[サイプラススペシャル]07 「磨く」を極めポリッシングマシン世界No.1シェア 「限りないフラットネス」シリコン市場のパイオニア

長野県長野市

不二越機械工業

顧客ニーズの半歩先を行く製品作り
高精度技術力で世界トップシェア

 私たちの生活で欠かせない携帯電話やパソコンに組み込まれているICチップ。この基盤となるシリコンウェーハでは、超微細な回路を書き込むために高い精度の平面が求められる。
 長野市松代町にある不二越機械工業では昭和39年から加工装置の開発を進め、今では世界のシリコンウェーハの約30%が同社の製品で研磨されている。

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ナノレベルの研磨技術

 0.00003mm。

 これがどういう単位かわかるだろうか?
 私たちが日々使っている携帯電話やパソコンなどに組み込まれているICチップ。その基盤として使われるシリコンウェーハには、サブミクロンの凹凸も許されないフラットネスさが求められる。ちなみにサブミクロンとは1万分の1ミリメートルのことである。
 分かりやすい例を用いると、東京ドームのグラウンド全体を0.1ミリの誤差もなく平らにすることができる精度なのだ。そんなナノレベルでの精度を実現できる研磨技術が、長野市松代町にある。

昭和39年からの挑戦

 そもそも航空機の低圧燃料用噴射ポンプを製造していた不二越精機工業が松代に戦時疎開したのが昭和19年。昭和27年に同社から営業設備を引き継ぎ、先代社長が不二越機械工業を設立した。当時は高速度旋盤や木工機などの工作機械の製造販売が主な業種だった。

 「なんとか自社製品を作り出したかった」
 そう語る市川社長の言葉は静かだが、熱い。

 オリジナル製品開発への想いが、新しいテーマを呼び込んだ。
 「こんな面白い機械のアイデアがあるが、大企業ではどこでも造ろうとしない。やってみないか?」と、先代社長の友人から話を持ちかけられ、試作をしたのが半導体シリコンのインゴッドの特殊切断機であった。インゴッドとは円柱状の半導体。当時は、エンピツほどの断面積だった。
 どこもなしえなかった技術を確立し、ついに昭和39年に半導体シリコンの特殊加工機械「ラッピングマシン」の試作に成功した。

自立への執念。いよいよ製造メーカーへ

 半導体産業の幕開けを担う重要なマシンを、長野県松代の製造メーカーを生み出した背景には、「なんとか自社製品を作り出したい」という執念とも呼べる強い想いがあった。

 シリコンウェーハ加工装置「ラッピングマシン」の開発に成功した同社は、さらに半導体シリコン製造を手掛けるようになった信越化学工業との共同出資で、シリコン加工会社・長野電子工業を設立する。
 大きな事業を打ち立てながら、不二越機械工業はいよいよ製造メーカーへの道を歩き始めるのだ。

半導体のベースとなるシリコンウェーハには「限りないフラットネス」が求められる。

シリコンをはじめ、ハイテク素材を磨く「ポリッシングマシン」。世界トップクラスのシェアを誇る。

「ニーズはお客様の現場にある」と語る市川浩一郎社長。信越化学工業や長野電子工業など世界を担う企業との連携によって、自社技術を更に磨いてきた。

不二越機械工業の大きな翼

 「ラッピングマシン」を開発して以来、一貫してシリコンを「磨く」技術を極めてきた不二越機械工業。後に開発する「ポリッシングマシン」は「磨く」技術の結晶でもあった。
 切り出されたシリコンウェーハの表面を高精度かつ高能率に磨く機械「ポリッシングマシン」は、前述したように東京ドームのグラウンドを0.1ミリの誤差もなく平らにすることができる。

 研磨剤の種類や濃度、研磨布の相性、温度管理、磨くプレートの材質、形状、ナノレベルを計りとる測定機器、制御システム…。「磨く」ということについて極限までつきつめる不二越機械工業。

