[サイプラススペシャル]205 おいしいジャムは何も足さない すべて国産・すべて無添加

長野県北佐久郡軽井沢町

沢屋

「みんなが沢屋のジャムを投げ合えば戦争はなくなるのに」。ジャム製造・販売の沢屋、その味をこんな言葉で表現したお客様がいたそうだ。旬の原料にこだわった沢屋のジャムは、軽井沢に生まれ、軽井沢ブランドとともに育って60年の時を重ねている。今ではジャムだけではなく“沢屋ならでは”の商品も店頭に並ぶ。どれも作る人と食する人を笑顔で結ぶ味だ。

店頭に並ぶのは50種類のジャム

定番商品が売れる

ストロベリー、ブルーベリー、オレンジママレード、これは沢屋のジャムの売れ筋トップスリーである。「一般にジャムといえばイチゴジャムが定番中の定番、その定番商品が一番売れているということは沢屋のジャムが支持されている証拠と思っています」。こう語るのは社長の古越道夫氏。名刺には商標登録済の「自然食のジャムにはシュンがあります」の文字がある。

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旬にしか作れない

2011年に作られた新工場、黒々とした浅間山の火山灰土の畑と雑木林が広がる軽井沢町の一角にある。建物は平屋で、ブルーベリーを想起するうす紫色のラインが横に走り、同色の「SAWAYA」の文字が訪れる人を静かに迎え入れている。


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ジャムを作る工程を外からでも見える設計という工場の一室ではキーウィジャムをつくるための下処理作業が行われていた。原料のキーウィは、軽井沢近在の農家が初冬を待って収穫しリンゴと同じ場所に保管し自然に追熟させたもの、冬の今が旬の果物だ。多少の大小はあってもキズ一つない。ザルに山と盛られ、次々と皮がむかれていく。道具はナイフだけ、茶色の皮の下から出てくるのはそのまま口に入れたいほどみずみずしいグリーンの果肉だ。こわれものを扱うような丁寧な手作業が続いている。 「国産の生の果実を大事にし、旬にしか作れない、これが沢屋のジャムです」。古越社長は強調する。

食品加工屋ではない

冷凍庫はないのが当たり前

沢屋のルーツは1952年創業の青果商である。軽井沢に避暑に来た宣教師や作家、政財界の要人などの別荘に新鮮な野菜や果物を納めていた。2代目の古越社長自身も東京で青果を扱う仕事をし、目利きの経験を積んだ。ジャムを作り始めたのは、外国の大使館の夫人のリクエストがきっかけで、最初は野菜の隣で販売しており、口コミで買ってくれる人が増えて行ったという商品だ。「このジャムは生鮮食品を扱う八百屋が作る生鮮食品、沢屋は食品加工屋ではありません。」古越社長の説明は明快だ。「八百屋が売る新鮮な野菜と同じように新鮮さにこだわったジャム、だから我が社には原料を保管する冷凍庫はありません」。

おいしいジャム―沢屋のルール

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加えるのはグラニュー糖と

沢屋が、旬にこだわり最高の果物をおいしいジャムにするために使うのは純度の高いグラニュー糖と、スタッフの技術のみ。酸味料などの人工的な添加物は一切使わない。果物とグラニュー糖を煮詰めてジャムにする作り方は、量は異なるが、家庭と一緒で非常にシンプルだ。だからこそ、原料の下処理には手間を惜しまず、グラニュー糖を加えるタイミングや、固さの見極めなどに、60年の沢屋の技術が光る。


「打検」という技術

「原料は触ったら劣化がはじまります」。新鮮な原料でジャムを作るのは時間との戦いでもある。ジャム製造工程を案内しながら、古越社長はステンレス製の釜で煮詰めている原料に視線を向ける。その先には、瓶に詰め、キャップをかぶせ、熱湯で殺菌する工程が続く。しかし、時間との戦いといいながらも殺菌して出荷までにもう一つ大事な工程ある。それは瓶詰めされた製品の密閉度をあげるために常温で1昼夜冷まし、1瓶1瓶、蓋の上から軽くたたき音で密閉度を確認する「打検」という作業だ。お客様が瓶を開封するその時まで、味と香りに責任を持つ、これも沢屋のルールの一つだ。打検作業が終わって初めて沢屋の商品となる。
作る人と食する人が、旬との出会うための技術である。

