[サイプラススペシャル]02 微細バネで世界に飛ぶ 生活モバイル化を進める大きな技術

長野県諏訪市

ミクロ発條

視認できないほどの微細バネを実現
世界のボールペンの50%をかげで支えるバネメーカー

 ボールペンは先端の小さな金属球が回転して文字が書ける身近な筆記用具。実はこの金属球が極小のバネに支えられているのをご存じだろうか?
 このバネを開発、製造しているのが諏訪市のミクロ発條である。シェアは世界50%、国内では70%。世界で愛用されているボールペンのなめらかな書き味が諏訪の技術に支えられているのだ。

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ボールペンのボールを支える極小バネ

 ボールペンのバネと聞いて、ノック式のボールペンを分解すると現れるコイル状のバネを思い出す人も多いだろう。だが、そんな大きいものではない。金属球を支えているのだから、バネはインクの中。見えないところにある。
 0.5mm のボールペンを例に挙げよう。ペン先の金属球を支えているのは、なんと0.14mmのステンレスの針金で作った外径0.97mmのバネである。しかも金属球を支えるためにバネの先端には人差し指を立てたように1本の針金を突出させ、0.14mmの針金が球と1点で接する構造となっている。金属球を支える針金の先端はボールが回転しやすいように半球形。ボールのなめらかな回転によってインクの漏れを防止する効果とともに、通常の筆記態勢だけでなく、ペンを上向きにしてもムラのない筆記が可能となった。

精密機械からリモコンのバネへ

 1954年、ミクロ発條はカメラや時計メーカーのバネを作る会社として創業した。コイル状のバネだけでなく、形状に合わせたホーミングと呼ばれるバネ作りなどで順調に業績を伸ばすものの、カメラのデジタル化に伴い、1980年代には需要が伸び悩むようになる。
 時代は家電製品などが小型化、効率化を図っていた。テレビやオーディオにリモコンが付属され始めた時代だった。小島信勇社長は「わが社にしかできない微細なバネ作りでシェアを獲得しよう」と決意。精密機械で培ったノウハウを、まずはリモコンの乾電池を支えるバネに生かそうと方針を転換した。

世界に拠点を置いて世界の情報を得る

 鋼材メーカーに依頼して開発した微細バネ用の特注線材の効果もあり、リモコンのバネの業績は順調に伸びた。自社開発したコンピューター制御の製造機械により、完全自動化で稼働。1990年には取引先の電機メーカーの生産拠点の海外シフトにともない、ミクロ発條もマレーシアに生産拠点を設け、今でも60%はマレーシア工場にて生産している。
 その後、各メーカーが生産拠点を中国にシフトし始めると、ミクロ発條も1996年には中国・上海、2001年には大連にも製造拠点を設けた。小島社長は「海外に出ることで、日本にいる時よりもタイムリーに世界の情報が入ってくる」と考え、海外企業とのつながりを増やしてきた。微細なバネの評判も海外拠点から広がり始めた。

髪の毛より細い超微細バネは肉眼ではバネと分からないほど。1円玉との比較でそのミクロの世界がやっと理解できる

愛用のボールペンを使って、バネの世界を熱く語ってくださる小島社長。もちろん、このボールペンにもミクロ発條のバネが使われている

自社開発の製造機械でボールペンの書き味がアップ

 ボールペンのバネの開発もちょうどそのころだった。1990年代に入って筆記具メーカーが開発したのは濃度の高いゲル状のインク。ボールペンの欠点とされていたインク漏れを防ぐためだ。それまでは、ペン先の筒状の金属部分だけで金属球を支えていたため、ボールペンのインクが漏れやすいのが欠点だった。それを内側から微細なバネで支える構造を開発しようと、ミクロ発條に話が舞い込んだ。
 自社開発したバネの製造機械は、繰り出される針金を数種類の工具が取り囲んでコイルを作ったり用途に合わせて曲げたり、カットしながら製品を作っていく。工具の微調整は職人レベルの技術が必要とされるものの、製造の原理としてはバネの大小はあっても、ほぼ同じという。ボールペン用の微細バネはバネ製造に最適であった。こうしてボールペンの金属球を支えるチップと呼ばれるバネの製造が始まった。

小さなバネで世界へ大きく飛躍する

 ミクロ発條が手がけるバネは、2006年は外径0.13mm、2007年は0.1mmと年々微小化に成功し、現在製造している最少のバネは線径 0.015mm、外径0.07mm。主に半導体の検査装置に使われている。髪の毛が0.08mmだから、コイル状であることを肉眼では確認さえできない。しかし、この製品を標本のように並べる整列梱包も可能なのだという。携帯電話やデジタルカメラなど、身近な持ち物は、コンパクト化が進み、より小さなバネを求める声は多い。
 「世界で一番小さいバネを作るのが目標。しかし小さいだけでは意味がない。ニーズを先取りして応えられる製品を提供すること」と小島社長は語る。
 ミクロ発條のペンタゴンと呼ばれる“戦略室”には全社の部長が机を並べ、隣接する開発ルームとも常に情報を共有する。今後は極小のサイズを生かし電子部品や、脳血管の治療に生かせるようなカテーテルなどの医療分野も目指したいという。生産拠点を記すシールが貼られた世界地図を見据えながらミクロ発條は常に進化し続けている。

工場内は製造機械がずらりと並び、休むことなく世界中のバネを作りだし続けている。これら製造機械がほとんど自社開発であることにミクロ発條の強みがある

全社の部長が机を円形に並べ、常に情報を共有する。通称“ペンタゴン”。情報共有という思想がまさにビジュアル化されている


【取材日:2008年7月14日】

企業データ

株式会社ミクロ発條 長野県諏訪市小和田南22-6 TEL.0266-52-3550
http://www.micro-spring.co.jp/
 精密小物ばねに圧倒的な技術力を誇るパーツサプライメーカー。ボールペンのチップ(先端の微細バネ)では世界の50%のシェアを占める。電子部品や医療分野への技術活用も今後注目されている。