[サイプラススペシャル]159 再生医療研究から「歯磨き粉」「育毛剤」へ ポリリン酸で諏訪の地からメディカル新産業

長野県岡谷市

リジェンティス

白い歯でもっと素敵に
メディカル(医療)分野のベンチャー企業

「白い歯でもっと素敵になりませんか!」
白い歯がきらりと光る女性の手には、歯磨き粉。
1つ3990円…と高めの値段設定にも関わらず、インターネットやテレビ通販を中心に売り上げを伸ばしている。

歯周病予防歯磨き粉や育毛剤の開発を手掛ける岡谷市のリジェンティスは、長野県で2000年に創業したメディカル(医療分野)のベンチャー企業だ。長年研究してきた「医療」を「一般向け」に切り替えたことが成長のカギ。「より付加価値の高い商品づくり」をモットーとするベンチャー企業を取材した。

「薬」の研究から「予防」へ

20人以下のスタッフで売上5億円以上

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諏訪湖を源流とする天竜川。川沿いに走るJR中央線の川岸駅からクルマで10分、民家の間を縫うように走る細い坂道を登ると、平屋の白い建物が見える。医薬部外品の歯磨き粉や育毛剤をつくるリジェンティスの本社工場だ。

スタッフは15人ほどと大きな工場ではない。しかし、昨年の売り上げは前年比25%増の5億7千万円、営業利益1億3千万円という驚くべき成長率、利益率を誇る。
諏訪のベンチャー企業は、どのようにしてメディカル分野で成長することができたのだろうか?

もとは治療薬の研究から

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「もともと大学で新しい『治療薬』を研究していました。」
そう笑うのは、柴肇一社長(50)。「社長」という肩書より、気さくな大学の先生といった雰囲気だ。

「岡谷市などの支援を受けて創業したのは2000年。もともとは新しい薬をつくろうという、大学発のベンチャー企業でした。」岡谷市出身の柴社長の前職は大学の研究者。北海道大学の助教授として次世代の再生医療のカギを握る物質といわれる「ポリリン酸」を研究していた。


参入障壁の高い医療分野

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「薬の研究というのは、開発されるまでに膨大な時間とお金がかかります。さらに、販売するための許認可が下りるまでまた時間とお金がかかります。」

大きな成長が見込まれる医療分野だが、規制も多く新規参入の難しい領域だ。たとえば、同じく諏訪地域のサンメディカル技術研究所(長野県諏訪市)が手掛ける植込み型補助人工心臓「EVAHEART(エヴァハート)」は、研究開発に10年、許認可に10年と、実に20年もの時間と、50億円を超えるという開発費を費やしている。
(サイプラススペシャル91 ミスズ・サンメディカルホールディングス参照)

「少しでも早く市場に商品を出したい...と思った時、『薬』は難しいと判断しました。しかし研究成果を多くの人に役立てたい、そこで『予防』という方向で進むことにしたのです。」
再生医療の研究を、歯周病予防の歯磨き粉へ。医療分野から大衆向け商品に切り替えることがヒットのカギとなった。

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はじまりは「ポリリン酸」研究

歯の着色汚れが落ちる!?

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「ぜひ実際に、歯磨き粉による変化の様子見てください。」
白衣が似合う柴社長が手にするのは、「アパタイト」という歯の主要成分を塗った試験棒だ。「これが歯のモデルです。コーヒーの液に浸けますね...」濃いコーヒー液が入った紙コップに付けると、うっすらと茶色に染まる。「これがステイン...着色汚れです。」

汚れた部分にジェル状の歯磨き粉をつけて、水で洗い流す。「ほら、ジェルを付けた部分だけ、着色汚れが落ちているのがわかるでしょう。」
よく見ると、確かに歯磨き粉をつけた部分だけ、うっすらと白い筋のなって汚れが落ちているのがわかる。

市場をつくった先駆者

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歯を白くしたり、歯石の沈着を防ぐなどの効果が期待できるという歯磨き粉の商品名は「薬用ハミガキ薬用ポリリンジェルEX」。医薬部外品だ。

