長野県松本市
東洋計器
つくるのは、水道とガスの計器(メーター)。
計ってわかった、太陽光にはガスがイイ。
計器とはメーター。東洋計器は社名の通り、水道・ガスメーター製造企業で、東洋トップクラスの規模を誇る。
ものづくり企業・東洋計器の新たな挑戦が「ソーラー事業」だ。2009年に太陽光発電装置の販売を開始、自然エネルギー普及政策の追い風を受け、2012年3月期の太陽光関連の売上は約17億。さらに成長を続ける。
不況に強いメーターという大きな産業がありながら、なぜ新たな分野に挑戦したのか?メーターと太陽光をつなぐカギは「計る」ことだった。
信州まつもと空港に近い、松本臨空工業団地にある東洋計器本社工場。約4万平方メートルの敷地では、毎月15万個もの水道・ガスメーターが作られ、全国各地の家庭や工場で使われている。
「正確に計量する。それがわたしたち水道・ガスメーターの鉄則。」土田泰秀社長をはじめ、東洋計器社員一同がこだわるのは「計ること」だ。「公平計量が、公平な社会をつくっていきます。」私たちがまず案内されたのは、水道メーターの製造ラインだった。
丸にアルプスの頭文字Aをかたどった東洋計器のロゴ。無数に並んだ水道メーターには、すべてこのマークが刻まれている。
「ここでは、最新の電子式水道メーターを作っています。」
内部に組み込まれた羽根が回転し使用量を計る水道メーター。8ケタほどの文字盤がくるくる回るアナログ式が一般的だが、東洋計器が作る最新式は液晶のデジタル表示だ。
「電子式は羽根の回転を超音波で検知するので、より正確に水量を計ることができる。」1907年、松本出身の桑沢松吉氏が開発した国産初の水道メーターが東洋計器の原点だ。以来1世紀以上にわたり、水道メーターも進化を続けている。
「デジタルだから、離れた場所にデータを送れる。」
マンションなど集合住宅の場合、一戸ずつ検針するのは大変な作業だが、電子式なら水道使用量を離れた場所で一括管理することが可能だ。
「非接触だから圧力損失もないし、小型化できる」と、土田社長。メーターの小型化は、大きな可能性を秘めている。「たとえば、お風呂場、キッチン、トイレなど、家庭で水を使う場所ごとにメーターを設置することができれば、どこでどのくらい使ったかがわかる。『見える化』によって節水が可能。さらに熱量計を加えることでエネルギー量を計ることができます。」すでに東洋計器は、次の時代のメーター開発を進めている。
「正確さはもちろん、より安全に、というのがガスメーターに課せられた2本柱です。」次に案内されたのはガスメーターの製造現場だ。
高さ30cmほどのクリーム色の金属製。上部の窓には黒い文字盤、内部にはコンピューターが内蔵されているマイコンガスメーターが並ぶ。自動化された最終チェック工程では、組みあがったガスメーター一台一台に振動を加え、ガス遮断弁が閉まることを確認していた。
ガスメーターも進化を続ける。「おそらく日本は、世界で一番ガスを安全に使える国。そういう意味でマイコンメーターは、画期的な商品だった。」
1984年、東洋計器は業界に先駆けて安全検知を組み込んだマイコンメーターの開発に成功、販売開始、1987年には電話回線を接続して自動検針・自動監視をするテレメーターを開発した。
「マイコンメーターでより安全に・テレメーターでより合理的に」新しい技術は、新しい社会的価値を創造した。
「ここには全国14万件のデータが集まってきます。」本社工場3階はパソコンが並ぶサーバー室。水道とガスメーターから自動で検針された全国のデータが、松本と北海道のデータサーバーに集められる。
「コンビニのPOSデータが新商品開発に活かされるのと同様、ここから次の新しいサービスが生まれる」と、土田社長。例えば、見守り機能。一人暮らしの高齢者や災害時など、ガスと水道の使用状況が分かれば安否確認に繋がる。
実は「14万件のデータ」が、新規ビジネス「太陽光発電」のきっかけとなった。
「計ってみたら、分かったんです。」
机の上に広げられた膨大な資料の束を前に、土田社長は説明を続ける。「これまで太陽光発電イコール、オール電化のイメージが強かった。しかし実際の計測データを集計すると、ガスと併用する方が環境にもいいし、何より経済的。ガスと太陽光の組み合わせが圧倒的に有利です。」
東洋計器にとってのお客様は、一般家庭ではない。(私たち消費者は「このメーカーのガスメーターにしてください」と指定できない。)顧客は、全国のガス事業者。こうした事業者と協力することで、全国規模で太陽光発電の事業が可能になった。
東洋計器の太陽光ビジネス本格スタートは2009年。「昨年は売上17億円、今年は33億、来年は70億が目標。」年間売上140億円規模の東洋計器にとって、水道、ガスに次ぐ大きな柱として期待が高まる。
今年7月からは産業用太陽光発電の全量買取制度もスタート。一般家庭に加え、工場など事業者からの問合せも相次いでいるという。
「北海道から四国・九州まで、ガス会社と協力して産業用を進めていく。時代の変化に合わせ、エネルギーも大きく変えていかなくてはいけない。」電力と違い、ガス関連のエネルギー事業者の多くは規模も小さく、地域密着型だ。ボンベの配送や検針など、家庭や企業に深く食い込んでいる地域のガス事業者。東洋機器の手掛ける太陽光発電設置事業は、全国のエネルギー事業者にとっても新たなビジネスチャンスだ。
ガスは10年、水道は8年と定期的に更新が必要なメーター業界は、不況に強い。安定した収入源がありながら、そこに安住しないのが東洋計器の成長の原動力だ。メーターの新機能を開発し続け、新しいサービスを展開し、さらに太陽光発電という新規事業に乗り出した。
「新しい取り組みは、社員の意気込みやエネルギーを生む。」挑戦が企業の活気に繋がると土田社長。工場の屋根一面に敷き詰められた太陽光発電パネルをバックに、笑顔でこう話す。「若い人が仕事に夢をもってくれる。これからは、熱量を計るメーターを軸に新しいサービスを展開したい。」
水道、ガス、それに太陽光。もっと大きくエネルギー全体へ。「計る」にとことんこだわる東洋計器は、さらに飛躍を続ける。
東洋計器株式会社
長野県松本市和田3967-10 TEL:0263-48-1121
http://www.toyo-keiki.co.jp/