[サイプラススペシャル]267 設計からまちづくりまで「デザイン」する 信大工学部のものづくり⑯

長野県長野市

信州大学工学部建築学科准教授 寺内美紀子

木祖村の新しい地域交流施設
現地調査や意見交換から生まれるまちづくり

 太平洋と日本海の分水嶺にあたり「木曽川源流の村」木祖村。人口およそ3000人の小さな村に、今年11月完成予定の施設があります。公民館として地域の方々が利用するだけでなく、調理スペースなども備え、観光など村外から来た方たちも利用できるようにと計画されたこの施設、設計を担当したのは信大工学部の学生たちです。
 【特集】信大工学部のスゴい!ものづくり。今回ご紹介するのは、建築学科の寺内美紀子先生の研究室です。

建築から都市空間まで「デザイン」

shinuni-16-03

いよいよ工事がはじまる木祖村の施設

 「こちらは私たちの研究室で設計した木祖村の交流施設です。設計が終わり、まさにこれから工事が始まるところです。」建築学科修士1年の野原麻由さんの前には、細い木で組み立てられて建築模型。野原さんらが建築設計した木祖村の施設で、春から工事がはじまり、本格的な冬が来る前に完成する予定です。

 学生が村の施設を設計する、というだけでも驚きですが、彼女たちは村の依頼を受け、2年前から村独自の景観計画をまとめるところから関わってきました。住民を巻き込みながらのワークショップを重ね、実際に村を歩き、若い感性で村の魅力を掘り出していくという地道な作業を経て、「源流の里 木祖村景観計画」という冊子をまとめました。村全体の景観計画が、建築設計にも活かされています。


shinuni-16-04
shinuni-16-05

住民の言葉をまとめ「景観計画」

 「私たちは、建築から都市空間までデザインすることを通して、何を地域社会に還元できるかを考えています。」そう話すのは、寺内美紀子先生。先生の研究テーマは、ずばり"デザイン"。 建築や都市空間を対象に研究を進めています。

 木祖村景観計画も「村の有志でつくられた検討部会の議事録をすべて見直し、まず『語られた言葉』に着目した」という寺内先生。「熱心な議論で集められた『語られた言葉』から、村固有の村民の多くが共感できる言葉を探したところ、「くらし」「木曽川源流」「街道文化」などに集約されました。この核になる言葉の裏にある数百のコメントをまとめていきました。」そこで暮らす人たちの地域への想いを景観計画にまとめ、学生たちの若い感性も加えながら、一つの建物の建築設計に落とし込んでいったのです。

可能性が広がる「デザイン」

設計だけでなく建築や都市空間も

 「都市空間の中で、その建築がどうあったらいいだろうか?というリサーチを丁寧にやっていくことがベースになります。そして得られた結果をうまく一戸の設計に投入しています。」寺内研の特長は、設計だけでなく、建築や都市空間などのまちづくりまで様々な対象にデザインをひろげていくことにあります。木祖村のように空間全体からひとつの建築設計をおこなったり、逆にひとつの建築から都市空間全体に広げたりと、様々な市町村とも協同してデザイン活動を展開しています。

 学生たちの研究も「デザイン」をキーワードに多岐にわたります。
 たとえば「卒業設計で、新宿の街にスポーツのある新しいまちづくりを提案しようと考えました」という建築学科4年の本田世志郎さん。東京の都市空間を再現し、「スポーツ」という切り口から全体のデザイン案をつくり、実際に大型模型で表現しました。成果物は実際に区役所にも提案していくとのことです。

shinuni-16-07

建築がひとつの文化に

shinuni-16-08

 研究者であると同時に建築家でもあり、若手建築家のユニットに参加してデザイン活動を行ってきた寺内先生。研究室の卒業生もデザイナーとして幅広いジャンルで活躍しています。
 「やっぱり、建築が一つの文化になるんだということを、みなさんにできるだけ伝えていきたいなというのが夢ですね。」

 建築関連雑誌に掲載された言葉をピックアップし掲載頻度と関連の強さをまとめたり、研究室で設計競技に参加したりと、先生と学生たちがひとつのチームとして活動している信大工学部寺内研。「もともと建築には女性が多い」と笑顔をみせる先生本人はじめ、理系女子たちが積極的に研究に取り組む姿が印象的でした。

shinuni-16-09

【取材日:2014年03月25日】

企業データ

(研究室のご案内)信州大学工学部建築学科准教授 寺内美紀子