自ら管理することによって、グループ単位で損益を見える化できる。そのことがスタッフも含めたモチベーションの維持向上に繋がっているという。25年前から続けられている取り組みで、会社の基本方針として位置付けられている。社長自身もリーダーと直接コミュニケーションを図れるので、現場の状況がタイムリーにわかるという。
徳永社長は、大学では実家の仕事とは全く関係ない建築学を専攻。卒業後も一旦は地元の建築会社に就職したが、26年前、父親と話し合った結果徳永電機に入社。チームリーダー制の導入も、社長の建築現場での経験から発案されたものだという。クリーンルームを野菜栽培に転用する際も、建築現場での過去の経験が大きく役立っているという。
徳永電機が求める人材は、「チャレンジ精神を持っている人」。仕事に向き合う姿勢も、ただやらされているからやるのではなく、その仕事がどんな意味を持つかを考えて働いて欲しいという。そんなチャレンジ精神が、野菜づくりへの進出という領域を広げる行動に結びついた。「中小企業までもが国外に移っていくなかで、国内でもまだまだやれるということを表現したい」と徳永社長は語る。
野菜づくりをはじめた昨年は、「どこに行けば買えるのか」という問い合わせが多かったという。徳永電機ではそんな地元の声を受けて、今年から本社工場の一角に直販用のスペースを設置。近くの方に気軽に購入できるようにした。電話やFAXでの注文も受け付けている。長期保存できるクリーンルーム野菜の特性を生かして、東日本大震災と原発で被災した福島県の障害者施設に送っている。
野菜づくりにあたって新たに始めたのが、環境面への取り組み。2011年3月には、本社屋上に1日平均で60kWを発電する太陽光設備を設置した。この設備の稼動によって、本社の電気使用量を平均15%・ピーク時には40%削減することに成功した。次のチャレンジは自然光のみを使ったクリーンルームでの野菜づくり。自然光100%のクリーンルームでの野菜栽培は前例のない取り組みだが、2012年中の完成を目指して準備を進めている。
株式会社徳永電機
長野市安茂里小市4-3-14 TEL:026-227-2249
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