[サイプラススペシャル]262 「ラーニング・テクノロジー」学ぶことを工学的に科学する!? 信大工学部のものづくり⑮

長野県長野市

信州大学工学部情報工学科准教授 香山瑞恵

飛行船を操る不思議なスプーン!?
「ひみつ道具」のようなアイテム登場!?

 飛行船をあやつる不思議なスプーンに、デッサンのアドバイスをしてくれるペン。まるで、ドラえもんの「ひみつ道具」のようなアイテムの数々が集まる研究室…いったいどんな研究をしているのでしょうか?
 【特集】信大工学部のスゴい!ものづくり。今回ご紹介するのは、情報工学科・香山研究室です。
 ヒトが学習するときの様子を工学的に解明して、新しい学習方法をつくっていく…、おそらく「世界でたったひとつ」のユニークな研究内容をご紹介します。

「ひみつ道具」で学習支援!?

飛行船を操る「マジカルスプーン」!?

 タネも仕掛けもない、2本のスプーン。リズムに合わせて打ち鳴らすと...、あら不思議!?おもちゃの飛行船を自在に操ることができます。信大工学部香山研と、組込ソフトウェア管理者・技術者育成研究会が共同で開発した、その名も「マジカルスプーン」。一体どんな仕掛けがあるのでしょうか?

 「これを叩くことによっておもちゃの飛行船をいろんな方向に動かすことができます。情報通信の仕組みが理解できます」と、情報工学科4年の箕浦航さん。仕掛けは、スプーンの音をキャッチするマイクにあります。コンピューターなど「デジタル」というのは、1とゼロの2つの信号の組み合わせで、いろいろな指令を出しています。このスプーンも、1=「たたく」ゼロ=「たたかない」というふたつの信号を組み合わせることで、前・後・上・下・右・左などの命令に変換し、飛行船をコントロールしています。
 不思議なスプーンは、こどもたちがデジタルの仕組みや原理を学ぶために使う教材だったのです。

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デッサンのアドバイスをする「デジタルドローイング」!?

 机の上に置かれた紙袋をデッサンする、学生。一見ただのペンに見えますが、これを使えばよりうまく描くために的確なアドバイスをもらえる...という優れものです。香山研と日本外国語専門学校が共同開発した「デジタルドローイング」という仕組みです。

 「このペンを使って絵を描くと、データ化することができます。そのデータを解析することにより、例えば先生がもっとたくさん描きなさいというところを2千本描きましょうというような形で数値目標を付加することができます」と、博士2年の永井孝さん。芸術という感性の分野を数値化することで、より効果的な指導が可能になると言います。

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「ラーニング・テクノロジー」って!?

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 マンガに登場するような「ひみつ道具」の数々ですが、これらすべて香山先生の研究テーマに関連しています。
 「『ラーニング・テクノロジー』が研究テーマです。人工知能技術を使って学習者のデータを集め、それを学習支援に応用するという研究です」と、香山瑞恵先生。
 飛行船を操るスプーンも、デッサンのアドバイスをするペンも「ラーニング・テクノロジー」といって、「学習すること」を工学的に科学する研究のアイテムだったのです。

 もうすこしくわしく説明すると、香山研の研究テーマは大きく二つに分かれます。
 ひとつは「学習支援」。絵を描く、曲を歌う、といった芸術分野のスキル(ワザ)の習得を、様々な新たな道具を開発して実際に使ってもらうことでサポートしていこうというもので、「スキルサイエンス」とも呼ばれます。
 もうひとつは「コンピューターの教材開発」。冒頭にご紹介したマジカルスプーンのように、通信の基本(プロトコル)や、コンピューターのプログラムを学ぶ支援教材をつくっています。

「ラーニング・テクノロジー」で夢を叶える!?

まだまだあるぞ「ひみつ道具」!?

 香山研の「ひみつ道具」は、まだまだあります。
 (株)Technical Rockstars(http://technicalrockstars.co.jp/) が開発、九州大学と共同研究している「クルーカ」。車輪のついた小型。。。 ロボットに命令するプログラムを極端に簡略化し、パソコンの画面上のマルやシカクの図形を組み合わせることでロボットの動きを制御します。複雑なコンピューター言語(指令する仕組み・プログラム)を知らなくても、プログラムの仕組みを学ぶことができます。

「うさぎ~おいし~かのやま~」
 唱歌ふるさとを歌う学生。カラオケの練習中ではなく、「歌唱支援システム」の研究中です。歌声をパソコンに取り込みデータ化することで、音程・リズム・強さだけでなく、より魅力的な声で歌うアドバイスをしてくれるシステムです。

 クルーカ担当の修士1年増元健人さんも、「自分がつくったツール(道具)で学生の成績が伸びていく、そのようなところが自分にとっては自分の成果でもあり、喜びを感じます」と、自身の研究に手ごたえを感じているようです。

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「世界でひとつ」のユニークな研究成果!?

 ヒトが学習するときの様子を工学的に解明して、新しい学習方法をつくっている香山研。  「新しい研究分野なので、研究をすすめていけば世界でひとつのユニークな研究成果ができてくるので、とてもやりがいがありますね」と、香山先生。
 信大発「世界でひとつ」という研究。「学ぶ」という誰もが意識せずに行う行為を、工学的に解明し、そのサポートをしていく...香山先生の「ひみつ道具」たちは、そのユニークな発想で大勢の「のび太」たちの夢を叶えてくれるかも知れません。

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【取材日:2014年02月14日】

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