[サイプラススペシャル]166 ものづくりのワザを活かしてメタボ解消!? センサーと「省・小・精」で健康増進!

長野県諏訪市

セイコーエプソン

エプソンで健康になりませんか?
革新的な商品で新しいビジネスへ!

「エプソンで、健康になりませんか?」
プリンターやプロジェクターでおなじみのセイコーエプソン。そのエプソンが「健康になるためのサービス」を始め、注目を集めている。

得意のセンサー技術を核に、強みとする省エネ化、小型化、高精度化の技術を融合した「新たな事業領域の創出」。
これまでなかった「革新的な商品」で、健康、スポーツ、医療など新たな分野に挑戦するものづくり企業を取材した。

新たな領域に挑戦する「メタボ改善センサー」

あのエプソンが「健康サービス」を開始!?

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海外75社を含むグループ企業は全99社。
連結売上は9700億円以上(2011年3月期)、従業員約79000人。
長野県諏訪市に本社をおくセイコーエプソンは、長野県を代表する国際的ものづくり企業だ。
家庭用インクジェットプリンターはもちろん、プロジェクターでも国内トップクラスのシェアを誇る。

そのエプソンが、新しく「健康関連サービス」をスタートした。
成長分野として期待が高まる「健康・医療」分野だが、エプソンといえば情報関連や精密機器。しかも、ものをつくって売るものづくり企業だ。
一体どんなサービスなのか?
新たな分野に果敢に挑戦するものづくり企業の姿から、長野県のものづくりの方向性が見えてくる。

メタボの改善・予防を支援

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「これを使って、メタボの改善・予防を支援しています。」
プロジェクトチームのメンバーが腕に巻いているのが、新サービスのキモになる製品。一見普通の腕時計のようにみえるが、実はこれ、手首に装着する「メタボ改善センサー」だという。

腕時計のような装置をつけるだけで、メタボ改善...そんなうまい話があるのだろうか?「これで、脈拍を測ることできます。さらに、消費カロリーや歩数の計測もできます。

光センサーで脈拍を測定

エプソンが開発したのは、腕時計のように体に身につける「脈拍センサー」だ。
表示部分こそ腕時計のようだが、一番の違いは、裏面についた光センサー。銀色の輪から、緑色の光が放たれる。
反射した光をセンサーがキャッチし、血管内のヘモグロビン流量を計測。脈拍から、消費カロリー、運動強度などを計測し、一番効果的な脂肪燃焼運動をサポートするという仕掛けだ。

エプソンが始めた「生活習慣改善支援サービス」は、この脈拍センサーを企業の健康保険組合向けに貸し出し、内臓脂肪型肥満(メタボリック症候群)の改善・予防を支援する。
「健康志向は高まっています。エプソンの技術を活かして、拡大が見込める健康分野に挑戦しました。」
新規事業に取り組むグループのリーダー小須田司部長が、このセンサーの開発をはじめたのは20年前。改良に改良を重ね、昨年10月ようやくサービスを開始した。開発物語を紹介しよう。

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プロジェクトチーム開発物語

エプソン得意の「省・小・精」

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「エプソンが得意とする『省・小・精』の技が詰め込まれています」と、メカの設計を担当した、志村典昭さん。
「省・小・精」とは、省エネ化、小型化、高精度化のこと。エプソンのみならず、精密機械などから発展した長野県のものづくり企業が得意とする分野だ。
腕に装着しても違和感のないサイズ、しかも数日間は充電なしで動く...時計作りで培った小型・軽量化のワザが活きる。

エプソンの事業範囲は広く、プリンターやプロジェクターなどおなじみの商品のほかに、水晶やセンサーといった「部品」も手掛ける。(ちなみに、あのiPhoneやiPadなどアメリカ・アップル社製品にもエプソンの部品が使われている。)
手首に装着するメタボ改善センサーには、こうした水晶・センサーの技術が活かされている。
「もともと、センシング技術はエプソンのコア技術です。これまで部品の提供はありましたが、センサーを生かした最終製品は、はじめてかもしれません」と志村さん。


埋め込みソフトで「ノイズ」除去

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「いつでも、どこでも、手軽に測れるようにしたいと考えました。」そう話すのは、埋め込みソフトの開発を担当した古田尚志さん。
脈拍を測る機器は、珍しくない。たとえばスポーツジムのランニングマシンなどは、指先につけた圧力センサーで脈拍数を測定する。
エプソンがこだわったのは、「いつでも、どこでも、手軽に」だ。そこで、日常生活に支障がない形で、しかも簡単に装着できる腕時計型を採用した。

