長野県塩尻市
信濃ワイン
ぶどうの産地として有名な、塩尻市南西部に位置する桔梗ヶ原。この地にある9つのワイナリーのひとつが、信濃ワインだ。国際コンクールでの入賞経験も豊富で、2012年には「桔梗ヶ原メルロー・バリック」がANA(全日空)国際線ファーストクラスのワインに採用された。自社農場で栽培されたぶどうで、心を込めて手作りワインを作り続けている現場を取材した。
「私の曽祖父が、大正時代にぶどうを植え付け栽培したのが当社の始まりです。」と語るのは、塩原悟文社長。当時は養蚕業が盛んで、桔梗ヶ原も大部分が桑畑だったという。その後二代目の塩原武雄氏がワイン・ジュース用のぶどう栽培を本格化させ、三代目となる塩原博太氏が自社でワイン醸造を始めた。現社長の塩原さんは大学で醸造学を学び、その経験を生かして数々の新製品を生み出してきた。
桔梗ヶ原は標高が約700mと高いことから昼夜の寒暖差があり、また晴天率も高いためぶどう作りに適した気候だ。しかし栽培をはじめた当初は、寒さに耐えて育つ品種が限られていたため、北米産の「ナイアガラ」「コンコード」などが主流だった。その後の気候変化などによって欧州産の「シャルドネ」「メルロー」も生産が可能となり、ワインの品種も幅が広くなった。このように欧州種と北米種の両方が栽培できる土地は、国内は勿論世界でもあまり例がないという。
この桔梗ヶ原の気候風土を生かして、信濃ワインの原料となるぶどうが作られる。果樹園の地面を草で覆う草生栽培を採用することで除草剤を一切使わず、有機肥料で栽培を行なっている。収穫時期や剪定時期には、社員総出で畑での作業をするという。良いぶどうから良いワインが出来るという意識を社員に持ってもらうことで、それをワイン作りに生かすためだ。
信濃ワインの大きな特徴が、「手作りにこだわること」。ワイン作りは紀元前から行なわれていて、ぶどうを潰して果汁を酵母で発酵させるという基本的な醸造工程はその頃から変わっていない。作り手である社員一人一人に出来上がったワインに対して思いを込めてもらうためだという。ワインとともに作られているジュースも、手作りで丹精込めて作られている。
本社地下にあるワイン貯蔵庫には、樽や瓶に詰められて熟成されたワインが並んでいる。敷地内の湧水を活用して、最適な湿度と温度を保って出荷の時を待つ。「お酒というのは微生物である酵母がつくるもの。我々はその自然の営みをほんのちょっとお手伝いするだけ。」と塩原社長は語る。
「一人一人が経営者になったつもりでやってくれと常に言っている」という塩原社長。経営者となったつもりで、ものづくりへのこだわりや経営感覚を持ってほしいと願っている。そうすることによって、自分が作った商品をいかにしてお客様に認めてもらい、価値のあるものとして売っていくかが見えてくるはずだという。
品質にこだわる信濃ワインが他に先駆けて挑戦したのが、国際ワインコンクールへの出品だった。その挑戦の理由は、自分たちの作ったワインが本物なのか全く通用しないのか見極めたかったからだという。1993年にイギリスで行なわれたコンクールに初めて参加した当時は、日本のワイナリーの出品はほとんどなかったという。しかしこのコンクールで、赤ワイン「メルロー」と白ワイン「竜眼」が銅賞を受賞し、その後もスロベニアやトルコで行なわれた数多くの国際コンクールで上位入賞を重ねてきた。
国際コンクールで結果を出してきた信濃ワインの品質は、世界をつなぐ国際便にも認められた。全日空(ANA)が2012年国際線ファーストクラスで提供するワインとして選んだのが、この「桔梗ヶ原メルロー・バリック」だ。国内の1859アイテムの中から、赤ワインとして唯一選ばれた逸品だ。塩原社長は選ばれた際「飛び上がるほど嬉しかった」と当時の喜びを表現している。
現在ワインが国内における全酒類の消費量で占める割合は約3%。この数字を「何とか10%まで伸ばしたい」と塩原社長は語る。「おいしいワインは海外産」というイメージを変えていくような、優れたワインをつくる努力を日々続けている。最後に「美味しいワインを造る秘訣は?」と尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。「私達の情熱をいっぱいに注ぎ込んだ、そんなワインを造りたいですね。」この熱い想いが、世界に認められるワイン作りの原動力となっているに違いない。
信濃ワイン株式会社
長野県塩尻市大字洗馬783 TEL:0120-47-0010
http://www.sinanowine.co.jp/