[サイプラススペシャル]173 「はやぶさ」に搭載されたセンサー 活躍の場は「宇宙から海底まで」

長野県松川町

信州航空電子

小惑星探査機「はやぶさ」にメイドインナガノ
宇宙という過酷な環境でも正確に働くセンサー

 「私たちのつくったセンサー、はやぶさにも使われました!」
 小惑星探査機「はやぶさ」。最先端の宇宙研究分野を、メイドインナガノのワザが支えているのをご存じだろうか?

 信州航空電子は、はやぶさの加速度センサーを製造。小惑星イトカワの軌道に乗せるために、探査機の動きを把握する役割を担った。
 10㎝にも満たない小さなセンサーには、宇宙という過酷な環境でも、正確に働き続けるすごい仕組みが組み込まれている。

社名の通り「航空電子」が得意分野

sae-jae03.jpg

小さなセンサーに詰め込まれたスゴイ技術

 直径3㎝程度の円筒形。聴診器の先のようなカタチをした銀色の物体こそ、はやぶさに搭載されたセンサーだ。手のひらの中に隠れるくらいのサイズで、重さは80gほどだが高価だという。

 「クルマなど一般ユーザー向けの部品とは、どうしても値段のケタが違うんですよ」と説明するのは、製造部門を担当する西尾道徳部長。
 西尾部長に案内された製造現場を見て、なるほど、と思った。


手作業で精密なものをつくるワザ

sae-jae04.jpg

 自動車部品の場合、量産が一般的だ。機械化・自動化されたラインでは次々と部品がつくられる。
 しかし、案内された信州航空電子の製造現場にあったのは、時間をかけてしっかりと組み立てている姿だった。「何千個、何万個作るものでなく、お客さまからの設計に合わせて作っていくのでこのスタイルです。」使い方に合わせオーダーメイドに近いのが特徴だ。

 「(はやぶさに採用されたのは)手作業で精密なものをつくっていることが、評価された結果だと思う。作っている私たちとしても自信になった。」と西尾部長。


航空宇宙分野の進展に貢献

sae-jae05.jpg

 「航空電子」の社名が示す通り、航空宇宙関連の電子機器や特殊部品が得意分野だ。
 主力商品は、高性能のセンサーや、その技術を応用した製品など。信州航空電子は、まさに「ものづくり」に特化した会社といえる。
 開発や設計を行うのは、日本航空電子工業。その子会社として1990年に生産を開始した信州航空電子は、以来20年以上、高い技術力と製品力の「ものづくり」で、航空宇宙分野の進展に貢献してきた。

 緑豊かな最新鋭の工場で作られる「加速度」や「角速度」センサー。いったい、こうしたセンサーの何がスゴイのだろうか?

宇宙で使われたスゴイ!加速度センサー

ロケットの振動にも耐える性能

sae-jae06.jpg

 「ロケットの打ち上げを見たことがありますか?周辺の空気が切り裂かれるようなバリバリバリというものすごい振動が伝わってくるんです。」
 実際に、種子島でのロケット発射に立ち会った遠藤俊彰社長。信州航空電子が手掛ける航空・宇宙向けの製品は、空気を切り裂くような大きな振動の後でもちゃんと作動しなくてはいけない。

 さらに、遠藤社長は続ける。「宇宙は、高温や低温など、センサーにとっては非常に過酷な環境。そうした中でも正確に作動する...という品質が求められます。私たち作る側としては、決してミスが許されない。社員はみな、高い緊張感をもっていますし、その分、誇りを持っています。」


「振り子」を応用した加速度センサー

sae-jae07-1.jpg

 信州航空電子の技術力を知るためには、はやぶさにも採用された「加速度センサー」についての説明が必要だろう。
 「加速度」とはスピードが速くなったか遅くなったかを知るための数値だ。たとえば時速80㎞の一定速度で走る電車の中では、普通に立って新聞を読むこともできる。これが加速度ゼロの状態だ。
 しかし、急加速したり急ブレーキをかけたりすると、体が大きく傾きつり革をつかまっていないと倒れてしまう。速度変化の大きさが、加速度だ。

 加速度センサーも、この原理を応用している。
 「簡単に言うと、このセンサーの中に『振り子』が入っているんです。その振り子の振れを戻す力を測定し、加速度を計算しています。」

製品ひとつひとつの細部にまでこだわる

 高温・低温など温度変化にも適応するため、「振り子」の素材にもこだわっている。
 一般的な加速度センサーの場合は金属製だが、これだと温度変化に対応できない。宇宙向けセンサーには「人工水晶」が使われている。
 「人工水晶は、ガラスのようなもの。性能は優れているが、加工組み立てには高い技術力が必要です」と遠藤社長。

 「すべては、組立のノウハウなんです。」
 設計開発出身だけあって、遠藤社長の話は分かりやすい。「振り子部分の精度が命。振動に耐えるためには、センサーの中の隙間があってはいけない。高い品質と低コストを実現し、さらにしっかりと納期を守る。こうしたものづくり企業の基本こそ、私たちの強みです。」一貫生産にこだわり、製品ひとつひとつの細部にまで宿る、優れた加工精度。確かな品質が信州航空電子のウリだ。

sae-jae08.jpg

「宇宙」の技術を「海底」へ

新たな市場を開拓

sae-jae09.jpg

 「航空・宇宙で培った高い技術力と確かなものづくりをベースに、様々な産業分野に展開していきたい。」開拓・創造・実践を社是とする信州航空電子の成長戦略は、「新たな市場開拓」だ。
 「海底から宇宙まで、様々な産業分野に適応していく」と、遠藤社長。

 たとえば、油田掘削機に使わるセンサーや半導体製造装置の振動を制御する仕組みなど、航空・宇宙分野で培ってきた技術を応用した新しい産業への受注を確実に伸ばしている。


信州でしかつくれないものを

sae-jae10.jpg

 残雪のアルプスに、りんごの白い花が映える、長野県南部「南信州」。 中央アルプスと南アルプス、ふたつの日本の屋根を望む伊那谷のほぼ中央、下伊那郡松川町に信州航空電子は本社工場を構える。
 緑あふれる伊那谷で作られた製品が、世界の先進技術を支えている。

 「長野県松川町の信州航空電子でしかつくれないものづくりに力を入れていきたい。」
 遠藤社長は「ここで生み出される製品が、日本、さらに世界の産業や科学の発展に役立つことが夢」と語る。
 航空宇宙分野の発展に欠かせないメイドインナガノの技術力。海底から宇宙まで、信州航空電子は科学技術の発展を支えている。


sae-jae11.jpg

【取材日:2012年05月11日】

企業データ

信州航空電子株式会社
長野県下伊那郡松川町上片桐800番地 TEL:0265-37-3111
http://www.sae.jae.co.jp/