[サイプラススペシャル]258 環境からエネルギーまで!「結晶」で未来を創る 信大工学部のものづくり⑭

長野県長野市

信州大学工学部環境機能工学科教授 手嶋勝弥

小型高性能化 充電1回で500キロ以上走行可能
EV次世代電池・信州から発信 信大チーム トヨタなどと共同開発へ

 2014年元日の地元・信濃毎日新聞の1面トップに紹介された信大工学部手嶋勝弥教授の研究内容。記事によると、先生の研究が将来の世界のEV市場を支える可能性があるという、小型高性能の次世代型電池の材料を開発中とのことです。
 【特集】信大工学部のスゴい!ものづくり。今回ご紹介するのは、環境機能工学科・手嶋研究室です。信大発の「結晶」作りの技術が、未来を創る核になるかも知れません。

「結晶」は地球を守るウルトラマン!?

EV次世代電池/浄水器の新素材/水から水素をつくる

 「私たちは未来の電池をつくります」と、4年生の山本悠子さん。
 「私は水をきれいにする研究をしています」」と、修士2年の白崎明美さん。
 「光触媒で水から水素をつくります」と、4年生の小嶋健太さん。
 信大工学部手嶋勝弥教授の研究室の学生さんたちの研究内容は、まさに三者三様。通常、大学の研究室では核になるテーマに沿って研究することが多いのですが、手嶋研はちょっと違うようです。EV次世代電池、浄水器の新素材、水から水素をつくる技術、と一見すると全く異分野の内容に見えますが、いったいどういうことでしょうか?

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美しく輝く人工ルビーの「結晶」

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 「私の研究の核はコレ、結晶です」手嶋先生が手にしたのは、小さなケースに収められた、輝くルビーの粒。ダイヤモンドに次ぐ硬度をほこる赤い輝のルビー、実は手嶋先生の研修室で作られた人工結晶です。(くわしくは信大工学部大石研「人工ルビー」)「環境からエネルギーまで様々な分野で活躍する『結晶』は、地球を守るウルトラマンの様な存在です。」
 手嶋教授の研究テーマは「結晶をつくる技術」。EVの走行距離を飛躍的に向上させる次世代電池にも、水の中の有害イオンをナノレベルで除去するにも、水から水素をつくり出す効率的な光触媒にも、結晶が活用されています。


「結晶」が小型で高性能の電池をつくる

 たとえば、EV。
 現在の最大のネックはバッテリー性能の限界と言われています。世界中の自動車メーカーは新型バッテリーの開発を進めていますが、手嶋教授によると「小型化と高性能化の両立は難しい」とのこと。ここで期待されるのが手嶋研で進める「結晶作りの技術」です。
 現在の充電池の内部には、電解液と呼ばれる液体が入っています。この液体を固形の結晶に置き換えることで、小型高性能化が可能になり走行距離を飛躍的に伸ばすことが可能になるのです。
 トヨタやデンソーといった大手メーカーとの共同開発も多く、「この電池は未来の電気自動車に欠かせないものとなると思います」と、修士1年の野﨑翔太さんも研究に手ごたえを感じています。

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地道な結晶作りが、世界最先端を支える

低い温度で結晶をつくる「フラックス法」

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 なぜ「結晶づくりの技術」が注目されるのでしょうか。
 結晶は、原子や分子が規則正しくならんだ物質です。物質そのものの性能を最大限に発揮することができます。「この小さい粒子一個一個の中に夢が詰まっています。原子・分子、非常に正しく配列していて、その配列が様々な機能を呼び起こす」と手嶋教授。


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 結晶作りにはいくつかの方法がありますが、手嶋研が注目したのは「フラックス(溶媒)法」という作り方です。ホウ酸水や食塩水を冷やして結晶をつくる、という技術の応用で、この手法を使えば物質が溶ける温度(融点)よりはるかに低い温度で結晶を作ることができます。


世界唯一!結晶をコーティングする技術

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 さらに手嶋研では、「おそらく世界唯一」という物質の表面に結晶を作る技術「フラックスコーティング法」を確立しました。
 「もともとは『るつぼ』の表面をルビーでコーティングすることが原点」というこの方法。前述の次世代EV用電池も、金属板の上に電解液を同じ性質をもつ物質をコーティングすることで、液体を使わない小型大容量の充電池開発につなげています。

 「新素材はその用途が限られることが多いが、我々の研究は『作り方』なので必要に応じて様々な物質の結晶をコーティングして、新しい材料や、新しい機能、性能の飛躍的向上を実現することができます」と、手嶋教授。


結晶作りは「努力の結晶」

 「結晶というのは、地道にコツコツつくるものです。これが私の研究のベースです。コツコツつくった結晶がまさに『努力の結晶』で、信州大学のナンバーワン、オンリーワンの技術につながる。その成果が世界に広がることで、世界の最先端を支えることができると思っています。」
 ひょっとすると、全国各紙の1面トップに「信州発ノーベル賞」の記事が載る日も近いかもしれません。

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【取材日:2014年01月09日】

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