長野県長野市
マルコメ
しにせみそメーカーの新たな挑戦
「女子のチカラ」がつくる糀(こうじ)新ブランド
長野市のマルコメは、みそ出荷量全国No.1。
圧倒的な知名度を誇るみそメーカーが、みその消費低迷に歯止めをかけるべく新ブランドを立ち上げた。
それが、「プラス糀(こうじ)」だ。
発売前から話題となり、製造ラインが動き始めすぐに増産計画が持ち込まれるなど、大ヒットの兆しを見せる。
仕掛けたのは、20代を中心とした女性だけのプロジェクトチーム。“逆風”の業界にあって、「女子のチカラ」が信州みその“新しい風”となろうとしている。
「『液みそ』がヒットなら、『プラス糀』は場外ホームラン。発売前にこれほど話題になった商品はマルコメ史上かつてない。」
塩糀の調味料に、野菜につけるディップソース、春雨入りインスタントスープ、コンビニでも販売されるカップスープ、さらに「糀ジャム」まで。
マーケティング部の須田信広が「場外ホームラン」と語る、大ヒットの兆しの新しいブランドが「プラス糀」。米糀を使ったマルコメの新商品だ。
ご存じの通り、今まさに糀ブーム。健康志向の追い風も受け、「店頭に並ぶ前から増産を検討」するほど熱い視線が注がれている。スーパーなどの流通業界では「食べるラー油ブームをしのぐ商品」とも言われ、話題沸騰の活況ぶりだ。
大ヒットのカギは、「女子力」。
「男性の意見が少しでもはいっていたら、まったく違う商品になっていました。」企画チームの坂田葉月。20代の彼女が、糀プロジェクトのリーダーだ。
マーケティング担当の坂田を中心に、営業、PR、開発と部署をまたいで5人の女性たちが集まり、企画や開発にあたった。
坂田たちプロジェクトチームがこだわったのは「女性目線」。
「買うのは女性、使うのもの女性。女性目線で、私たちがイイと思うものをつくっていった」と、坂田。
味はもちろん、パッケージにもとことんこだわった。「店頭で目立つことより、食卓の雰囲気を壊さないことのほうが重要」と言うように、女性を意識した白を基調としたパッケージに、小ぶりなサイズは女性目線を感じさせる。
使い方も簡単だ。例えば200gのパックに入った「生塩糀」は、小さなキャップを外し、魚や肉の表面に馴染ませ焼くだけ。肉を柔らかくするだけでなく、食材が本来持っている味を引き出す。酵素の働きで消化を助け、乳酸菌を元気にするチカラもあるといわれている。
実際に糀で調理した鶏肉のソテーをいただくと、柔らかくおいしい。みじん切りした玉ねぎと糀、オリーブオイルをあえたトマトサラダも絶品だった。「生塩糀」は、ドレッシングやパスタソースのように調味料の新ジャンルとして定着する可能性がある。
ブームとはいえ、なぜ糀商品の開発に至ったのだろうか?
「糀って、けっこう甘い。カラダにもいいので、砂糖のような基礎調味料にならないかな...と考えたのがきっかけ」と、坂田。プロジェクトを立ち上げたのは今からおよそ2年前、糀ブームはまだ来ていなかった。
みその原料は、大豆と塩、米からつくられる糀。日本一のみそ生産量を誇るマルコメは、糀の生産量も日本トップクラスだ。その糀を使った新商品...というのは、企業の持つ強み・資源を生かした新分野という発想に他ならない。
糀は甘酒のような味で、自然の甘みがある。みそづくりに欠かせない糀を、「砂糖のかわり」になる調味料にしたいと思ったのが、「プラス糀」のスタートだった。「自然の甘さ」と「カラダにいい」というのは、女性ならではの発想だろう。
「毎日、気軽に、食卓で糀をつかってもらいたい。」新商品の第一弾は、今年3月に発売された「糀ジャム」だ。
みそといえば、みそ汁に代表される和食の代名詞。そのみそメーカーが、洋食分野に切り込んでいった。売り場は当然、イチゴやブルーベリーなど定番商品がならぶ
ジャム売場だ。発売前からスーパーなどの購買担当者の注目を集めた。
甘酒のようなまろやかな甘さの「糀ジャム」は、トーストやヨーグルトによく合う。練乳のようにイチゴにかけてもおいしい。
さらに、「一番のおすすめ」と言われたのが、トマトジュースの糀わり。糀ジャムをトマトジュースに入れてかき混ぜるだけ。酸味が緩和され、より甘みが増す。何より「カラダにやさしい」新感覚の飲み物だ。
