[サイプラススペシャル]301 試験用小型オートクレーブ「ダンデライオン」 注目の新素材CFRP(炭素繊維強化プラスチック)

長野県長野市

羽生田鉄工所

得意技術はきちっと閉まる「クラッチドア」
キノコ培地殺菌釜50年の技を新素材へ

かつて「ボイラーの羽生田」と呼ばれていた長野市の羽生田鉄工所。現在の主力商品は、国内トップシェアを誇るキノコ培地を殺菌する装置だ。 ボイラーから高圧殺菌釜へ、時代のニーズにあわせ進化するものづくり企業が、注目の新素材・炭素繊維強化プラスチックCFRPの製造装置に注力し、実績をあげはじめた。

キノコと新素材、一見まったく違う分野に見えるが、実はここに羽生田が誇る高い技術「クラッチドア」が活かされている。今回は「ものづくり大賞NAGANO2014」を受賞した羽生田鉄工所のCFRP試験用小型オートクレーブ(CFRPを固める実験装置)「ダンデライオン」を紹介する。

CFRP開発なら羽生田「ダンデライオン」

鉄の10倍の強度 軽さは4分の1

「CFRPの開発なら、羽生田の『ダンデライオン』にお任せください!」
家庭用冷蔵庫より一回り大きいサイズの白い筐体。黄色い半球状の蓋が印象的な「ダンデライオン」と名付けられた、長野市の羽生田鉄工所が開発したCFRP試験用オートクレーブだ。
CFRP・炭素繊維強化プラスチックは、鉄の10倍の強度と4分の1の軽さを誇り、新型ジェット機に使用されているほか、クルマのボディへの活用も始まった注目の新素材だ。名前の通り、炭素の糸を編み込んだ布のような素材をプラスチックの中に入れることで、強度と軽さを実現している。羽生田鉄工所の手がけるオートクレーブは、炭素繊維の布をプラスチックに浸した後、いろいろな形の型にはめて熱し固めるための装置だ。

信大や筑波 東大にも納品

「一番のウリはこの大きさです。ここまで小さいのは世界でも珍しいです」と、技術部の小林徹さん。実用化が進むCFRPの加工装置はすでに世の中に多く出回っているが、羽生田鉄工所が手掛ける「ダンデライオン」はヒトの背丈ほどの高さで、「エレベーターで搬入でき、研究室にも設置できるサイズ」という。
小型とはいえ、5段階の温度調整と最高200℃、およそ10倍の気圧にも耐えるなどあらゆるパターンの実験に対応する優れものだ。どういった温度・圧力で固めるのが一番効果的かなどを研究するために活用される。「実験データを集めやすいよう、USBにも対応しています」試験用に特化したことで、信大や筑波、東大といた大学の研究室のほか、公設試験場や、宇宙開発関連の研究施設にも納品された。

クラッチドア キノコから進化?

「特徴はこのクラッチ。このクラッチドアで、簡単に、しっかり締めることができます」と、技術部の松本祐樹さん。白い立方体の正面に付けられた黄色いドア。丸型の圧力容器の扉に、羽生田鉄工所の核になる技術があった。それが、クラッチドアだ。
通常、高圧高温の釜の扉は、いくつものネジでしっかり閉める必要がある。そうしなければ、わずかな隙間から空気が漏れてしまうからだ。一方、羽生田が得意とするクラッチドアは、2枚の刃車のような仕掛けを重ねあわせている。この2枚を回転させ、ずらすことで、しっかり容器を密閉することが可能だ。
ダンデライオンのクラッチドアは手動式で、扉の横に取り付けられた棒状の「てこ」のような装置を、何度が上下することで扉のクラッチが回転し、容器内が密閉される。

羽生田のコア技術「クラッチドア」、実は長野県の特産品である「キノコ」と深い関係があった。

明治17年創業 地域に根ざし世界へ羽ばたく

クラッチドアと圧力器の技術を新素材へ

「キノコ培地の高圧殺菌装置、こちらの窯になります。50年の歴史を誇る、我が社の主力商品です」と、代表取締役羽生田豪太さん。羽生田鉄工所の年間売上およそ9億円のうち4割は、キノコ用の高圧殺菌装置が占める。キノコの菌を入れる前の、ビンに入った培地を蒸して殺菌するための装置だが、より多くのビンを入れられるよう四角いコンテナのような形をしている。
前述のオートクレーブとは大きさも形も異なるが、この扉にもクラッチドアが採用されている。

ふたをしっかり閉めて、加熱する。キノコ培地用の高圧殺菌装置で半世紀培った技術が、新素材CFRPに活かされていると羽生田社長は続ける。「キノコ培地用の圧力器の製造技術とクラッチドア、そこに制御装置を加えまして、装置として完成させたものを自社ブランドとして、世の中に出したいという気持ちで『ダンデライオン』を作りました」

世界中に「羽生田ファン」を

羽生田鉄工所の創業は明治17年。130年の歴史あるものづくり企業は、これまで時代のニーズに合わせて商品を変えてきた。鍛冶屋からスタートし、地元農家の農機具の修理などを行う。養蚕が盛んになると、金属加工の技術を活かし、蚕を飼育用の大型の暖房設備ボイラーを手掛けた。養蚕が衰退し、農家がキノコづくりを始めるとほぼ同時に、高圧殺菌窯製造をはじめた。北信州のエノキタケ生産の歴史と、羽生田の高圧殺菌装置の歴史は重なっている。

そして、次の時代のニーズにあわせて注力するのがCFRPだ。

「すべての技術に責任を持つ必要があるので、そうすると会社の中に経験値が蓄積していって、より高い技術になっていく。よりレベルアップをしていく」と、羽生田社長。「『ブランド化』というほど大きなことではないが、世界中に羽生田ファンをつくっていきたい」と、夢を語る。
ダンデライオンを和訳すると「タンポポ」。開発時の通称がそのまま商品名になったということだが、「タンポポの綿毛のように、長野から世界中にCFRP試験装置が広がって、その地で羽生田ファンが増えていって欲しい」と若きリーダー。「あ、これはいま思いついた話なので、これからそういうことにしましょう」と、お茶目な一面を見せた。

過去の取材内容はこちら

【取材日:2014年11月7日】

企業データ

株式会社 羽生田鉄工所
長野県長野市柳原2433 TEL:026-296-9221
http://www.hanyuda.co.jp