[サイプラススペシャル]303 日々の生活で使える「木曽漆器」づくり 「和」へのこだわり 「伝統工芸」でなく「産業」として

長野県塩尻市

中村漆器産業

普段の生活の中に「和」を
新しい価値を提案する「木曽漆器」

「普段の生活の中で、『木曽漆器』使ってもらいたい」
一部の人だけが使う高級品のイメージが強い「漆器」だが、より多くの人に、日々の生活の中で気軽に使える漆器づくりにこだわる会社がある。
中山道木曽路最初の宿場町、贄川宿。400年の伝統がある木曽漆器。
その漆器が持つ「和」にこだわり、変化する生活様式にもマッチした新しい価値を提案する中村漆器産業の新しい木曽漆器をご紹介する。

生活の中で使ってこそ際立つ「和」の美しさ

伝統工芸品を「日常使い」に

漆(うるし)を塗り重ね、美しい光沢が特徴の工芸品、漆器。江戸時代中期からの歴史ある木曽漆器は、1975年国の伝統的工芸品にも指定された、長野県を代表する産業のひとつだ。

「お若い方からご年配まで、気楽に毎日の生活に使っていただく漆器を提案しているのがうちの会社の方針です」と、中村忠社長。
高級品のイメージが強い漆器だが、「漆器は生活の中にあってこそ輝きを増す」という考えのもと、中村漆器産業は、日常で使える漆器の製造販売を行なっている。

「使って分かる」木の温もりや手触り

「実際の生活の中で使ってこそ、道具として美しさが際立つ。」
漆器の良さのひとつは、木の温もりや手触り。もっと使ってもらいたいという思いから、中村漆器産業では箸やお椀ばかりでなく、木曽漆器のスプーンなども作っている。

本社販売店と併設された工房。工場長の松原清一さんが、一つ一つスプーンに漆を重ねていた。「漆器の良さは持った肌触り、口当たり。口当たりがいいですね。自分で使っていいと思うから進めることもできる。」
「もともと生粋の職人だった」という松原工場長だが、現在では販売店を回ったり、様々な展示会に参加するなど営業活動も行う。
「実際の現場の声を聞く中で、こういうものをつくれば使ってもらえる、このくらいの値段だったら買ってもらえるというのがわかった。」下塗りだけで3回、ほかにも全およそ20工程と、漆器づくりは手間がかかるが、松原工場長が手掛けるスプーンは400円や800円と、リーズナブルな価格設定だ。「職人たちの自己満足にならないように」中村漆器産業では、輸入材を活用するなど手に取って、買ってもらえるように工夫を重ねる。
「営業活動をすることで、私たちの漆器づくりに対する想いも伝えられるし、実際に使っている方の声は、作り手の励みになる。」

木曽漆器の「生きる道」

待っていても売れる時代ではない

1947年木曽平沢で創業、地元伝統産業の木曽漆器の生産をはじめた中村漆器産業。「伝統工芸でなく、産業にしていくことが大事」と90年代後半から自社製品の直営店運営に乗り出した。
自らも漆器職人としての経験を持つ中村社長。「以前は待っていれば買いに来てくれたが、特にオイルショックを経てそういう時代ではなくなった。職人も大変だが、販売も大変。生活様式も変化している。職人にとっても漆にとっても一番つらいのは仕事がないこと、だからこそ木曽漆器の『生きていく道』を模索した。」特別な人が使う高級品から脱却し、木曽漆器を産業として安定的な収入を確保するために、箸やお椀、小物製品などアイテム数を増やし、家業を株式会社化し、直営店運営に乗り出すなど展開してきた。


洋風なものに「和」を合わせると...

松本や県外のアウトレットモールなどに展開する「風の唄(うた)」。県内外の大型ショッピングモールには「WABI×SABI(わびさび)」。去年松本市梓川にオープンした「Three little song birds(TLSB)」。中村漆器産業は、おしゃれで気軽な、雑貨店感覚の店を県内外で16店舗を展開し、漆器の新たな魅力を伝えている。

「洋風なものに和の漆器を合わせるとすごいスタイリッシュでかっこいい、上品な食卓になる。」店舗やWEB企画を担当する石井賢彦さんは30代前半。背が高く都会的な顔立ちの石井さんは「信州が好きで」県外から移住、TLSBのオープンにあわせ、「ここで働きたい」と自ら門をたたき中村漆器産業にやってきた。
「お店には漆器だけでなく、湯呑や飯椀など陶器も多数取り揃えているので、ぜひ生活シーンにあった『和』を見つけてほしい。」

伝統を大切に、高級品から脱却

伝統を大切にしつつ、高級品からの脱却をはかる。中村社長は木曽漆器の将来を見つめている。
「陶器とか同じ感覚で日常の日々の生活の中にどんどん入っていって使っていただくようになれば、伝統工芸というマニアックなものじゃなくて本当の産業として、これからもずっと生きていくと思う」

【取材日:2014年12月08日】

企業データ

中村漆器産業株式会社
長野県塩尻市木曽平沢1819 TEL:0264-34-2105
http://www.kiso-nakamura.com