 だが、世界トップシェアの技術力は研究開発だけで得たのではない。飛行機が両翼で飛ぶように、同社には技術向上の重要な翼があった。それが「徹底した顧客仕様」である。

ニーズは現場から生まれる

 顧客とはつまり、世界のシリコン市場でトップを走る信越化学工業や長野電子工業などの企業である。
 同社の技術者はユーザーの現場に幾度となく足を運ぶ。ユーザーそれぞれのハイレベルな要望に対してきめ細かくアプローチし、問題をひとつずつ解決していくのだ。
 「お客様の心臓部で具体的な要望を聞ける環境にあったことは、私たちにとって非常に大きなメリットでした。そこには様々なニーズがあり、開発にフィードバックされなければいけない」と市川社長は強調する。
 「我が社が大切にしたいのは『提案型であれ』ということです。お客様からいただいた要望に対して、ただ応じるのではダメです。必ず何かしらの付加価値をつけてお返しする。そうすることで製品の差別化が生まれるのです」

 20トン近い装置でも、要求される組み立て精度はミクロン単位。何度も何度も調整し、仕様を試すことで製品がブラッシュアップされる。強固な信頼関係で得られたユーザーのニーズは開発にフィードバックされ、全体の技術力も向上していく。不二越機械工業の卓抜した技術力は日々の積み重ねに他ならない。

「ラッピングマシン」によって精密に切り出されたシリコンウェーハ。持つと想像以上に重い。

シリコンウェーハを「ポリッシングマシン」にセットする。このマシンは1世代前のものだ。

シリコンウェーハをセットし、特殊な溶剤を浴びせる。この後、蓋が閉められ繊細な研磨が始まる。


「極限」のその先へ

 同社はウェーハ直径300ミリのポリッシングマシンにおいて、2007年「元気なモノ作り中小企業300社」の表彰を経済産業省中小企業庁から受けた。
 200ミリ直径が主流だった時代に市場のニーズをいち早くキャッチし、さらに効率的な300ミリのポリッシングマシンを他社に先がけて開発した姿勢こそが不二越機械工業の本質だといっていい。
 だがそれに止まらず、今はさらに大きな直径450ミリに視野を向け研究開発を進めている。直径が大きくなるほど、精密な平面を確立する技術は高度化し、さらに新しい世界の探求となる。

世界一のリンゴを作ろう

 市川社長の口癖は「リンゴ畑にバナナを植えるな」 「世界一のリンゴを作ろう」。
 本筋から外れた新たな分野を手掛けるのではなく、今ある環境や技術を生かした商品を開発する。そして、ひとつの技術を極めることで付加価値をつけた製品開発を行う、という意味である。

 この課題に対して「産学協同」をコンセプトに金沢工業大学などと研究を進めるほか、信大や他社と「善光寺バレーセンサ研究会」を設立。新しいセンサの開発と事業化を目指している。

今より半歩先をいく技術

 「磨く」ことに特化し、ナノレベルの世界をさらに深く極める。その技術が今後、私たちの生活の中で浸透してくるであろう更なるハイテクノロジー製品の礎になるのは間違いない。

 どの時代においてもユーザーのニーズをキャッチし、今より半歩先をいく技術を。その指針が確立しているからこそ、不二越機械工業は世界のFUJIKOSHIたりうるのだろう。
 10年後、私たちが当たり前のように使っている「未来の技術」を、「現在の目」で見据え研究開発している不二越機械工業は、あたかも私たちの未来をリードしてくれるサーチライトのようだ。

2人1組のチーム制で慎重に製品の組立が行われる。高い精密さが求められるため現場は静かな緊張感に包まれていた

中村開発研究部長。取材の合間にも見せる製品へのまなざしは真剣そのものだ。

本社入口に鎮座する「脚下照願」。あしもとを照らしみよという禅の言葉が不二越精神をよく表している。


【取材日:2008年8月8日】

企業データ

不二越機械工業株式会社
長野県長野市松代町清野1650 TEL.026-261-2000
http://www.fmc-fujikoshi.co.jp/