[サイプラススペシャル]153 ものづくりの新しいソリューションの提供を 工作機械の製造を通して

長野県北佐久郡御代田町

シチズンマシナリーミヤノ

エントランスに向かう緩やかな坂道の植え込みには「シチズンマシナリーミヤノ株式会社」の社名が刻まれたプレートが置かれ、シチズンの時計塔とともに、訪れる人を迎える。工作機械CNC自動旋盤製造で世界トップクラスのシェアを誇り、日本のみならず世界を牽引する工作機械メーカー「シチズンマシナリーミヤノ」が、2011年4月1日、歴史を刻み始めた。

マザーマシンのマザー工場

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工作機械とは、様々な工業製品の部品を作るため、金属素材を削ったり、穴をあけたりと加工するために特別に工夫された機械で、マザーマシンとも呼ばれている。自動車や医療機器・ITや通信機器などのほとんどすべての工業製品は、この工作機械があって初めて部品が作られ、製品となる。


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長野県御代田町に本社を置くシチズンマシナリーミヤノが製造するマザーマシンは、ろくろのように金属の棒状素材を回転させて部品を削りだす自動旋盤と呼ばれる加工機だ。この自動旋盤に初めてコンピューターを搭載したのがシチズンマシナリー、1970年のことだ。

工作機械をコンピューター化することは、機械操作が簡便になるばかりか、①機械動作をプログラムすることで無人による24時間の自動制御が可能になる②1つのプログラムで複数の工作機械のコントロールできる③プログラムを替えて加工工具を交換すれば、1台の工作機械で生産する製品の種類も増えるなどなど、工業製品の大量生産・コストダウンにも大きく貢献、マザーマシンの進化の上で画期的な1ページとなった。

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その後もシチズンマシナリーのCNC(Computer Numerical Control)自動旋盤は、小型精密加工機「Cincom」(シンコム)ブランドを中心に進化発展、複雑形状の金属加工に対応するだけではなくコストパフォーマンスと汎用性に富んだ製品群は、さまざまな分野で活躍し、全世界で5万台以上も使われているトップブランドである。 そして、2011年4月には、更なるグローバル化を目指し、同じシチズンホールディングスの傘下で産業用機械を製造していた㈱ミヤノと経営統合し、シチズンマシナリーミヤノが誕生、御代田町の本社はシチズンマシナリーミヤノの基幹工場=マザー工場として機能している。

「工作機械製造は黒子、だがものづくりの基盤」。

㈱ミヤノは工業用精密やすりの加工製造から、シチズンマシナリー㈱はシチズン時計の時計製造用工作機械を生産するところからスタート、それぞれ80年を超えるものづくりの技術と歴史を持っていた。経営統合後は「ものづくりの中心が、欧米から日本にそして今アジアに移ってきている」。と語るシチズンマシナリーの杉本健司社長(63才)が、経営の舵をとる。「これからは、ものづくりを支える工作機械の製造や販売もアジア・中国に移って発展していく。その中でどうやったら、日本のものづくりが生き抜いていくことができるのか、大きな課題だ」。杉本社長の視野は欧米からアジアまでグローバルに広がっている。

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「工作機械製造は黒子、だがものづくりの基盤を支える産業です」。「産業規模でみると工作機械製造は日本国内でも1兆円程度の市場、しかし、ものづくりの土台を支える重要な分野です」。1兆円の市場から、自動車産業、IT産業、電気機器産業などあらゆる分野でそれぞれ20兆円30兆円を超える付加価値の高い製品が創り出されていく、そのダイナミックな動きを説明する杉本社長の表情は実に魅力的だ。

これが「Cincom」(シンコム)の工場

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高い生産性を持つマザーマシン小型精密CNC自動旋盤「Cincom」(シンコム)製品群。その製造工程は、工場の訪問者であれば、誰でも見ることができる。玄関から階段を上がると、大きなガラス窓越しの眼下に生産現場が広がっている。「ここは見てもらうことを前提とした工場なんです。社員は、海外のお客様はじめ、工場見学に来る近所の小学生にまで、多くの人に見られているという緊張感の中で働いています」。


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周囲が600メートルという工場は、瞬間的には視線が定まらないほどの広さ、フロアを歩いても、400名もの人が働いている作業現場とは感じられない。
工作機械の土台の部分は鋳物製、海外で生産されたこの土台に、様々な部品が組み上げられていく。少し先の通路から工作機械1台分の板金部品を積んだ自動搬送機が動いているという合図の音楽が流れてきたが、視認は出来ない。
各製造工程を仕切るのは自動倉庫。背中合せに10メートルもあろうか、天井まで届くほどの高さがあり、様々な部品だけではなくトン単位の重さがある土台や筐体などもこの自動倉庫で管理や加工管理をしている。

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工作機械を組み上げる作業の基本はセル方式、1台の機械に工程ごとに適した担当者が異動する、機械は動くことなく組み上げていくというやり方だ。最大月産300台以上を出荷したこともあったというが、現在の出荷台数は月産150台、出荷を待つ中には、ヨーロッパに向けて梱包された製品も並んでいる。

トータルソリューションの提供を

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「シチズンマシナリーは時計製造をルーツとするより小さいものを作る技術を持ち、ミヤノ製の工作機械はもう少し大きなサイズものの製造が得意。あわせると9万を超える出荷台数となり、顧客の層が広がりました。」製造・営業・メンテナンスを含むサービスなど、質の高い事業をグローバルに展開するためには"規模"は欠かせないと杉本社長は強調する。更に「ここ20年ほど蓄積してきた日本のものづくりのノウハウを、アジアの国々が獲得していくためにはまだまだ時間がかかる、量ではない質のものづくりは簡単にマネは出来ない」。「ものづくりが生き残っていくためには、国内のメーカーが持つ個々の競争力を生かし日本全体が連携するようなビジネスモデルを作らなければ」。
工作機械が核になって、技術や技能のみならず、人材育成、経営のノウハウまで、トータルにものづくりの力を高めていくソリューションを得意先である企業に提供したい、装置の供給だけではないものづくりの力を語る杉本社長から日本のものづくりへの危機感も伝わってくる。

自分たちが未来を作る

シチズンマシナリーミヤノの製品には「Evolution(進化)」と「Innovation(革新)」が謳われている。どの企業にもプロセスを大事にして日々のEvolutionを進めていく人と新しいソリューションを創り上げていくInnovation型の人材が必要と語る杉本社長に、ものづくりに携わる若い人へのメッセージを伺った。
「工作機械産業は地味だけれど、それを窓にして、時代の大きな変化や激動の時代に自分自身もシンクロしていることを感じて欲しい」。「"今"に安住することなく、テレビニュースの中の出来事だと思っていた今日のユーロの動きが、現実の自社の明日の受注に結びつくというダイナミズムを工作機械というものづくりを通して体感して欲しい」。ものづくりの未来へのプレゼントの言葉である。

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【取材日:2011年12月13日】

企業データ

シチズンマシナリーミヤノ株式会社
長野県北佐久郡御代田町御代田4107-6 TEL:0267-32-5900
http://cmj.citizen.co.jp/