[サイプラススペシャル]08 OEMを超える挑戦 オフィスチェアだけじゃない研究開発型企業

長野県宮田村

タカノ

事務用回転いす業界トップシェア
エレクトロニクス商品でも存在感を示す一部上場企業

 今、あなたが座わっているいすを見てほしい。もしKOKUYOの刻印があるなら、それは信州・伊那谷でつくられたものかもしれない。タカノで生産されたオフィスチェアはコクヨブランドとして全国で販売され、全国シェアは約2割。
 さらに、みなさんがご覧の液晶テレビ。その薄型画面のほとんどは、タカノ製の装置で検査されたパネルが使われている。
 事務用いす、液晶パネル検査装置でトップシェアを誇り、東証一部上場。さらに新たな挑戦を続ける企業、それがタカノなのだ。

タカノの成長を支えたオフィスチェア

あなたの座るそのいす、実はタカノ製

 「オフィスチェアの全国シェア約20%」なのだが、このことはあまり知られていない。なぜ同社の名前が一般的でないのか。それは、コクヨのOEM=相手先ブランドによる製造、だからだ。タカノが生産したいすは、すべてコクヨの名前で全国に出荷されている。
 表に名前は出ることはないが、全国シェアを聞けば、そのすごさはご理解いただけるだろう。同時にOEMで業績を伸ばしたタカノに対して単なる「製造メーカー」のような印象を受けるかも知れない。しかし、工場に足を運ぶとそのイメージが一変する。

タカノは下請企業なのか?

 入り口にKOKUYOの看板を掲げる、タカノ下島工場。
 工場内には大型の製造ラインが見当たらない。多くの従業員が、製品ごとに区分けされた持ち場で、一脚一脚組み立て、何度もその座り心地などを確認している。
 約1000種類にも上る同社のオフィス用いすは、機械でなく、人の手で最終的なチェックを受け、完成する。できあがったいすは、この工場からトラックで全国に出荷されている。
 工場には製造と並ぶ重要な部門がある。オフィス家具事業だけでも30人近い研究開発チームがいて、日々、新製品の開発や性能向上の道を追求している。
 例えば、今では当たり前になっているプラスチックが使われたオフィス用いすの脚。金属ではなく、樹脂を使ったのはタカノが日本で初めてだ。また、同社が開発、生産している新世代チェア「AGATA」。快適な座り心地を実現するため、一人ひとりの背骨の形の違いまで配慮した精妙なつくりで、高い支持を得ている。

超(スーパー)OEMタカノ

 コクヨとの関係を、わかりやすく言えば「分業制」だ。
 デザインと販売をコクヨが担当し、開発から設計、生産をタカノがになう。タカノの技術がなければ、コクヨブランドのオフィス用いすは存在しない。同様に、コクヨがあるからこそ業界でタカノが大きなシェアを確保できる。
 「お客様(コクヨ)よりも高い開発力を持つ企業をめざしているんです」誤解されては困ると前置きしての鷹野準社長の言葉だが、ここに同社のものづくりにかける真摯(しんし)な姿勢が示されている。
 開発そして生産、ものづくりに取り組むタカノをあえて表現するなら、企画提案型の『攻撃的OEM供給メーカー』だ。

高級オフィスチェアの最終チェックは、人の手によって行われる。最高の座り心地を実現するため、何度も細部の感触、小さな音、全体の安定性などを確かめる。

工場内は、個別に組み立てを行う「セル方式」を採用。同じオフィスチェアでも、色や形状、肘掛のあるなしによって、何千通りもの商品ラインナップとなる。ラインでの製造は不向きな製品なのだ。

椅子の売行きのピークは1月~3月。タカノでは年間120万脚ものいすを生産している。

創業のバネから飛躍、多方面に展開するタカノ

液晶ディスプレイ検査装置、世界トップシェア

 タカノのものづくりを支えるのは、「挑戦」だ。
 創業1941年。バネ製造を行っていた同社は、その技術を生かして1962年にオフィス家具を開発。1968年からOEMを始めて大きく成長した。
 そして現在のタカノは、オフィス家具のOEM生産と並ぶもう一つの柱を「挑戦」によって打ち立てた。それが世界トップシェアを誇る液晶ディスプレイ検査装置だ。

