[サイプラススペシャル]179 「生ませるのではなく生んでいただきます」 安全なたまごは飼料作りから

長野県松本市

会田共同養鶏組合

卵は、朝食やお弁当の定番メニューに欠かせない食材である。松本市北東部にある北アルプスを一望できる自然環境に恵まれた会田地区から、安心安全な卵を半世紀に渡って供給し続けてきたのが、会田共同養鶏組合だ。「にわとりさんに、いい環境でたまごを生んでいただくために飼料も自分たちで作ってきました」組合長理事中島学氏(82才)は穏やかに語る。

農場と工場

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会田共同養鶏組合は、1963(昭和38)年に7戸の農家が集って立ち上げた。中島組合長は「弱小庭先養鶏農家の集まり」と振り返る。しかし、協同の力でスタートして50年、今や組合員数33名、飼育する鶏は22万羽、「あいだのたまご」の名称で1日に15~16万個の卵を消費者に届ける力強い組織に発展してきた。6万坪という広大な本社工場敷地内には27棟の鶏舎とともに、高さ10メートルはあろうか、飼料工場のサイロが12本並び立つ。
農場に広がる鶏舎と飼料工場、「おいしいたまごは健康な親鶏から」という会田共同養鶏組合の取り組みを象徴する施設だ。

平飼いでおいしいたまごを

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会田共同養鶏組合の特徴の一つは、鶏を土の上で放し飼いで育てる平飼いだ。長野県内で最も大きな規模で、6万3000羽が14棟の鶏舎で飼育されている。鶏舎はいずれも、自然光がたっぷりふりそそぎ、風通しもよく開放的だ。床には乾燥した籾殻がたっぷりと敷かれ、天井には夏の暑いときに使用するという大きな扇風機が設置されており、湿気を嫌う鶏の健康状態を良好に保つことを第一に、万全な温度管理がなされている。ここで飼育されているのは、全体に茶色で羽のところどころに白色が混じるゴトウもみじという国産鶏の品種で、飼育数も1坪の広さに15羽と決められている。鶏が籾殻の中にもぐりこんだり、止まり木にのったり、自由に動き回っている鶏舎内は、人が近くに寄っていっても穏やかで、騒々しい鶏小屋のイメージとは全く異なる。


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この平飼い鶏舎はヨーロッパを中心に広がるアニマルウェルフェア(Animal Welfare-動物福祉-)の思想の実践の場でもある。「動物にも生きる権利があります。いい自然環境の中でにわとりさんにくつろいでもらって、おいしいたまごを生んでもらうのです。」アニマルウェルフェアを中島組合長はこう説明する。

コストは高いが

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会田共同養鶏組合の平飼いは「日本リサイクル運動市民の会」と出会った1988(昭和63)年に始まっている。現在も主要な販売先である「らでぃっしゅぼーや㈱」と協同でアニマルウェルフェアの構築を目指してきた。一般に流通している鶏卵に比べ育てるコストは3倍、当然購入価格にも反映する。しかし、飼育法や餌へのこだわりを理解して購入する会員は、全国に106,000世帯。安心安全への関心は高く、会田共同養鶏組合への信頼は厚い。

餌へのこだわり

「自分で餌まで作らないと健康なにわとりさんは育ちません。」の中島組合長の言葉通り、飼料にもこだわる。会田共同養鶏組合は、1976(昭和51)年に自家配合飼料工場を当時2億円を投資して建設、1980(昭和55)年には第一種承認飼料工場の指定を受けた。現在、飼料の生産量は1ヶ月に750t、ケージ飼い用・平飼い用・育雛鶏用などそれぞれの最適の配合をコンピューター制御して生産、22万羽の飼料は全てこの工場でまかなう。
会田共同養鶏組合は、創業の精神の一つに「命の根源を司る食を安全に生産し世に送ること」を掲げているが、第一種飼料工場承認がきっかけで餌の安全性への関心が一層高まったという。だから、とうもろこし・小麦・大豆の油粕・菜種などの餌の原料は全て『遺伝子組み換えでない』。

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「遺伝子組み換えは無害かもしれないが、有害かも知れない。誰もわからない。だから、2000~3000年ずっと使われ続けて来た在来の原料にこだわっています。40年間この方針は変わっていません。」設立から半世紀、組合員の総意も変わっていない。

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品質の向上を目指して「米たまご」

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更に価格の安定と品質のよい卵を生産したいと2008年から始めたのは、輸入とうもろこしの代わりに一部地元で取れた飼料用米を餌に混ぜて使うことだ。飼料米の配合飼料を与えた鶏が生む卵にはオレイン酸やビタミンEの栄養素が増えるという分析結果も出た。新たに"あいだの米たまご"というブランドが立ちあがった。「らでぃっしゅぼーや㈱」と並んで適正価格で米たまごを提供している「生活クラブ生協」とは餌だけではなく飼い方までも協議している。


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輸入とうもろこしの価格の不安定さを考えると、飼料米の導入は、休耕田の有効活用になり、卵の品質向上にもつながると注目される。今年は地元だけではなく、会田共同養鶏組合で使用する飼料米は、長野県内外で58ヘクタールの田んぼに作付けされている。休耕田への飼料米の作付け面積が増えることは農村の荒廃防止につながり輸入とうもろこしが減れば食料自給率の向上になる。今年の2月には新たに2本の飼料米専用のサイロが建設され、循環型農業の実現に大きく踏み出した。

新鮮な卵を消費者に

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「採卵から24時間以内に消費者の手元に届けたい」。卵は鮮度が問われる生鮮食品だ。 会田共同養鶏組合では各鶏舎から集められた卵を敷地内にある2つのGPセンター(鶏卵の選別包装施設)に集め、洗卵・消毒・乾燥・パック詰めまで行っている。このラインでは1個55グラム前後の卵が1時間に3万個、1日では15万個も処理される。卵の殻の色は白・ピンク・茶色と様々、詰める個数も6個・8個・10個など、ケースも透明のプラスチックからモウルドとよばれる紙パック迄、包装表示も出荷先ごとに異なる注文にセンター内の自動化ラインは的確に対応していく。

目指すは「美味しいたまごかけご飯」

規定外の卵は外食産業や加工用にまわるが、産卵数は加減できるものではなく注文と生産の需給調整が一番難しい。現在、組合内でたまごの直売や加工施設はなく、「農業の6次産業化を考える会田共同養鶏組合としては今後検討が必要な分野」と中島組合長は将来を語る。
目指すは「本当に美味しいたまごかけご飯が食べられるほんもののたまご作り」。おいしいたまごかけご飯の向こうに笑顔が見えてくる。

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【取材日:2012年06月26日】

企業データ

農事組合法人 会田共同養鶏組合
長野県松本市会田1566 TEL:0263-64-3888
http://www.go.tvm.ne.jp/~aida/index.html