「少しでも茶色く見えると、人気がでない」
「見た目が大事なので、糀の白い色がきれいに出るようにした」というのは、プロジェクトメンバーの1人、大畑映利子。神奈川出身の彼女は、25歳。信州大学農学部を卒業後マルコメに就職、研究所に配属された後すぐプロジェクトチームに参加した。
「糀らしい白さを出すのに苦労した」と大畑。ジャムも塩糀も、中身が見えるようなパッケージ。「糀らしい味」はもちろん、研究所では「色」も追求してきた。
パッケージにも特徴がある。
マルコメといえば「マルコメ君」。すべての商品には、小坊主がみそ汁を手にした人気キャラクターがプリントされる。
しかし、糀の新ブランドにはマルコメ君の姿がない。小さく黒字のアルファベットで「marukome」と書かれているだけ。一目見ただけでは、それがマルコメの商品か
どうかも分からない。
「マルコメの文字の色は、ほとんどがコーポレートカラーの赤です。ただ、商品全体のイメージに馴染まなくなってしまうので...」プロジェクトチームは社長を説
得し、あたらしいブランドをつくった。こちらも「前例がない」という。
みそ業界は強い逆風にさらされる。
1970年代をピークに、みその国内消費の減少傾向は止まらない。「40年前と比較し4割減」という縮小市場。2010年の国内みそ出荷量は約43万トン。直近10年だけでも1割以上減少している。
創業は安政元年(1854)。以来150年以上にわたり「信州みそ」ブランドの顔として、長野県でみそづくりを続けるマルコメは、1982年には業界に先駆けてダシ入りみそを開発、国内トップシェアを走り続けている。逆風をものともせず、20年で売り上げを1.5倍に伸ばした。
しかし、2000年代中ごろから売り上げも入り頭打ち状態となる。その状況を打破したのがご存じ「液みそ」だ。
みそは固形という固定概念をとりはらい、ペットボトルに入れた新商品は「すぐ溶ける」ことが忙しい女性たちの賛同を得て大ヒット。2009年に発売後、累計1000万本を突破した。(冒頭で「液みそがヒットなら、糀は場外ホームラン」と語った須田は、「液みそ」の開発担当。サイプラススペシャル54参照 )
「これまでの発想に縛られない」「変革を恐れない」攻めに転じるマルコメの原動力は、強い危機感にあった。
「男性意見は排除」「若手女性社員限定」糀プロジェクトチームの徹底した「女性目線」は、言い換えれば「消費者目線」だ。
「これまでどちらかといえば『プロダクトアウト(=開発側からの発想)』が多かったが、『マーケットイン(=消費者からの要求)』の発想が奏功した。」長年、研究開発畑を歩んできた生産部門トップ一條範好常務取締役も、マルコメの新しい風「女子のチカラ」には期待を寄せる。
「もっと多くの人に食べてもらい」と、プロジェクトリーダーの坂田。
「みそは大きな柱に違いないが、糀があたらしい柱になるような商品になればうれしい。」今春発売の「プラス糀」シリーズは、なんと年間10億円超の売上高を見込む。みそに次ぐ新しい柱として期待が高まる。
黄色いボディーに、マルに米のロゴマーク、大きなマルコメ君の顔が目印のキッチンカー。「マルコメ号」は、東京都内などで出勤前のサラリーマンやOLに、1杯100円で「モーニングみそ汁」を販売する。わかめ、ねぎ、油揚げなどのオーソドックスな具材のほか、トマトやチーズ、餃子といった変わり種が話題となり、WEBなど口コミで広がっている。
話題のキッチンカーにこの夏、新しい商品が登場する。その名も「糀ドリンク」。オレンジ、トマト、ブドウの3種類の果汁に「糀ジャム」を加えた飲料で、すっきりとした甘さと飲みやすさが特徴だ。
「糀の良さを皆さんに伝えたい」と、研究担当の大畑。リーダーの坂田は「これからも女性が食べたいと思える商品を開発していきたい」と意気込む。
150年以上続くみそづくりの技と、若い女性たちの力でヒット商品を生み出したマルコメ。しにせ信州みそメーカーの挑戦は続く。
マルコメ株式会社
長野県長野市安茂里883番地 TEL:026-226-0255
http://www.marukome.co.jp/