[サイプラススペシャル]183 植物の“元気の度合い”を測るカメラ 得意のプリズムを活かした独自開発

長野県北安曇郡松川村

ハイメック

従業員はわずか3人
「植物の元気が分かる」ってどういうこと!?

 三脚に取り付けられた、全長20㎝ほどの黒い筐体。一見すると、防犯カメラのように見えるが、実はコレ、植物の「元気の度合い」を測るカメラだと言う。

 開発したのは、北安曇郡松川村の光学部品加工のハイメック。
 植物の元気が分かる…というのにも驚くが、それを開発したハイメックの従業員は、わずか3人。得意とする技術は、光を分けるプリズムだ。
 プリズムのように小さいけれどキラリと光る、メイドインナガノのスゴイ技術と、会社をご紹介する。

目では見えない「元気」を測定

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光合成を測る「植生観測カメラ」

 「わかりやすく言えば『植物の元気』、正確には『光合成の度合い』を測定するカメラです。」正式名称は「植生観測カメラ」。開発したのはハイメック代表の奥原國乘社長61歳だ。


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 「植物の元気」と聞けば面食らうが、光合成の仕組みが分かれば、それほど難しくない。
 ご存じの通り、植物が光を受け自分で必要な栄養(糖)をつくる活動が光合成だ。光合成にはとくに赤い可視光が使われ、逆に緑色の光はあまり使われない。「植物が緑に見えるのは、光合成に使わない光を反射しているから。この原理を応用すれば、光だけで光合成の度合い、目では見えない元気の度合いが測定可能です。」


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「3つの光」を画像化

 実際に、観測の様子を見せてもらった。
 カメラの前には、鉢植えのバラ。パソコン画面には赤外線センサーのような画像が映し出された。「赤く見える部分が、光合成が活発な部分です。」奥原社長の息子で、技術営業統括の俊輔さんが説明する。
 「ハイメックで開発した植生観測カメラは、赤・緑・赤外線の3つの光を測定し、パソコンで解析します。」光合成で使う赤い可視光と、赤外線を比較することで、光合成の活発さの度合いが分かる。さらに、緑色の光を測定することで精度を高めている。

 同様のカメラは人工衛星に搭載され砂漠化観測などにも利用されているが、ハイメックの製品は、植物のすぐ近くに置いて使用するのが特徴。たとえば、水田のわきに設置することで、目では見えない稲の活動の様子など、その場で測定できる。
 しかし、このカメラはどんな活用方法があるのか?


「おいしい時期」を見極める

 「これを使えば、一番おいしい時期に農産物を収穫ができます」と、奥原社長。
 植物はただやみくもに光合成をおこなっているわけでなく、成長の過程によって調整している。たとえば水稲の場合、目で確認する稲穂の色や垂れ具合だけでなく光合成の様子を把握することで、もっとも稲刈りに適した時期を判定できる。

 大手飲料メーカーも契約農場で試験的に採用。茶葉の収穫時期の研究に活用されている。
 「農業のIT化は、これからの日本の農業を変えていく。若い世代の就農が容易になり、世代交代もスムーズにいくようになると思います」自身もリンゴ栽培などを行う奥原社長。会社のキャッチコピー「安曇野から未来を発信」の通り、日本の農業の救世主になるかもしれない。

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従業員3人の開発企業

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「プリズムの技術」が核

 安曇野の北部、北安曇郡松川村。田園と北アルプスという、安曇野らしい風景の中に有限会社ハイメックの本社工場がある。
 現在の従業員は、奥原社長のほか息子の俊輔さんと事務を担当する女性の計3人。得意とするのはレンズの接合と、プリズムの技術だ。

 「このカメラも、プリズムの技術が核」と、奥原社長。
 ガラスや水晶などでつくられる多面体のプリズムは、いわば光を分ける装置だ。プリズムを通った光は、虹のように波長によって分けられる。ハイメックのカメラには、自社のプリズムが使われている。


プリズムの「駆け込み寺」

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 透明なサイコロのような立方体のプリズム。よく見ると、継ぎ目が見える。奥原社長は「接合技術が、ハイメックのウリのひとつ」という。
 実際に、LEDライトの白い光をプリズムに通してみると...どうだろう、青・緑・赤と光がきれいに分かれた。

 プリズムは1種類だけではない。大きさやカタチも様々。LEDライトを当ててみると、その種類によって色の出方が違っている。
 「光路設計、光学設計も得意分野のひとつ。用途に合わせ、どういうプリズムをつくればより精度よく分けることができるか...というのが、他ではできない技術。」奥原社長のもとには、大手光学メーカーはもちろん、世界的なAV機器メーカー、大学や放送関係の研究所からも問い合わせが多い。プリズムの「駆け込み寺」のような存在だ。


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「植物だけじゃない!」広がる可能性

 植生観測カメラの開発も、プリズム技術がきっかけだった。
レンズから取り込まれた光は、自社のプリズムを通過し、赤・緑・赤外線に分けられる。分けられた光はそれぞれ3つの光学センサーに取り込まれ、パソコンで解析される...という仕組みだ。他社のプリズムより光の透過性が高く、必要な光を効率的に測定できるという。

 「植物の成長だけでなく、部品検査にも応用できるはず」と、奥原社長。目では見えない電子機器の基板組み立てのチェックに採用された。今後は、果物の糖度測定や、人間の皮膚の下を診察するなど、幅広い応用が期待される。

安曇野から未来を発信

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「世の中にないもの」をつくろう

 「今まで世の中にないものをつくろう。」その気持ちが奥原社長の原動力だ。
 数年前には3Dプロジェクターを共同開発。ふつうは、右目用・左目用と2台のプロジェクターが必要となる立体投射装置を、独自開発のプリズムを入れることで1台にまとめた。

 液晶モニタに主役の座を奪われ、日の目を見るとこはなかったが、放送関係の研究所とともに特許を出願。開発と前後して、大学や企業の研究室から様々な依頼が来るようになった。


商社マンから「レンズのプロ」に

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 今でこそ3人...だが、かつては従業員100人以上、第2工場を構えるほどの規模だった。「一番大きかったのは、長野オリンピック(1998)のころ。カメラの完成品の組み立てをしていた。」

 「もともと商社マンだった」という奥原社長。30代半ばで故郷松川村にもどり、親の会社を継いだ。地元工場の下請けとしてレンズ接合からスタート。以来、レンズ部品の組み立て、カメラの組み立てと、業務を拡大する。
 転機は親会社の中国転換。カメラの組み立てがすべて中国に移転した。時代はITバブル、ちょうど21世紀になろうとしていた。


親子二人三脚で「未来を発信」

 「自分の得意なものに特化しよう。」 カメラ以外の組み立て工場として生きる選択肢もあっただろう。しかし奥原社長はきっぱりとカメラをやめ、事業規模を縮小。原点であるレンズの接合に特化する道を選んだ。「言われたことを、言われた通りにやるのが嫌いだったんです」と、笑う。

 「最近は目が弱くなって...」と、奥原社長。数年前、光学メーカーで働いていた息子の俊輔さんも地元に戻ってきた。今は親子二人三脚で開発や設計を行う。
 プリズムの技術を磨いて、植生観測カメラや3Dプロジェクターなど、今まで世の中になかったものを開発するハイメック。これからも「安曇野から未来を発信」していくだろう。

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【取材日:2012年07月24日】

企業データ

有限会社ハイメック
長野県北安曇郡松川村5721-276 TEL:0261-62-8814
http://www.hi-mec.ecnet.jp/