長野県伊那市
ハイデックス
「高度な巧さ・器用さ」を意味するHigh Dexterityから社名をとったというハイデックスは、伊那市西春近に本社工場を置く。超微細加工技術で航空宇宙関連の部品加工も行う金属加工の技術者集団だが、創業は1983年、「何か自分で事業を始めたい」と赤羽秀樹社長(64才)が脱サラで起した会社だ。「試行錯誤の連続でした」と穏やかに語る言葉の向こうには30年に渡るものづくりの挑戦の歴史がある。
ハイデックスの事業の柱は、空圧油圧用バルブ製作や半導体関連の治具製作を行う「工機事業」部門と、セラミックICパッケージの各種検査を行う「電子事業」部門だ。しかし、創業した時は金属加工の経験は全く無いゼロからのスタート、赤羽社長は、「不安よりも挑戦の気持ちが優っていました」と今は亡き弟の省吾氏と力を合わせて有限会社赤羽精機の立ち上げた当時をふりかえる。近くにあるバルブや半導体のメーカーから部品加工や治具製作の仕事を引き受けた。これが現在の工機事業、ハイデックスのコアな金属加工技術に継承されている。
しかし、治具の製造は、売上の変動が大きく、経営の安定は難しい。しっかりした製造業としてのベースを作りその上でものづくりの挑戦を続けたい、そんな思いで立ち上げたのが電子事業部だ。1991年(平成3年)のことである。今は社内にクラス2000というクリーンルームを持っているが、これも経験があって始めた事業ではない。最初は社員3名を取引先に研修に出し、半導体のパッケージの最終工程である検査技術を習得させたという。デジタルカメラやパソコンモジュールに使用されるICパッケージの検査は、目視検査や、顕微鏡検査も行う。熟練の上に正確さとスピードが求められる技術だ。今では取引先から、自社よりも優れた技術を持つ人材がいる部門と高い信頼を受けるまでに成長している。
今、ハイデックスの工機事業部が注目されるのは、半導体製造治具などに培った超細穴加工技術、極細溝加工だ。しかも扱う素材は、インコネル・チタン・ステンレス・モリブデンなど、耐熱性が高い・腐食しにくい・粘り気が強いなど機械的に優れた特性を持ち航空機エンジンにも使われているが、加工の難度が高い難削材といわれるもの。赤羽社長は「誰もが難しくてやらない素材です」と説明する。
ハイデックスでは、この難削材の加工に挑戦、素材の固定方法やそれぞれの素材に適した切削用の刃の形状や回転速度、潤滑油などの条件を研究し、加工技術を確立した。「今ではアルミなどほかの素材と同じように加工作業ができます。他社が嫌がる加工を苦もなくできるのがウチの強みでしょうか」淡々と赤羽社長は語る。
ハイデックスが、難削材の加工に取り組んだきっかけは、2000年に「ニューフロンティアin伊那」に入会したことだ。この会は伊那市と伊那市内の中小企業などが連携して製造業の育成と工業振興を図ることを目的に作られた企業グループで、ハイデックスは今も幹事社を務める。会として一緒に東京や愛知で開催される展示会・技術展に出品したり、横のつながりを生かして新素材の研究会に参加し、素材加工技術を磨いてきた。
「全国から刺激を受けましたが、一気に100分の3ミリの穴というような精度の高いものは難しく、最初は0.7ミリの穴、それができると0.6ミリに、0.4ミリに、0.3ミリにと細く小さい微細加工にチャレンジしてきました」社長の人柄が表れる実感がこもった言葉だ。
赤羽社長は「これからのグローバルな社会で、一代で終わる職人ではだめ、継続していく 技術を教えていくことが大事」と語る。最新の設備を社員に提供し更に加工の能力を高める、その中で獲得したノウハウを次の世代に継承していく姿勢を明確に示す。「機械への投資は苦しかったが、投資した機械があったからこそ技術を磨くことができた」という自分自身の経験が積極的な設備投資を支えている。
現在社員は26名、そのうち「これからさらに幅を広げていきたい」と力を入れる工機部門で働くのは平均年齢27歳という若い力だ。技術とあわせて大事なのは「心を込めて作ること。お客様の事を考えて物を作り、会社の繁栄と存続も作って行くこと」だという。
経営の目線は常に「次のこと」を考えている。
「今、我社がいちばん誇れるのは5S運動です」と社内を案内してくれたのは赤羽辰夫取締役だ。 整理・整頓・清掃・清潔・躾(習慣)を表す5S運動は、取り組む企業も少なくない。しかし、ここはまだ途中ですと言いながら説明を受けたハイデックスの5S運動はまさに「全社を挙げて」の取り組みだ。それぞれの大きさや目的別に並ぶ工具や刃物は、使う場面と目線が意識されている。見ただけでは間違えてしまいそうな微妙なサイズの違いは貼られたラベルで確認する。引出やケースの表示はもちろん、棚の中まで細かく整頓されている。
最初は外部の指導を受けながら、勤務時間を割いて進めた5S運動だが、不良品率が10分の1になる等、成果が見えてくると、仕事が終わってからの取り組みに変わったそうだ。あわせて行っているQC運動の取り組みも作業を段取りから見直すなど、コスト削減・高品質・短納期というものづくりの大きな力になってきているという。継続的な人材教育の賜物だ。
「企業として仕事をいただけることはありがたいこと、もっと高度な技術をもって国内外のメーカーに提案できる製品を造りたい」ハイデックスの挑戦は続く。
株式会社ハイデックス
長野県伊那市西春近2971 TEL:0265-76-5555
http://www.hidex55.co.jp/