独自ブランドへの強い憧れ

 「会社の寿命は短く、29年と言われる。しかし経営者はぜったいに会社をつぶしてはダメ。それには、うまくいっているときに次の事業を始めていかなければならないのです」と鷹野社長。
 1983年、大胆な攻めに出る。
 「新規事業開発担当部門」を設置し、まったく違う新しい分野に挑戦した。信州大学に共同研究を持ちかけて、検査装置の開発に成功。1985年にはエレクトロニクス関連事業へ進出し、1987年、ついにCCDカメラを用いた画像検査装置(現在の液晶ディスプレイ検査装置の原型)を商品化したのだ。

「精度」と「スピード」で独自ブランドを世界に

 同社は、ディスプレイ検査装置という新たな分野で、高い技術力を背景にシェアを拡大していった。その技術の核は「精度」と「スピード」だ。
 「液晶ディスプレイ大型化」への性急なニーズに対応し、同社はわずか10ミクロンのきずを見つけ出せる技術を確立。さらに、小型ディスプレイと変わらない「スピード検査」を実現した。
 ディスプレイの市場拡大とともに同社の検査装置も売り上げを伸ばし、これまでに国内600台のほか、韓国に300台、台湾に400台を出荷。世界トップクラスの企業となった。

「人が考えないことをやる!人が出来ないことをやる!」それがタカノの企業風土。鷹野社長が目指すのは、常にあらたな挑戦を続ける「研究開発企業」である。

ディスプレイ検査装置は、まったく新しい挑戦だった。新規市場・新規商品の多角化経営に成功した背景には、地元の信州大学との連携があった。しっかりと地域に根ざした経営が奏功したのだ。

検査装置の「精度」と「スピード」は、搬送する技術、高精度カメラ、欠陥を発見するプログラムによって確立した。


耕し、種をまき、育てる…タカノのものづくり

20年ごとに新たに育つ ものづくりの芽

 1941年にバネで創業。60年代に家具のOEM、そして80年代にエレクトロニクス進出。タカノは、20年に一度「脱皮」する企業である。
 だからこそ、「29年の壁」を越えて、成長し続けてきた。
 そして2004年、同社は東証一部に上場を果す。
「新しいものを生み出すのは、知恵と創意工夫。機械やコンピュータが生むのではない。一人一人の社員です。」そう強調する社長。上場を果した最大の目的は、ものづくりを支える独創的な人材の確保だった。

タカノ「未踏への挑戦」

 確立した液晶パネル検査の技術を生かし、他の平面パネルなど新たな分野の検査装置へ事業展開を行う同社。さら未知の分野も視野に、有機ELや半導体、太陽光発電など新しい顧客づくりをめざした商品開発も進めている。
 また、オフィス家具で蓄積したノウハウを生かし、車いすなどの福祉器具も独自開発するタカノ。新しい挑戦のキーワードは「健康」だ。

新たに生まれた観光名所

 タカノがまいた様々な「挑戦」の種は、今、新しい芽を出しつつある。
 初秋になると、一面に赤いじゅうたんを敷き詰めたようなかれんな花を咲かせる「高嶺(たかね)ルビー」の畑。ここ数年、信州伊那谷を中心に栽培が盛んな「赤いソバの花」は、その美しさから観光資源として各地で積極的にPRされている。
 このソバの種も、実は、タカノが信大農学部と共同で開発したのである。
 オフィスチェアと液晶検査装置という事業の柱に安住することなく、常に新しい挑戦を続ける。それがものづくり企業タカノの強みでもある。
 私たちの身のまわりに、気がつけば長野県生まれのタカノの技術。「100年企業」をめざすタカノの挑戦は、これからも続く。

液晶ディスプレイ検査装置の組み立ては、全てクリーンルーム内で行われる。優秀なエンジニアに支えられ、世界トップシェアの商品へと成長した。

タカノのものづくりへの挑戦はまだまだ続く。自社で開発したレーザー加工装置で作成した、指先にのる自転車(上)と、マッチの先端に描かれたイラスト(下)マッチを発火させることなく、微細な作業が可能である。

タカノの新たな分野「健康」。歩行補助装置や、食品の分野にもタカノスピリッツが生かされる。


【取材日:2008年8月11日】

企業データ

タカノ株式会社
長野県上伊那郡宮田村137 TEL.0265-85-3150
http://www.takano-net.co.jp/