[サイプラススペシャル]169 心を込めて造るシステムキッチン 多品種少量で攻めの生産

長野県茅野市

矢島

「食事の支度は立ってやるもの」そんな現代の常識に、すわって楽しく台所の仕事ができるキッチンの提案をしているのが株式会社矢島、茅野市に生産拠点を持つシステムキッチンのメーカーである。年配の方の中には「ヤジマのステンレス流し台」のコマーシャルを思い出す方も多いのではないだろうか。流し台の製造をはじめて半世紀、キッチンを楽しむという生活スタイルをみすえた理想のキッチンを追求し続ける矢島を取材した。

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「自然に囲まれた林間工業団地」

矢島の諏訪工場は、諏訪南ICから車で約5分、茅野市金沢工業団地の一角にある。キッチンプラザも併設した敷地は広い。周囲を林で囲まれた敷地面積14000坪(45600㎡)、駐車場と芝生広場の奥に3つの建物がまさに広がっている。800坪(2660㎡)のキャビネット工場、1500坪(4800㎡)のステンレス工場と配送センター310坪(1023㎡)、そして営業・設計・品質保証や生産管理等の事務部門まで、社員約80名が働く諏訪工場の総責任者である杉山副社長のきっぱりとした説明は穏やかだが、力強い。


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「製品への信頼は社員教育から」

矢島の製品の85~90%は、OEM生産によるステンレス流し台やシステムキッチンの製造だが、近年は自社ブランド製品にも力を入れている。
「ものづくりには「品質・納期・コスト」の3つの原則がある。この原則をベースに社内における活動(創造・改善等など)の活性化を図っています。社員一人・ひとりの認識の統一し、全社の方向性を一本化する、さらに参画意識を高めていくことが重要です。」杉山副社長は矢島ブランドを語る。


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キャビネット工場に足を踏み入れると、まず目に入るのは大きく「作業改善を通じた職場の活性化を図る」と書かれたコーナーだ。そこにはさまざまな改善項目が書かれたシートが隙間なく並んでいる。毎日の仕事に問題意識を持って取り組み、継続的に改善を進めていくという矢島のものづくりへの姿勢がストレートに伝わってきた。あわせて掲示されている社員教育の資料もみな手作りだという。
改善は「トップダウンとボトムアップの融合」をもとに管理職を中心とした改善プロジェクトで行われている。改善実績は1年間に約120件、それを何年も継続している。実施された改善提案は、製品の品質を高めることはもとより、市場の変化に対応できる強い体質を作り、信頼となってブランドに反映する。「ものづくり」の確かな基本である。


多品種少量で攻めの生産

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矢島の生産の特徴は、受注確定でつくる多品種少量生産。同一製品を同一規格で大量生産するのではなく、受注品ごとに設計図を引き生産する方式をとる。コストを抑えるために中間在庫を持たない整流生産方式(ととのった流れ)を採り入れ、受注品1つ1つを作り上げる丁寧な仕事だ。


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キャビネットの製造は、ライン上を流れる図面(ここには発注先の個人名が記され、作り手と使い手の距離は近い)に従って、パーツの木取りから組み立て、そして製品の仕上げと進む作業だが、材料の素材からの木取りの工程では1人が複数の機械を受け持つ(「ながら作業」と呼ぶ)。仕様の異なる複数の設計図を読みながら、それぞれの機械に対して、材料をセッティングしてカットする、次の工程への受け渡しもする複雑な組み合わせ作業だが、一つ一つが確実で自然な流れを作りだしている。
生産ラインに並ぶ機械や作業台の配置も工夫され、使い勝手優先で作られた治工具もあちこちに見える。人や製品の動線、そしてラインの前後工程との連携(助け合い)もスムーズだ。足早な社員の動きに高いモチベーションがにじみ出る。
「かつてはこのあたりは在庫の山でした。」杉山副社長は立ち止まった。「今は素材の投入から製品の完成までの一気通貫。攻めの生産ができています。」「日本で製造業として生き延びるためにはより進化したものづくりが必要です。」


ステンレス加工のプロフェッショナル

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「ヤジマのステンレス流し台」のキャッチフレーズを改めて実感したのはステンレス加工工場である。レーザーカッターで型をぬき、大型(2200・350t等)のプレス機で次々にシンクが成形されていく。整然と並ぶ大型機械とともにあるのは技術の蓄積だ。普通のキッチンに使われるステンレスの厚さは加工のしやすさを優先した0.8ミリ前後、しかし、矢島は3ミリ等の厚物ステンレス素材の加工も行う。継ぎ目のない5メートルものステンレスカウンターも造る。シンクの形も通常は長方形だが、オーダーがあればV字型やハート型も造る。深さや形が自由自在の製品を提供できるのは機械だけではない職人の加工技術、この技術は、キッチンに機能と個性、インテリアのクオリティを付加する技術でもある。杉山副社長の言う「絶え間なき創造と改善へのチャレンジ」のものづくり、まさに50年の蓄積だ。


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世代をこえて使うキッチン「らくすわ」の提案

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「副社長は気になればここにきて自分で車椅子に乗って動いていました」キッチンプラザに展示されている新製品「らくすわ」だ。この製品は約1年半前(構想は5年前)から開発をはじめ、今年2月に発売。らくらくすわってキッチンを楽しもうという矢島ブランドのコンセプトのもとに開発された。一番の特徴は、ユニバーサルデザイン、特にすわったとき作業するときの高さが、75センチに設定されていること。一般的な流し台よりも10センチから15センチ低い。この高さを基準に収納もテーブルもワゴンも自由に組み合わせができる。幅はキッチンで調理をする人が無理なく手を広げられる幅、シンクはやや浅目でタッチ水栓を設置、徹底して使いやすさを追求した。椅子を使った移動を意識し、コンパクトにまとめ、機能的で高い作業効率を追求した。専用に設計した手触りの良いカラフルなハンドルも使い勝手の良さが連想できる。


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杉山副社長は自分で車椅子を使ったり、ミリ単位の規格にこだわって開発の先頭に立ったというが、「らくすわ」開発のきっかけは、「心の豊かさ」と説明する。物の豊かさを求めていた時代から心のコミュニケーションを求める現代にあって、家庭の中心にあるキッチンがお年寄りでもだれでももっと楽しく使えれば、心の豊かさが育めるのではないかという。おばあちゃんが椅子にすわって楽しそうに作ってくれる料理、小さな子は立って自分の目線でそれを追いかける。そこから食の文化を継承もうまれるであろう。設計から製品造りまで一貫して行っている矢島の技術だからこそ形になったキッチン、大きく伸ばしていきたいと社員の思いも重なる。


夢は「いい会社」

このキッチンプラザには見学者も多い。中国や韓国からも住宅や設備メーカーの方が訪問する。「空洞化が進む中でも生き残れる会社」杉山副社長は胸を張る。
「夢は、経営者として会社を存続させて、地域社会へ貢献していくこと。でも何よりも働く若い人たちにいい会社といってもらえるような会社にしたい。」
キッチンに対する情熱は途切れることはない。

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【取材日:2012年04月06日】

企業データ

株式会社矢島
諏訪工場 長野県茅野市金沢3410-3 TEL :0266-73-7878
http://yajimacorp.com/