[サイプラススペシャル]197 未来に向かって動き続けるものづくり 今、現在が転換点

長野県上田市

シナノケンシ

上田市に本社を置くシナノケンシは、日本国内に800人余、海外の生産・営業拠点を合わせると、その従業員数が5000人を超える長野県を代表する企業だ。1918年の創業以来の歴史はまもなく一世紀、しかし今、更に「目指すは会社という組織の永続性」と4代目社長金子元昭氏(60才)は力強く語る。シナノケンシの、未来に向かって動き続けるものづくりを取材した。

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絹紡糸からモータへ

シナノケンシのものづくりは、信濃絹糸紡績から始まる。生糸にならない繭や生糸の製造工程で出る屑繭(くずまゆ)を原料に絹紡糸を作る紡績会社、これがシナノケンシのスタートである。本社敷地内では、工場として使われていた、のこぎり屋根の建物を活かした絹糸紡績資料館が、2010年にシルク事業から完全に撤退した後も、日本経済を支えた絹糸紡績産業の歴史を今に伝えている。


モータ生産開始から50周年

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モータ生産を始めたのは1962年だ。3代目社長となった金子八郎氏の指導で事業の多角化への第一歩を踏み出す。最初に作った製品は、テープレコーダー用のACモータ、その後、冷暖房機用のファンモータや音響機器など静音性に優れた精密モータの開発・製造を中心にモータ事業を展開、発展を続けてきた。
モータの生産開始から50年の今年、シナノケンシの本社内には「モータ事業50周年」のポスターが掲示され、工場内に展示された第1号から現在生産されているモータまで数十点の製品が、その50年の技術の歩みを具体的に物語っている。

金子社長は「モータの生産の歴史50年を振り返ると先輩方のご苦労に感謝の気持ちでいっぱいです」と表情を温める。しかし、「モータが使われる分野や産業構造そのものが変わってきている時代にあって、常に進化し続けなければ」と続ける。

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コア技術は信頼性の高いモータ

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シナノケンシ本社では、高い安全性が要求される自動車部品として、バッテリー冷却ファンモータ・振動防止用のアクチュエータ・空調ファン用モータを開発するほか、FA・OA機器用や医療機器用など分野は多岐にわたる。主要な生産拠点は中国だ。また、モータ単体の製品製造だけではなく、求められる機能や性能に合わせて最適なモータソリューション=さまざまな用途で使われるモータを組み込んだシステム部品を提供している。さらに、近年は標準モータとドライバを独自の販売ブランド「プレクスモーション」として提供も始めた。これは従来の必要とされるモータを開発製造販売していく生産販売方法とは別に、「欲しい機能を、欲しい数だけ、欲しい時に」をキャッチに、独自開発したモータ、ドライバを1個から即日対応する販売方法だ。
「モータを使うメーカーにくっついていれば、モータメーカーとしてやっていける時代ではない」製品製造にも販売方法にも、具体的な進化が現れている。

社会の変化を捉えたものづくり

「障害者ワークフェア2012」で

10月20日、長野市のビッグハットで開催された「障害者ワークフェア2012」。ここでは、シナノケンシブランドのプレクストークリンクポケットのデモンストレーションが行われていた。

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快適な生活をサポートする機器

プレクストークとは福祉・生活支援機器に分類されるシナノケンシが製造した視覚障害者用ポータブルレコーダーのオリジナルブランドである。
大きさは縦20㎝横17㎝、A5サイズのノートより一回り大きく、角を落とした箱型、テンキーや音量キーなどの操作ボタンは指先をしっかり捉え安定感がある。CDやCFカードに音楽や音声を録音したり再生したりする機能を持ち、視覚障害者の情報・意思疎通支援用具としてわずかな個人負担額で行政から給付を受けることができる日常生活用具候補品だ。上田市ではこのプレクストークを使って、市民活動団体である「音の散歩道」の協力で上田市報を音訳したCDを作成し、配付するサービスを実施している。もちろん、生活用具として、お年寄りから子供までだれでも使うことができるユニバーサルな機器でもある。
「障害者ワークフェア2012」で紹介されていたプレクストークリンクポケットは、このプレストークを持ち運びができるように小さく軽くし、機能を充実させた製品だ。お客様の質問に熱心に応える社員の方々の姿が印象に残った。


ビジネスとしての社会貢献

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モータメーカーであるシナノケンシが、福祉・生活支援機器の開発を始めたのは1994年、金子社長は「もちろん、売上比率でいえばモータがメインです」と強調しながら言葉を継いだ。「自社の製品を通してどんな豊かさ・幸せを実現していけるのか考えています。視覚障害の方が非常に困っておられるということを聞き、我々の技術を使って、何か提案できないかということで福祉機器の開発を始めたのです」。
福祉・生活支援機器の製造販売は、企業の社会貢献としてわかりやすい姿ではあるが、同時に始めたら途中でやめられない、継続していく社会的責任の重い事業でもある。製品は日本だけの市場ではペイできない、ビジネスとして成立しなければ継続もできないと考えた金子社長は「最初から世界(欧米やオーストラリア)に売っていくことを念頭に機能や規格を検討した」という。
デジタル録音図書の世界標準規格(DAISY)を備えたプレクストークでのものづくりは、現在、米国議会図書館向けの専用読書機としても50万台をこえる台数が納められている。今後のプレクストークは中国やインドなどにも販路を広げたいと期待はふくらむ。

ものづくりの総合技術を活かして

動きが見える!!

プレクストークと並んで力を入れているシナノケンシブランドの製品がある。プレクスロガーと名付けた「データ解析装置」だ。外付けの高速度カメラと遠赤外線カメラ(サーモグラフィー)を使用し、見ることができなかった瞬間の動きや温度変化の現象を、映像と音・振動・電流・電圧などのデータ波形で可視化し、記録する測定装置である。1970年代から培ってきた電子機器の技術を応用した製品で、社内の開発現場のニーズから生まれた。重さも1.8㎏と軽く、トラブルの発生現場にも手軽に持っていくことができ、機械の性能評価や故障の原因調査など、自動車業界や各種製造業・大学や研究機関などでの活用が報告されているという。

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未来を動かす製品を

「シナノケンシの資産は人。従業員の自己実現の喜びの上に社会貢献がある。苦労してもきちんと成果が出るようなそのための土俵を造るのが社長の役目と考えています」。「モータとはモーションコントロールをするシステム部品。シナノケンシは顧客が持っている価値を、モータを通して実現していきます」。金子社長の説得力のある言葉だ。 広がる海外の拠点を同じ価値観でつなぐことが本当のグローバル化との話もあった。

世界を市場に快適な生活を営むために使われる機器を、ものづくりの総合技術を活かして提供することが企業の存続につながっていく、未来への高い志を秘めたシナノケンシのものづくりが続いている。

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【取材日:2012年10月25日】

企業データ

シナノケンシ株式会社
長野県上田市上丸子1078 TEL:0268-41-1800
http://www.shinanokenshi.com/japanese/