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旬から旬へ

量産はできなくても

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おいしいジャムを作るためは、原料の確保も大事だ。「果物を買いたたくと農家と長い付き合いはできません。農産物は歩留まりも悪く利益率は低いため、とても問屋を通せません。自社の直営店での販売がほとんどです。」しかし、「八百屋の感覚として最高の原料を使っておいしいジャムを作りたい。果物の収穫量でジャムが品切れになることもあります。手作りで量産できなくてもこの沢屋のルール大事にしたい。」古越社長のおいしさへのこだわりが伝わってくる。

年間を通じたジャム作り

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沢屋の店頭に並ぶ約50種類のジャム、これらは全て旬に製造されたものだ。古越社長は「人の縁」で増えてきたものという。国産で旬の原料にこだわっている沢屋の姿勢を知った農家からこれをジャムにできませんかと果物が持ち込まれ、商品化した結果だそうだ。日本国中の果物が1年間を通して集まってくる。商品カタログを見ても、定番の味から、初夏のパイナップルや冬のゆずやレモンなどの柑橘類のジャムまで、また、桜やバラなどの花を使ったジャムもある。見方を変えればジャムを通じて日本の豊かな四季を味わうラインナップである。
そして、旬から旬へ、年間を通したジャム作りは年間を通した雇用を生み出している。社員のモチベーションは、さらに"おいしく"につながる原動力だ。

何も足さない技術

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知らず知らずに蓄積された技術

2012年秋、主力製品のジャムに新しい商品が加わった。飲む酢「フラワービネガー」と直営レストラン「こどう」で提供しているドレッシングだ。
「フラワービネガー」は、桜・バラ・アカシアの花が原料の「3姉妹」。花のジャムを作っていた工程の中ででる抽出液を他に何か使えないかと考え、開発された製品だ。花の色そのまま優しい自然な色、30~40代の女性に自分へのご褒美に口にしてもらうことをイメージした飲む酢だという。美容や疲労回復といった癒しの効果も県の工業技術科学センターに依頼し、科学的な成分数値でアピール、健康志向の消費者ニーズにマッチした新製品の告知にも積極的だ。
作り方は、花の抽出液に酢を加えただけで、何も足していない。ジャムの製造工程と同じだ。古越社長は「生に携わって知らず知らずに蓄積され身についてきた技術を生かした製品」と、素材にこだわりながら社員とともに工夫を重ねた2年余りの開発を振り返る。新たに果物を使ったビネガーの製造・販売も予定されている。
一方の「ドレッシング」も沢屋オリジナルのノンオイル。レストランで食したおいしさを家庭の食卓でも味わってもらおうというこれも沢屋ならではの商品だ。

愚直に守ってきた

2012年の春には香港や台湾でもジャムの販売を始めた。西洋に由来するジャムではあるが、軽井沢の沢屋のジャムを海外でも売りたいとバイヤーから声がかかった。商品のコンセプトからも売れたからどんどん追加して販売するといったことはできないが、海外からのニーズは日本の技術への評価でもある。

「『旬の原料』『国産・無添加』『手作り』と愚直にこだわってきました」。と古越社長。高級リゾート地『軽井沢ブランド』は沢屋にとっても財産であるという。「これからも商品を通じてお客様からいただく笑顔を社員と共有していきたい」。
沢屋のジャムの向こうにはこれからも笑顔が広がっていくに違いない。

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【取材日:2012年12月03日】

企業データ

株式会社 沢屋
長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉字塩沢702 TEL:0267-46-2400
http://www.sawaya-jam.com/