「一番難しかったのは、ノイズの除去」微細な光で脈拍を感じるセンサーだからこそ、どんなに動いても誤差なく脈拍を感知しなくてはいけない...。まわりのほかの光の「ノイズ(雑音=測定上じゃまになる光)」を取り除くための埋め込みソフトが一番の肝だった。
「エプソンの技術を詰め込んで、利用可能シーンを広げることができたと思います。」古田さんも自信を示す。

機器は売らない。「トータルサービス」を提供

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ハードやソフトの開発は、エプソンの得意分野。しかし、なぜこの商品をサービスに展開したのか?営業企画担当の高本佳明さんは言う。
「この機器にあった『売り方』を考えたとき、『トータルのサービス』を提供するのがいいと思ったんです。」
現在、高本さんは健康保険組合などにセールスを行う。「ただ単に機器を販売するのでなく、この機器を使った運動や、食生活などを具体的に指導・支援させていただく、トータルのサービスを提供しています。」

健康保険組合には、メタボを減らし医療費を抑えるため、2008年度からメタボの該当者や予備軍に生活習慣を改善するための指導を受けさせる「特定保健指導」が義務付けられた。エプソンはこれを商機ととらえた。
新しいビジネスを立ち上げる段階から、顧客ニーズを開発にフィードバックしてきた。
「運動は、弱くても効果がないし、激しすぎると危険。燃焼脂肪にちょうどいい運動をより分かりやすく伝えるために工夫した。」たとえば、画面に表示される「にこにこマーク」は、お客様となる健康保険組合からの意見から生まれたアイデアだ。
新しい機器を開発し、その機器でどういうビジネスモデルができるか...をチームで検討した結果、健康保険組合へのサービス業が生まれた。

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「省・小・精」で新たな挑戦

楽しみながら続ける6カ月

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実際の使い方を紹介しよう。
日中は、普通の腕時計の使用方法と変わらない。違いはデータをパソコンに転送するとことで、自分の運動量を管理する点だ。
週に1回の体重測定と、パソコンに食べた物を打ち込む「食事メモ」、あとはリスト型脈拍計のにこにこマークが表示されるように「脂肪燃焼ウォーキング」をするだけ。これを半年間続ける。

「生活習慣の改善に必要なのは、継続することです。」
専用のウェブサイトでは「頑張っている人のランキング」が見られたり、利用者専用のキャラクターが徐々にスマートになっていったりと、楽しみながら続ける仕組みがなされている。データをもとに保健師・管理栄養士から運動や食事のアドバイスが受けられる。
実際に支援サービスを受けるためには、加入の健保組合と契約が必要だ。価格は、メタボ該当者に電話などで連絡を取りながら指導する「積極的支援」が3万5千円、予備軍が対象の「動機づけ支援」が2万円の2コースから選べる。

プロジェクトチーム結成から3年

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「今回我々は、メタボ改善用途で商品を投入しました。今後は、より多くの人々の健康増進活動に貢献できるようにやっていきたいと思っています」と、プロジェクトのリーダー小須田部長。
今回の新事業を立ち上げるにあたり、エプソンでは企画・製造・販売・マーケティングなどの各部署からメンバーを集めた「プロジェクトチーム」を結成した。

もともと小須田部長は開発担当。20年前から続けている集光型光センサーを用いた「光学式脈拍計」が、プロジェクトチームの原点だ。
「ようやくスタートが切れた、というのが正直な感想です。大きな期待に身が引き締まる思い。」プロジェクト結成から3年。20年間の想いが詰まっている。

感動する製品・サービスを創る

「省・小・精の技術で、世界中のお客様に感動していただける製品・サービスを創っていきたい。」
2015年には、連結売上高1兆円回復を目指すエプソン。独自技術を持つプリンターやプロジェクター、水晶・センサーの各事業に注力するという。

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なかでも注目は、これまでなかった革新的な商品で、健康、スポーツ、医療など新たな分野に挑戦する点だ。
プロジェクトチームを中心に、眼鏡のようなディスプレイ「シースルモバイルビューアー」を開発したり、世界最軽量「GPSランニング機器」の製品化を進めている。
「ウエアラブル(身につけられる)機器で、健康などの新たな市場を創っていきたい」と、小須田部長。
これまで培ってきた高い技術力を武器に、新たな成長分野に挑むエプソン。「長野で創る」メイドイン長野のものづくりの、新たな道筋になるだろう。

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【取材日:2012年3月15日】

企業データ

セイコーエプソン
諏訪市大和三丁目3-5 
http://www.epson.jp/