白を基調に緑のラインが入ったプラ製のポンプ式容器に入った商品は、30gで希望小売価格は3990円。スーパーなど並ぶ一般的な歯磨き粉に比べるとかなり高価なように思えるが、「同じ商品カテゴリーでは一般的な値段です。もともと私たちが初めて開発したので、値段設定はわたしたちがはじめに決めて、後から発売された商品も同じような値段になっているんです。」

成分表示には「ポリリン酸ナトリウム」の文字。同じような効果効能をうたう商品も増えてきている。リジェンティス柴社長は「ポリリン酸」を用いた歯磨き粉の商品化の先駆けとなった。

再生医療から「歯磨き粉」

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「大学では、『ポリリン酸』の基礎研究をやってたんですね。再生医療にも非常に役立つということが分かったんです。そこから研究を重ねると、実は口の中で非常にいいということがわかって、そこから歯磨き粉の研究に移っていきました」と、柴社長。

リジェンティスの商品の核となる「ポリリン酸」は、すべての生物が持つといわれる分子で、再生医療の分野で注目されている物質だ。
柴社長は研究で、ポリリン酸を特徴ごとに「分割」することに成功した。
「リン酸が3つ以上鎖状につながった構造の分子がポリリン酸なんですが、実はいくつリン酸がつながるかによって、その効能が違っていたんです。特に10個つながりと、60個つながりに効能が発揮されやすいことを見つけ、その特徴的なポリリン酸だけを取り出す技術が商品に活かされています。」
柴社長は「10個つながりは汚れの除去効果と沈着防止効果があり歯磨き粉に応用、60個つながりは細胞の再生効果があり、育毛剤に応用した」という。

未来を拓く次世代産業「健康・医療」

高付加価値の「分割ポリリン酸」

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「これが、一番の技術『分割ポリリン酸』です」
大学の研究室を思わせる製造現場。白い作業服に身を包んだスタッフの後ろに、透明の液体が入った大きなガラス瓶がある。
ポリリン酸自体はそれほど高価な物質ではなく、業務用に一般的に販売されている。リジェンティス本社工場では、業者から仕入れたポリリン酸を「分割ポリリン酸」に分ける作業が行われる。この作業こそ「付加価値」の源だ。

「企業秘密ですが、単純に言うと重さが違うので、それを何度も何度も濾していくイメージです。」精製された液体に、アパタイトやミントの風味などを加えると歯磨き粉が完成する。


ヒットすれば大きい「医療分野」

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一般的に薬の原価率は低い。「せんみつ(千に3つ)...成功率0.3%」ともいわれる薬は、失敗事例も含め販売価格にその莫大な開発費をのせなくてはいけない。逆に、一度商品化されヒットすれば、ほとんどが利益となる。
東京小金井市の開発販売拠点を含めてもスタッフは18人。少人数にも関わらず売上5億7千万円、営業利益1億3千万円というリジェンティスも、ここまで成長するには10年の時間がかかっている。

これまで好調に推移しているテレビの通販番組や、OEM(相手先ブランドによる生産)に加え、自社ブランドでもインターネットやドラッグストアなどの店頭販売を強化。
「有名タレントを起用して、CMや店頭でも歯磨き粉をPRしていこうと準備しています。」

やはり諏訪で新工場

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大学や創薬メーカーとも連携を深め、新たな商品開発を進めるリジェンティス。昨年、工場の生産能力を1.5倍に拡大したばかりだが、「順調にいけば3年後にはまた生産体制を増強しなくてはいけない。やはり諏訪地域で新工場を」と、柴社長。

「リジェンティスは、長野県で起業させていただいて、長野県で発展した企業。ふるさと長野県で『メディカル分野』の事業をもっと大きくしたい。」未来を拓く次世代産業として期待される「健康・医療」分野で、リジェンティスは確実に成果を上げつつある。

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【取材日:2012年01月30日】

企業データ

リジェンティス株式会社
長野県岡谷市川岸西1-4-1 TEL:0266-23-1884
http://www.regenetiss.jp/