[サイプラススペシャル]209 女性の感性でつくった除菌・消臭剤 ものよりも会社を作れ

長野県安曇野市

サンキ

「100人の女性に持ってもらいました」。テーブルの上には真っ白な四角錐の3本のボトルが並ぶ。正面中心にはピンク・オレンジ・グリーンで「+」と「ビオミュート」の文字、シンプルさが逆に心にとまる。「ビオミュート」とは、安曇野市にある金属プレス加工のサンキが開発した除菌・消臭剤、ボトルの形は女性が使うことを意識して、握りやすく使いやすい形にするため、家族や友人など100人の女性に実際に手にとってもらって決めたデザインという。開発の中心はサンキの女性社員たち、金属プレス加工メーカーで働く女性たちの挑戦だ。

働く場がなくなる

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1972年創業の株式会社サンキはテレビやオーディオ機器用部品のプレス加工メーカーだ。現在は、金型の設計製作、マグネシウム・チタン・ジュラルミン、さらにハイブリッド素材といった難加工素材のプレス加工に独自技術を展開、顧客ニーズに応える生産システムを提供している。


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サンキが、除菌・消臭剤ビオミュートの開発のために環境開発室を社内に設置したのは2008年、松島稔社長(51歳)は「社内の事務システムをオンライン化したら、受発注伝票の処理や請求書の発行など、総務の女性たちがやっていた従来の業務がなくなってしまった。そこで考えたのがこれまでに関わってきた事業とは全く異なる切り口の事業を始めたい、つまり社内企業です」と説明する。当時はインフルエンザの流行時期で、たまたまアメリカのエージェントを通じて現在のビオミュートの基本形を紹介され使用していた。これを一般向けに商品化することで新たな事業の柱にならないかとプロジェクトを立ち上げた。プロジェクトの中心はもちろん事務作業をしていた女性たちだ。

売れないと困る

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松島社長から「除菌・消臭剤の商品化プロジェクト」を任されたメンバーの一人横尾さんは、今も総務経理と環境開発室長の2つの業務を担当している。ビオミュートを手に「最初は自分たちには(商品化は)できないだろうと思いました。でもいちから薬剤の勉強を始めてみるとだんだん作るのが楽しくなってきました」と話した。

松島社長が環境開発室に与えた条件は3つ「安心して使えないと困る、効果が明確でないと困る、"つもり"ではなくビジネスとして成立する商品・売れる商品を作る」。そして、もう一つは「1~10まで自分たちでやりなさい」。
作ることから売ることまでのすべてを女性たちのプロジェクトチームに任せたのだ。

"これ1本あれば"女性の感性を生かした製品

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インフルエンザや風邪の予防、ノロウィルス対策にとここ数年は、人が集まる場所や建物だけではなく、家庭でも季節を関係なく使われているのが、除菌・消臭剤だ。生活雑貨のアイテムとしてテレビや雑誌の広告も頻繁に目に入る。しかし、台所用・トイレ用と用途別の製品や、何回も使い続けると手がカサカサしたり、消毒臭や人工的に"香り"に違和感を感じる商品もあり、何をどう使ったらよいのか迷うケースも少なくない。
清潔に衛生的にという情報が氾濫する昨今、女性たちが目指したのは、家庭でも職場でもこれ1本あれば大丈夫という除菌・消臭剤だ。目指すは気になる匂いがなく、安心して手軽にどこでもだれでも使い続けられる商品、何より自分が毎日使いたい商品である。そんな思いで開発を続けた。

主成分は菌やウィルスを元から破壊

ビオミュートの主成分は、酸化殺菌効果のある二酸化塩素や次亜塩素酸ナトリウムだ。微生物の活性化を抑えることにより除菌消臭の効果を高める物質だ。低濃度でも、菌やウィルスのたんぱく質を分解して破壊して素早く除菌消臭する性質を持っている。カビを抑制する作用もあるそうだ。
この主成分をベースに、1年をかけて改良を重ね、製品化したオリジナル商品ビオミュート、現在では、プッシュ型のボトルの他、下駄箱や押し入れで使う収納空間用、おもに食器棚などキッチンで使うタイプ、車用等、少しずつバリエーションが広がっている。どれもあったらいいなという生活者目線からうまれたもの。優れた除菌・消臭効果の活用範囲はまだまだ広がっていくはずだ。

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生産工場は金属加工工場の2階

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プロジェクトのメンバーは横尾室長を含め女性3名、本業の金属プレス加工部門では総務・経理・資材調達を担当している。ビオミュートの注文を受けると、事務所の隣の一室でビオミュートの製造作業にはいる。
事務用の制服の上に白衣を着て帽子をかぶり、ドアを開けるとそこが工場。長テーブル2本ほどの広さのテーブルの上で、原料を広げ、パックに詰め、計量する。シールを張って包装し、完成だ。自分たちが考え、自分たちが作った商品、明るい表情から製品への自信も伝わってくる。

納得して買ってもらう

しかし、製品を作ることはビジネスの第一歩でしかない。事業として成立させなければならない。ビオミュートを手にしながら、横尾室長は「これは派手に宣伝するよりはお客様にきちんと説明して良さをわかってもらって納得して買って使ってほしい商品」と改めて製品にかける思いを語る。
製品の良さをきちんと伝える宣伝の仕事も3人が初めて取り組んだ仕事だ。親戚や友人に使ってもらうことからはじまり、次は少しでも目につくようにと近所のガソリンスタンドにおいてもらったそうだ。さらに介護施設や病院にも自分の足で説明して回った。

チラシも写真もホームページも

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ビオミュートの販売に力を発揮しているホームページはプロの手ほどきをうけながら自分たちで考えて作ったもの。パソコンはブログもツイッターも日々更新するだけではなく、ビオミュートニュースを月2回掲載するほど習熟した。ウェブ上では新製品の説明とともに丁寧な季節ごとの使い方の説明も好評だとか。社の経費でカメラを購入し、商品の写真を撮り広告用チラシを作ることも覚えた。

「自分力」をつけてほしい

サンキの本業はもちろん金型設計、難加工材のプレス加工技術による生産システムの開発である。しかし、松島社長は「生産現場が海外にシフトするなか、部品加工メーカーの製造現場も海外にシフトせざるを得ない。中国のグループ企業も含めるとサンキ全体の売り上げは変わらないが、国内の本社工場での仕事は確実に減ってきている」。と日本のものづくりの変化を語った。

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女性をターゲットに起業を勧めたのは、働く現場ではまだまだ女性の方が苦労しているのが現実だから。自分たちが働いている会社がなくなったとき、どこで働くか、自分の力でできることは何か、このビオミュートの開発製造販売を通して「自分力」をつけてほしいという。

「何年か経ったらビオミュートで独り立ちしてほしい、これからはものよりも会社を作ってほしいのですが」。松島社長の言葉を「まだまだです」。と受ける横尾室長の手にはビオミュートのボトルがしっかり握られていた。

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【取材日:2013年01月15日】

企業データ

株式会社サンキ
長野県安曇野市穂高有明9433 TEL:0263-83-2229
http://www.biomute.jp/