[サイプラススペシャル]152 長野県発「世界初」を目指す!ガラスレンズ研究 【特集】信大工学部のものづくり その⑧

長野県長野市

信州大学工学部教授 荒井政大

「モールドプレス成型」非球面ガラスレンズ
高級ガラスレンズをコスト10分の1でつくる!

デジタルカメラやプロジェクター…私たちの身の回りにある、たくさんのレンズ。中でもとくに、きれいで丈夫なガラスレンズの需要が増えています。 信大工学部では、ガラスレンズの「つくり方」を研究しています。「これまでのガラスレンズに比べ、コストは10分の1になる」というモールドプレス成型。一体どのようなつくり方なのでしょうか?

【特集】信大工学部のスゴイものづくり。今回ご紹介するのは、ガラスレンズを研究する信州大学工学部機械システム工学科教授・荒井政大先生です。

コスト10分の1「モールドプレス」とは?

研究テーマはガラスレンズの「新しいつくり方」

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「私たちの研究は、ガラスレンズです。」 学生たちが手にする、一眼レフカメラや、液晶プロジェクター。さまざまな光学デバイスの心臓部となるのが、ガラスレンズです。信大工学部荒井研究室では、ガラスレンズの製造方法を研究しています。

「とくにこの中に使われている『非球面レンズ』が高級なんです」と、プロジェクターをもつ板垣大輔(大学院1年)さん。
ズームやピント合わせなど、通常ひとつの機器の中には何枚ものレンズが使われていますが、とくに高級なものが「非球面レンズ」。通常の球面レンズと違い、平らでも球面でもない特殊なカーブを描くレンズです。
球面レンズだけを組み合わせると、どうしても焦点が合わずにボケてしまったり、映像がゆがんでしまう収差がでてしまいます。球面レンズに比べ収差を小さくできる非球面レンズは、様々な光学機器に使われています。

高価な非球面レンズ

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「一眼レフカメラのレンズが高いのは、レンズそのものが高いからなんですよ。」自前のカメラを手に話すのは、荒井政大先生。
「通常、ガラスレンズは砥石で研磨してついくっています。高性能なカメラに使われる非球面レンズは、ひとつひとつガラス職人さんたちが削ってつくらなくてはいけない。だから非常にお金がかかるんです。」

非球面レンズは単純な球面でないため、削ってつくる...だから製造には時間もコストもかかるため、高級レンズなのです。

型をつかって低コスト実現

「これまでの、十分の一のコストになります。」
今まで高価だった、非球面ガラスレンズ。荒井先生はその値段を格段に下げることができるというのですが、一体どういうことなのでしょうか?

「我々の研究室では、ガラスを型(かた)に入れて"モールドプレス"で成型する方法について研究を行なっています。」
「モールドプレス」とは、金型を用いたプレス成型技術。型に流し込んでつくるプラスチックのように、高温で柔らかくしたガラスも型に入れ、挟んで固めてしまう...という方法です。あらかじめ非球面状に加工した金型を使います。

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温度・圧力・時間 最適な条件を見つけだす

まずはガラスそのものを研究

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何台ものパソコンが並ぶ、研究室。
「まずは、ガラス材料の特性を細かく評価していくことが必要です」と、三代澤朋久(4年)さん。荒井先生の研究室では、まずガラスそのものを研究します。
「モールドプレスでつくられる『モールドレンズ』は、実際に製品化されています。実用化されているのですが、ガラス加工の歴史の中では最近の製法。より形状の精度を高くし、短時間で、低コストでつくるためにはデータが不足しています」

数値解析でシミュレーション

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上下から挟まれ、ガラスが変形していく...パソコン画面に映し出された赤や青の色鮮やかな映像。力や温度の様子がわかるよう、加工時の様子をシミュレーションしたものです。
「ここでは数値解析を行って、成型の温度や時間、圧力などを加えて最適な成型条件をまとめています」と、木村皇輝(4年)さん。

集めたガラスの基本データをもとに、パソコンでデータを解析。シミュレーションすることで、加工に最適な温度や、時間、圧力などを割り出していきます。

研究室で実際につくる

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「大きなものはできませんが...」得られたデータをもとに、ガラスレンズをつくるのも学内。大人の背丈ほどの銀色の筺体・小型モールドプレス機でつくられます。
「企業さんからの依頼で解析をしているので、本当の製造工場のほうが多いのですが」と、荒井先生。

イメージしにくいガラスレンズの研究ですが、基本はガラスの特性を数値化して、そのデータをもとにパソコンで解析していく...という工程。研究で得られた結果は、企業内での実際のガラスレンズ製造に活かされています。

長野発の「世界初」を!

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企業と一緒に!共同研究

「ガラスレンズは、素材も、成型方法も、年々進化しています」と、荒井先生。
「ものづくりが盛んな長野県には、レンズなど光学やカメラなど精密機械など、たくさんのメーカーがあります。実際に、今もそういった企業さんと一緒に共同研究を進めています。」

信大に着任し12年目の荒井先生。諏訪圏の企業を皮切りに、現在でも5~6社の企業と共同研究を続けています。「できるだけ小型で、軽量で、しかも写りがいい。企業と一緒に高性能レンズをつくっていきたい。」荒井先生は夢を語ります。

ガラスレンズだけじゃない!実験×解析

荒井先生の研究はガラスレンズだけではありません。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)や、カーボンナノチューブ系先端複合材料など様々な素材の研究をしています。
「研究には大きく『実験』と『数値解析』の2つがあります。研究室でのテーマでいうと、CFRPやカーボンナノファイバーは実験中心だし、レーザー超音波は数値解析がメイン。ガラスレンズはその中間で、実験も解析も行っています。」
「企業からのニーズが多く、結果として研究テーマも幅広くなった」という荒井先生。それだけ、いま期待されている研究内容なのでしょう。

「長野県発で『世界初』となる高性能レンズをつくりたい」長野県発の高性能なガラスレンズを世界に!荒井先生の研究は続きます。

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【取材日:2011年12月06日】

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