[サイプラススペシャル]212 「進化する計算」でエネルギーの効率活用 信大工学部のものづくり⑬

長野県長野市

信州大学工学部 電気電子工学科 田中・エルナン研究室

計算でより良い世の中をつくる!?
「進化計算」研究の最前線

 「計算で、世の中をもっと良くします!」
 信州大学のすごい研究を紹介する【特集】信大工学部のものづくり。
 今回ご紹介するのは、田中清先生の「計算」の研究…ですが、計算といっても単純な足算や引き算ではありません。
 その名も「進化計算」!!生物の遺伝と進化の過程を模倣して構築されたシステムで…と、何やら難しそうな内容ですが、いったいどんな研究で、どんなところで役立つのでしょうか?

進化計算って何?

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生物のように「進化するシステム」

 「一言で言うと、生物のように『進化するシステム』をつくっています」と、修士1年の西尾豊さん。「進化計算って一体なんですか?」と、かなり素朴な質問をぶつけたところ、困ったような顔をしながら答えてくれました。
 田中・エルナン研究室のテーマは「『進化計算』による『多目的最適化』と実現界応用の研究」。あまり耳にしたことのない「進化計算」がキーワードになりそうです。

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 「ちょっとこちらをご覧ください」と、西尾さんのパソコン画面にはグラフが映し出されました。「それでは行きますよ」とキーボードを押すと、グラフの中にはいくつもの点が自動的にあるポイントに集まりはじめます。
 実際の社会での計算は1+1=2というように簡単ではありません。たとえば、新しいクルマを開発するとき、速さを追い求めると燃費が悪くなるし、高級感を求めると重くなるし、新素材をつかえばコスト高になるし...と、いくつもの相反する条件を満たすような最適な「落としどころ」を求めることが大切です。
 パソコン画面のグラフの点がそうしたいくつもの条件で、ある一つのポイントに集まるのが最適な解答...つまり、いくつも複雑に絡み合った問題の答えを、自動的に求めるようにするのが進化計算です。


新幹線の流線型ボディにも活用「進化計算」

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 「いくつもの遺伝子が混ざり、環境に適合したより強い遺伝子が残ることで生物は進化してきました。この生物の遺伝と進化の過程を模倣して作られたのが『進化計算』です。」信州大学工学部電気電子工学科教授の田中清先生は、柔和な笑みを浮かべて説明をつづけます。「この話を、中学生にもわかるように説明して、といわれると難しいんですよね。」
 オスとメスの遺伝子が掛け合わされることをヒントにしたプログラムをつくり、そこにいくつかの条件を設定すると、自動的により良い解答が導き出されるというのです。
 「たとえば新幹線の顔の形状ですが、あれは、スピードをあげなくちゃいけないですし、一方で騒音の問題をクリアしなくてはいけない。いくつもある条件を流体力学などを用いて、最適化するのに進化計算使われています。」

地域に根差し、世界へ発信

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話題の「スマートグリッド」に進化計算

 「街全体で電力を効率よく使う、『スマートグリッド』について研究しています」と、修士1年中島悠太さん。
 近年話題の「スマートグリッド」とは、「スマート=賢い」電力システムのこと。まず、スマートメーターとよばれる通信機能を備えた新型メーターを各家庭などに配置します。これを活用することで、各家庭の太陽光発電でつくった電気を効率的に配分したり、時間帯によって電気料金を変えて消費電力のピークを抑えたりすることが可能になります。
 ここで活用されるのが「進化計算」。現在、田中先生の研究室では、坂城町や地元企業と一緒に、町全体で消費電力を抑える、環境・エネルギー研究を進めています。

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 スマートメーターの通信や制御を開発したのは千曲市のミドリ電子。「坂城町にある電子機器製造やベアリング部品製造の企業に協力を得て設置しています」と、ミドリ電子の花岡治さん。地元ものづくり企業の技と、田中先生の「進化計算」を組み合わせることで、長野発のグリーンイノベーション(緑の技術革新)が始まろうとしています。


地元企業と共同研究!国際色も豊か!

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 「地元の企業と一緒にやっていって、実際に世間で使われるものをつくっていけるというところが魅力的で楽しいと思います。」修士1年吉良俊則さんが研究しているのは、デジタル画像処理。内視鏡用手術器具などを手掛ける岡谷市リバー精工(サイプラススペシャル155「医療器具で負担の少ない手術を実現」 ご参照)と共同で研究しています。
 「光ファイバーを活用した『痛くない胃カメラ』ですが、このままだと画素数が足りないので患部をよく見ることができません。そこで画像解析のプログラムを開発して、いくつもの映像を組み合わせる技術で、より映像を鮮明にする研究をしています。」

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 「留学生が多いですね。世界から集まってきている学生がいます。」と、准教授アギレ・エルナン先生。田中・エルナン研究室で驚くのは留学生の多さです。「進化計算は世界でも注目されている分野です」というエルナン先生の言葉も、国際色豊かな研究室の様子から納得できます。


 「大学の研究室なので、学生たちと一緒に基礎研究をやりながら、一方でできるだけ社会に役立つ技術を目指す。『進化計算』を中心に、今後も精力的に進めていきたい」と田中先生。パソコン上だけでなく、現実の世界で応用される「進化計算」が、あかるい未来をつくります。

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【取材日:2013年02月27日】

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